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YouTube、過去10年の再生ランキングから見えた傾向とは? AKB48らの作品から考察

2015年05月22日 19:51  リアルサウンド

リアルサウンド

AKB48『ヘビーローテーション<Type-A>』(キングレコード)

 動画投稿サイト「YouTube」が、2005年5月のサービス開始から10周年を迎え、過去10年の最多視聴動画とともに、日本国内で視聴されたミュージックビデオの上位20作品が発表された。ランキングは、2005年のサービス開始から2015 年5月1週目までに公開されたミュージックビデオの中から、日本国内における再生や共有の回数、コメント、評価などの数値を基準に選出されているとのこと。トップ20は以下のとおり。(参考:ORYCON STYLE)


参考:ビルボードジャパンが「複合チャート」を作る意味とは? 担当ディレクターに狙いを聞く


1位・【MV】 ヘビーローテーション / AKB48 [公式]
2位・『アナと雪の女王 MovieNEX』レット・イット・ゴー ~ありのままで~/エルサ(松たか子)<日本語歌詞付 Ver.>
3位・【妖怪ウォッチ】ようかい体操第一
4位・【MV】恋するフォーチュンクッキー / AKB48[公式]
5位・SEKAI NO OWARI「RPG」
6位・少女時代 / MR.TAXI (DANCE VER.)
7位・【MV】 ポニーテールとシュシュ / AKB48 [公式]
8位・PSY - GANGNAM STYLE M/V
9位・【MV】 Everyday、カチューシャ / AKB48[公式]
10位・三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE / 「R.Y.U.S.E.I.」Music Video
11位・【MV】フライングゲット (ダンシングバージョン) / AKB48 [公式]
12位・Taylor Swift - We Are Never Ever Getting Back Together
13位・きゃりーぱみゅぱみゅ - つけまつける , Kyary Pamyu Pamyu - Tsukematsukeru
14位・きゃりーぱみゅぱみゅ - PONPONPON , Kyary Pamyu Pamyu - PONPONPON
15位・行くぜっ!怪盗少女/ももいろクローバー(IKUZE! KAITOU SYOUJO/MOMOIRO CLOVER)
16位・E-Girls / Follow Me ~Short Version~
17位・きゃりーぱみゅぱみゅ - にんじゃりばんばん,Kyary Pamyu Pamyu - Ninja Re Bang Bang
18位・ケツメイシ『バラード』PV
19位・『アナと雪の女王 MovieNEX』生まれてはじめて/アナ(神田沙也加)&エルサ(松たか子)
20位・AAA / 「恋音と雨空」Music Video


 AKB48が「ヘビーローテーション」や「恋するフォーチュンクッキー」など全5曲をトップ20入りさせ、その高い人気を改めて示したほか、2~3位には、いずれも社会現象となった『アナと雪の女王』の「レット・イット・ゴー ~ありのままで~/エルサ(松たか子)」と、『妖怪ウォッチ』の「ようかい体操第一」がランクイン。ほか、きゃりーぱみゅぱみゅやSEKAI NO OWARIなどの若手ミュージシャンの名前も目立った。


 今回発表されたランキングについて、専門家はどう見るのか。音楽チャートに詳しい物語評論家・ライターのさやわか氏に聞いた。


「まずこのランキングを見て感じたのは、カラオケのランキングに似ているということです。CDのセールスで集計するオリコンランキングなどでは、発売して間もない話題作が上位になりますが、それとは異なる結果で、かといってロングヒットを続けている作品が入っているかというと、それとも少し違う。カラオケでみんなが歌いたくなる曲、あるいはみんなで踊りたくなる曲がよく再生されている印象を受けます。たとえば上位を席巻しているAKB48の「ヘビーローテーション」や「恋するフォーチュンクッキー」は、振り付けも込みで観ているのでしょうし、『妖怪ウォッチ』の「ようかい体操第一」や、三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEの「R.Y.U.S.E.I.」なども、真似して踊りたくなるミュージックビデオです。「レット・イット・ゴー」や「RPG」などは、みんなが歌いたいタイプの曲なのでしょう」


 たしかに上位のミュージックビデオは、いずれもダンスや合唱そのものが流行したものが目立つ。


「再生回数が高く伸びているミュージックビデオには、曲が良いということももちろんあるでしょうが、それ以外に“歌や踊りを覚えるために、また動画を見ながら自分も一緒に踊って楽しむために何度も視聴される”という傾向があると思います。そしてその背景には、自分たちで撮った動画をネットにアップロードする、ニコニコ動画の「歌ってみた」や「踊ってみた」といったカルチャーに近いものも感じさせます。また、今回のランキングでは、大人から子どもまで楽しめるミュージックビデオが多いのも特徴です。たとえ『妖怪ウォッチ』であっても、アニメは子どもだけではなく、その父兄が観ても楽しめるような工夫が随所に散りばめられています。もちろん、子どもと一緒に歌ったり踊ったりする人もいるでしょう。このように支持層が広いコンテンツが、音楽を一種のハブとして利用し、人々にコミュニケーションを促しているというのが、上位にランクインしているミュージックビデオのひとつの傾向かもしれません」


 また、こうした傾向は今後の音楽のあり方にも影響を与える可能性があると、同氏は続ける。


「最近では、レコード会社もそういった需要を意識しているのか、動画ありきで制作されるものも増えてきたように思いますし、そうなると今後、音楽の受容の仕方が変わってくるのかもしれません。たとえばケツメイシの「バラード」などは、ストーリー仕立てになったミュージックビデオが楽曲と同じくらいに重要なコンテンツで、まさにYouTubeを意識した作品のひとつです。MTVが流行した時代からストーリー性のあるPVはありましたが、最近のものはよりネットなどの口コミで話題になることを意識してるのが少し違うところだと思います。また、かつて音楽は、楽曲そのものや歌詞を作品として楽しむ傾向が強く、音楽性が高い作品が求められたかもしれませんが、今後は音楽性だけではなく、より“みんなで踊れる”とか“泣けるストーリー”といった付加的な要素も求められていくでしょう。一方で、YouTubeの動画再生は前述したように、振り付けなどを覚えるために何度も観ているものでもあるので、このランキングで上位になることが純粋に音楽作品としての完成度の高さを担保しているものではないということは、意識したほうが良いのかもしれませんね」


 YouTube開設から10年、いまやすっかり音楽を楽しむツールのひとつとして定着したが、そのメディアの特殊性が、日本の音楽業界の今後を左右するのかもしれない。(松下博夫)