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万引きした男性が「てんかんによる心神喪失」で無罪になったのはなぜ?弁護人に聞いた

2015年05月23日 12:01  弁護士ドットコム

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東京都内の家電量販店でゲームソフト等を万引きしたとして、窃盗罪に問われた50代の男性に対し、東京地裁立川支部は4月中旬、無罪(求刑懲役1年10月)を言い渡した。男性は当時、けいれんを伴わない「てんかん」の症状によって「心神喪失の状態」だったと認められたためだ。


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報道によると、男性は2013年9月、都内の家電量販店でゲームソフトやヘッドフォンなど計4万5530円相当を万引きしたとして、窃盗の疑いで起訴されていた。公判では、責任能力の有無が争点となり、男性の精神鑑定が行われたという。



鑑定した医師は、男性が「NCSE」と呼ばれる、けいれんを伴わないてんかん発作が続く状態だった可能性が高いと指摘。判決は鑑定結果を「高い信用性がある」と評価し、「被告人は当時、行動を制御する能力がないに等しい状態だった疑いがぬぐえない」と判断した。



この裁判で、男性の弁護を担当した林大悟弁護士は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「NCSE(非けいれん性てんかん重積状態)が、窃盗のような故意犯で論じられるのは、我が国の刑事司法において、おそらく初めてではないか」と指摘。「同種事件の画期的先例となる判例」と説明する。



●発作の影響で「理性で抑えられる欲求を抑えられなくなる」


その林弁護士によれば、NCSEとは、以下のような病気だ。



「NCSEとは、けいれんを伴わないてんかん発作です。そのため、一見すると、普通に行動しているように見えます。しかし、脳内では電気の嵐が生じており、様々な異常な症状が発生します。NCSEの状態では、意識障害(分別もうろう状態)が主要な症状となります。行動を制御できなくなることも、NCSEの症状のうちのひとつです」



だが、発作が起きている状態で、万引き行為ができるものなのだろうか?



「NCSEの場合、完全に意識が失われているわけではありません。そのため、本件がそうであったように、商品の位置等を確認したり、防犯タグを外そうとする行為自体をできる場合はあり得ます。しかし、発作の影響により、周囲に対する注意や認識、思考力が著しく低下したり、衝動が抑えられなくなっている場合があるのです。鑑定医はその状態を『夢の中で行動しているような状況』と表現していました。」



●今回の判決は「同種事件の画期的先例となる判例」


今回の判決に対しては、ネット上で「てんかんの人への偏見が助長されるのでは」など様々な意見が見られた。林弁護士は今回の判決内容を、どう見ているのか?



「本件の被告人の犯行態様は、付近に客がいるにもかかわらず、持っていた自分のバイクのキーで商品のクリアケースを執拗にこじ開けようとして鍵を曲げてしまうなど、明らかに異常なものでした。



判決は、被告人の周囲に対する注意や認識、思考力が通常の状態ではなかったと推測される諸事情をていねいに認定したうえで、鑑定意見を尊重して、行動制御能力はないに等しい状態だった合理的疑いが払拭できない旨を判示しました。



私の知る限り、NCSEが窃盗のような故意犯で論じられるのは、我が国の刑事司法においておそらく初めてではないかと思われます。



判決は、NCSEが本件犯行に与えた影響を正確かつ詳細に認定し、被告人に無罪を言い渡しました。同種事件の画期的先例となる判例です。判決の内容も優れており、検察官も控訴をすることなく一審で確定しました」



最後に林弁護士は、NCSEという病気への理解を呼びかけた。



「本件犯行は専門医の鑑定により、NCSEが原因で引き起こされたと認定されましたが、NCSEが必ず犯罪に結びつくわけではありません。私が取材に応じたのは、この点を強く訴えたかったからです。くれぐれも、NCSEの患者さんに対する不当な偏見が広まらないことを願います」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
林 大悟(はやし・だいご)弁護士
横浜弁護士会所属・全国万引犯罪防止機構正会員・一般社団法人アミティ代表理事・日本労働弁護団常任幹事・一般社団法人弁護士業務研究所理事。主にクレプトマニア患者や認知症に罹患した高齢者の万引き事件等に特化して全国で弁護活動をしている。
事務所名:鳳法律事務所
事務所URL:http://yokohamaootori-law.com/