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EXILEドラマが見せる、成熟した男たちの群像劇 『ワイルド・ヒーローズ』の可能性と課題とは

2015年05月23日 19:31  リアルサウンド

リアルサウンド

『ワイルド・ヒーローズ』公式ホームページ

 日本テレビ系日曜夜10時30分から放送されている『ワイルド・ヒーローズ』は、新しいドラマ枠「日曜ドラマ」の第一弾となる作品だ。すでに次クールでは少年ジャンプで大ヒットした漫画『デスノート』のドラマ化が決まっており、新しい若者向けドラマの流れを生み出すのではと、期待されている。


参考:ドラマ『She』が描く“断片化した現実”とは? [Alexandoros]の劇伴から考察


 『ワイルド・ヒーローズ』は、10年前につるんでいたヤンキーグループ「風愛友」(フー・アー・ユー)の仲間たちがある少女をヤクザたちから守るために再結集し、バラバラだった絆を取り戻すという物語だ。


 主演のキー坊を演じるのはEXILEのTAKAHIRO。「風愛友」の仲間たちを演じるのは青柳翔、野替愁平、八木将康といった劇団EXILEのメンバーと岩田剛典、黒木啓司、佐藤大樹といったEXILEメンバー。


 つまり、EXILEグループの俳優を主演に揃えたEXILEドラマである。


 EXILEドラマは、EXILEのメンバーもしくは派生ユニットのメンバーが主演を務めるドラマのことだ。元EXILEのリーダーだったHIROが代表取締役をつとめる芸能事務所LDHの俳優が中心となって作られているのが大きな特徴だ。


 EXILEドラマには、二つの系譜がある。一つはAKIRA、松本利夫などの30代のメンバーが主演を務める作品だ。


 代表作は『町医者ジャンボ』、『ビンタ!~弁護士事務員ミノワが愛で解決します~』(ともに日本テレビ系)などで、『GTO』(フジテレビ系)もここに含めていいだろう。おそらく狙っているのは、かつて長渕剛が主演をつとめた『とんぼ』(TBS系)や『しゃぼん玉』(フジテレビ系)の男臭い世界観だ。


 もう一つは、劇団EXILE出身の若手俳優が出演する群像劇だ。『ろくでなしBLUS』や『シュガーレス』(ともに日本テレビ系)など、ヤンキーが主人公の学園モノが多い。


 映画『クローズZERO』のヒット以降、ヤンキーの群像劇は映画やドラマでは定番化しているジャンルだが、EXILEのような大人数のグループを束で見せる際にはとても重宝する枠組みだ。


 ダンスグルーブということもあってか、アクション活劇とも相性がよく、活きのいい若手俳優を発掘するためのショーケースのような役割を果たしている。


 他にも『フレネミー~どぶねずみの街~』(日本テレビ系)のような闇社会で生きる若者を描いた作品も多く、不良やヤクザが多数登場し、殴り合いや銃撃戦といった喧嘩で事件を解決するドラマが多い。


 『ワイルド・ヒーローズ』は、これらの要素そすべて盛り込んだ総決算的な作品だ。主人公たちも元不良で、今は社会人として地道に生きている29歳の青年たち。ドラマ自体はシンプルな構成で毎回、クライマックスでは激しいアクションも用意されている。


 30代になっても、どこか少年の面影が残っているジャニーズアイドルやイケメン俳優に対し、EXILE系の俳優の強みは、鍛え抜かれた肉体に象徴される成熟した大人の男性像を演じられることだ。


 『ワイルド・ヒーローズ』のキー坊たちも、営業マンやバイク屋、カラオケ屋の店長、クリーニング屋、トラックの運転手など、堅実な仕事を持っている。


 医者や弁護士といった華やかな職種ばかりのテレビドラマの世界では、なかなか描かれない肉体労働者の感覚を体現しているのがEXILE系の俳優たちなのだ。


 しかし、俳優たちの躍進に比べ、そのポテンシャルを生かした世界観をEXILEドラマが構築できているかというと、残念ながら、まだまだ物足りないというのが現状だ。


 『ワイルド・ヒーローズ』の地方都市でくすぶっている元ヤンキーたちが、少女を守るために、ヤクザや殺し屋と戦うという世界観は、映画秘宝が好きなボンクラ系のオタクに受けそうなモチーフだが、肝心のドラマ自体は、それっぽい要素を並べただけで、イマイチ踏込みが浅く感じる。


 複数の男たちが少女を守るという物語も、宮崎駿のアニメのようなオタク的な官能性がにおい立ってもおかしくないのに、どうにも映像が淡泊なのだ。


 おそらく、今のEXILEドラマに足りないのは、彼らの肉体に対してフェティッシュな欲望を見出して妄想の世界を展開したり、逆にEXILEという概念をオモチャにして批評的に遊ぶような、外部からの視線だろう。


 これはジャニーズアイドルが出演するドラマと比べるとよくわかる。


 ジャニーズドラマが意欲的なのは、先鋭的な脚本家や演出家が自由に振るうことをある程度、許容しているからだ。例えば、宮藤官九郎が脚本を担当した『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』(ともにTBS系)や、野島伸司が脚本を担当した『49』、『お兄ちゃん、ガチャ』(ともに日本テレビ系)などは、ジャニーズアイドルという存在を批評的に読み込んだうえで面白いドラマに仕上げている。こういったセンスが、EXILEドラマには欠落している。


 とはいえ、『ワイルド・ヒーローズ』は、過去のEXILEドラマと比べるとやりたいことが、かなり明確になってきている。


 あとはそのEXILE的世界観をどうやって構築するかだけなのだが、そのためにはジャニーズドラマにおける宮藤官九郎や野島伸司のような、批評的に介入することによって、EXILEの魅力を引き出すことができるクリエイターとの出会いが必要だろう。(成馬零一)