トップへ

ナノが2年ぶりドイツ公演で見せた“言語の壁”を超える瞬間 『Rock on Germany.』現地レポート

2015年05月23日 15:21  リアルサウンド

リアルサウンド

ドイツで『Rock on Germany.』公演を行ったナノ。

 ナノが5月22日(現地時間)、ドイツ・デュッセルドルフにて『Rock on Germany.』と題した単独ライブを行った。このライブは23、24日にデュッセルドルフのコンベンションセンターにて開催されるイベント『DoKomi 2015』の前夜祭として実施されたもの。ナノは2年前の2013年5月にも同イベントにてライブを行った実績を持ち、前回はバックトラックを使用したソロ公演だったのに対し、今回はバンドメンバーも同行した日本と同じスタイルでのライブとなった。


(参考:バイリンガルシンガー・ナノが新作で“真のデビュー”に到達ーー初ライブからの2年を振り返る


 今回で7回目を迎える『DoKomi』はアニメ、マンガ、音楽、コスプレ、ゲームなど日本のポップカルチャーを紹介するコンベンション。徐々に開催規模が拡大され、今年は2日間通して約1万8000人の動員が見込まれている。前売りチケットは事前にソールドアウトしていることからも、その人気ぶりは伺えると思う。


 私自身も前回、そして今回のドイツ公演に同行させてもらっているのだが、2年前の初ドイツ公演(しかもこの際のライブが、ナノにとって通算2度目のライブ経験)でナノがいかにドイツで受け入れられているかを目の当たりにし、衝撃を受けた1人だ。もちろんナノの楽曲にアニメやゲームのタイアップが多く付いていることで、海外のアニメファン / ゲームファンにも浸透しているというのもあるが、やはりニコニコ動画やYouTubeなどの動画配信サービスを通じてナノの存在を知った海外リスナーも多いようだ。特に今回のライブはクラウドファンディング形式でチケットを販売し、これによって得た利益でバンドメンバーやスタッフの渡航費を捻出したのだ。


 コンベンションセンターは翌日の本開催を控え、まだ場内でさまざまな催しの準備の真っ最中。つまりこの日会場を訪れた観客はすべてナノのワンマンライブのためだけに会場に足を運んだことになる。そんなハードコアな海外のファン層を観察してみると、意外にも日本人の数が前回以上に少ないことに気付く。パッと見ではそのほとんどが現地、もしくは近隣から集まった外国のファンという印象だ。また本開催前ということで、コスプレをした観客の姿も見受けられなかった(前回のライブは本開催中だったこともあり、客席には日本のアニメキャラクターのコスプレをした現地ファンも少なくなかった)。多くの観客はナノのグッズ(ツアーTシャツやパーカー、中には手製のTシャツやお面も)を身に付けており、その点においては日本のファンとなんら変わりない。しかし、やはりここは海外なのだ……と気付かされる瞬間もたびたびあり、それは観客の着ているTシャツに「武士道」などインパクトのある日本語の単語がプリントされているのを見たとき。このときばかりは思わず現実に引き戻されてしまったというのが本音だ。


 さて、改めてライブの感想についても記していきたいと思う。会場が暗転し最新アルバム『Rock on.』収録曲のMVを用いたオープニングムービーが上映されると、客席からは悲鳴にも似た大歓声が沸き起こる。そしてイントロに合わせてナノがステージに現れると、その盛り上がりは早くもピークに達し、「SABLE」から勢いよくライブはスタートした。ライブ序盤は「identity crisis」「Born to be」といったアルバム『Rock on.』からのナンバーを連発。ナノは英語とドイツ語を駆使したMCで、現地のファンとコミュニケーションを図る。そして「Are you ready to jump?」の問いかけに続いてアッパーな「JUMP START」、ドラマチックな展開を持つ「Scarlet Story」、グルーヴィーなリズムの「BE FREE (WITH MUSIC)」などで再び会場の熱気を高めていった。


 この日の目玉となったのは、ライブ中盤に披露された新曲「Freedom Is Yours」だろう。エレクトロビートとシンセの音色が気持ちよく響くこの曲に対し、会場のファンはほかの既発曲と変わらないほど大きな声援を送る。さらにアコースティックギターのみを伴奏に歌うパートでは、観客が両手を挙げて左右に振ったりカラフルなペンライトを高く掲げたりと独自の方法でライブを盛り上げる。さらに面白いのは、しっとりとしたバラードナンバーでも盛大な拍手は歓声、さらには手拍子などが沸き起こり、こういうところから日本との国民性の違いを強く感じたりもした。


 ライブは「No pain, No game」から後半戦に突入。この曲に対してはナノが曲名をアナウンスした瞬間にそれまで以上の大歓声が上がり、冒頭のサビパートでは日本語を含む歌詞を大合唱する場面もあった。日本にいるだけでは知り得ないこういう瞬間に立ち会うと、本当に支持されているアーティストというのは言語の壁をいとも簡単にぶち壊してしまうパワーを持っているんだなと実感できるのだから、本当に面白い。


 最高の盛り上がりの中、ナノは本編ラストに最新アルバムのタイトル曲「Rock on.」をパワフルに歌い上げ、ステージを後にした。ここまで海外のファンを中心に触れてきたが、改めてナノ自身の成長ぶりについても触れておきたい。2年前のドイツ公演はバンドメンバーなし、たった1人でステージに立つという心細い状況だったし、ライブ自体も絶対的な経験数が足りなかったことで、決してベストと呼べるようなパフォーマンスではなかったのかもしれない。しかしアルバム『Rock on.』発売後に行ったライブハウスツアーを経験したことで、ライブ1本を最後までやり通すだけの実力を身に付け、さらに観客の煽り方やコミュニケーションの取り方もより自然なものへと進化している。ナノ自身もいろいろな環境でのライブを経験したことで、間違いなく真のライブアーティストへと進化を遂げたのだろう。それはこの日のライブを観ただけでも十分に伝わってきたし、ライブ本編が終わった後すぐに発生したアンコールを求める観客のリアクションからも伺い知ることができた。


 アンコールではデビューアルバム『nanoir』のオープニングナンバー「magenta」、アニメ『ファイ・ブレイン~神のパズル』第2シリーズのオープニングテーマ「Now or Never」と人気曲を連発。そして「またドイツに戻ってくるよ。You guys so awesome!」といううれしい言葉とともに、スケール感の大きなミディアムチューン「Dusty Mirror」で約90分におよぶドイツワンマンライブを締めくくった。


 ライブ終了後には、クラウドファンディングでプレミアムチケットを購入したファン100数十名と、ピースサインの記念撮影やグッズへのサインを含む握手会も実施された。ここでは事前に渡された用紙やアルバム『Rock on.』のブックレットに加え、Tシャツやパーカー、自作のお面、さらには自分の腕やパスポートを差し出し、ナノにサインをしてもらおうとするファンが続出。ナノは1時間以上をかけてファン1人ひとりとコミュニケーションを図り、2年ぶりのドイツ滞在を満喫した。4月の台湾公演に続いて行われた海外ライブ。9月にはインドネシアでのイベント出演も決定しており、今後も国内外で精力的なライブ活動が期待できそうだ。(西廣智一)