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日本初開催! レッドブル・エアレース千葉大会(土曜・予選編)

2015年05月22日 17:21  おたくま経済新聞

おたくま経済新聞

日本初開催! レッドブル・エアレース千葉大会(土曜・予選編)

前夜から降り出した雨が朝まで降り続き、ハンガー前には水たまりもできていた土曜日。予選日です。


【元の記事はこちら】


金曜に較べれば風は少ないものの、特設滑走路からすると横風。テストフライトを終えたチャレンジャークラスの使用機、エクストラ330LXは、進行方向とは違う風上に機首を向けたままの「クラブ(カニ歩き)」という体勢で着陸していました。


ハンガーには、チームごとに配られた「◯◯組」ののぼりが。各チームは思い思いの場所に設置していました。


来日以来、積極的に日本語を吸収しているルボット選手。ニックネームの「ズール(Zool)」が日本語では「ずる」に聞こえるということをネタにしていましたが、我々と話す際に「オハヨーゴザイマス」、別れる時は「アリガトウ。マタネ」としっかりした発音で挨拶するまでに上達。のぼりも気に入っていたようです。


当初金曜日に予定されていたトレーニングフライトセッションは、予選の直前に設定されました。各選手、初めて千葉のトラックを飛びます。


このトレーニングフライトセッションでの最速タイムは、ハンネス・アルヒ選手の51秒063。ポール・ボノム選手の51秒609、マティアス・ドルダラー選手の52秒205が続きます。


飛行タイム自体はマット・ホール選手が51秒383、室屋選手が51秒581をマークしていたのですが、それぞれシケインを抜けて折り返し点の手前にあるゲート4で姿勢違反(インコレクト・フライトレベル)があり、2秒のペナルティが加算されました。


■いよいよ予選


トレーニング終了の1時間後、予選が始まります。この予選タイムの順位で、決勝の緒戦「ラウンド・オブ14」の組み合わせが決まります。予選トップと最下位、2位と13位……という具合。


この予選でトップに立ったのは、フランスのニコラス・イワノフ選手。51秒102でした。2番手はドイツのマティアス・ドルダラー選手で51秒532。51秒653をマークしたイギリスのポール・ボノム選手が3番手。


トレーニングフライトセッションで最速タイムをマークしたオーストリアのアルヒ選手は、全体2位となる51秒416をマークしたものの、シケインを抜けた直後のゲート3で姿勢違反(インコレクト・フライトレベル)をとられ、2秒加算で53秒416となり、予選12位に沈みました。


新型機エッジ540「V3.5」を投入した日本の室谷義秀選手は52秒429で9位。6位になったチェコのマルティン・ソンカ選手(チェコ空軍、元JAS39グリペンの戦闘機パイロット)とラウンド・オブ14で対戦することになりました。これは前のレースであるアブダビと同じ組み合わせ。この時は室屋選手が勝利してラウンド・オブ8に進出しましたが、どうなるでしょうか。


また、フランスのフランソワ・ルボット選手はエンジントラブルで離陸を中止。DNS(スタートせず)となり、予選最下位扱いとなりました。後に


「マグネトー(エンジンの点火プラグに電気を供給する発電装置)が不調になって、エンジンがバラついて危険だから離陸を取りやめたんだ。直前のトレーニングフライトでは問題なかったんだけど、その後エンジンを止めて、予選に向けてエンジンを始動させたら、いきなりダメになった」


とのコメントがありました。


■予選を終えて


予選終了後、幕張のメディアセンターに作られた会場で、予選後の記者会見が行われました。出席した選手は、予選トップのイワノフ選手、昨年のシリーズチャンピオンであるラム選手、そして地元開催となる室屋選手。加えて、レースディレクターのスティーブ・ジョーンズ氏が同席します。


▼予選トップのニコラス・イワノフ選手


>「自分にとってはいい結果だった。トレーニングフライトで色々攻め方を試していたんだけど、予選では戦術を変えて臨んだのがいい結果に繋がったんだと思う」


昨シーズン2勝(第6戦フォートワースと最終第8戦シュピールベルグ)しているイワノフ選手ですが、明日の決勝でも勝てるかという質問には


「優秀なパイロットが揃ってるけれども、今日の予選でいい結果が出て、自信を深めている。ただ、他の選手達も決勝に向けてさらに良くなっていくだろうから、また力を尽くすよ」


上位10人が1秒台の僅差にひしめく結果となった予選を受けて、チームとしてプレッシャーはあるかとの質問には


「ウチはいい人材が揃ってるけれども、日本・千葉は初めてだからね。多少のプレッシャーは感じている。ただ、我々のすることはひとつだよ。1秒台の10人に(昨シーズンの)トップ6が揃っている(アルヒ選手は12位でも、タイム自体は2位相当)から、非常に僅差の面白いレースになるだろうね」


今回、初めて日本でレースをしてみた感想は


「初めて日本に来て、日本の友(これは友人ではなく、エアレースのファン等を指すものと思われます)は素晴らしいし、トレーニングや予選で飛んでいる時、地上を見るとビーチ沿いにたくさんの人が見に来てくれて、熱心に応援してくれているから、明日はさらにいいところを見せられるように頑張るよ」


▼2014年のシリーズチャンピオン、ナイジェル・ラム選手


シリーズチャンピオンとして臨むシーズン、今回の予選では11位(トップのイワノフ選手と2秒273差)とふるわぬ結果に終わったのですが、何らかのプレッシャーは感じているかという質問に


「これまではさほどプレッシャーは感じていなかったのだけれども、満足いかない結果となった予選終了後のこの1時間ほどは、じわじわプレッシャーを感じてきているね。でもまぁ、明日はまた、勝つ為に気持ちを切り替えていくよ。ちょっと今夜、色々調整しなきゃいけないことが多いと思うけどね」


通常2周するコース設定が、今回1周(これはコースが「おおむね60秒でレースが終わる」という基準で設定される為)、しかもこれまでで最も長い直線を持つコースについての感想を訊かれると


「トラックは1周だけれども、要求される要素は他の場所と同じだよ。速いタイムを出さなければ勝てないし、その為にチームの皆はベストを尽くす。今回は(トレーニングが予選直前だったこともあり)どのパイロットもトラックに習熟していないから、今夜は分析と最適なマシンセッティング、戦術を見つけ出すのに一生懸命じゃないかな。長い直線だけども、これはテクニックよりも速いマシンが有利かもしれないが、どれも同じような機体構造を持っているし……(手を広げて)どうかな」


▼地元開催となる室屋義秀選手


長年夢見ていた日本開催について


「2009年にデビューしてから、この日を夢見て、いろんな所に働きかけて準備を進めてきました。……6年以上かかりましたけど、やっとここ日本で、まず開催できて、レース機が知っている千葉、幕張の地を飛び回っているのは感慨深いものがありましたけど、それに浸ってる間もなくレースが始まってしまいましたけどね。……すごく興奮した一日になりました」


家族や友人、そして日本の皆が応援しているんじゃないかと思いますが、それがプレッシャーになっていないか、との質問には


「家族を含めて、多くの皆さんが見て頂いて、応援して頂いて励みになります。『プレッシャー』と言われるんですが、応援してもらえることで、レースの準備をするのは大変なんですが、モチベーションを高めてくれて、それでレースまでたどり着いたと思っているので、本当に感謝しています。明日に関しては、これだけ多くの方(主催者発表で6万人)に見て頂いているのは判っているので、レーストラックに集中してフライトに専念したいと考えています」


この千葉大会から導入した新型機、エッジ540V3(俗に「V3.5」と呼ばれている)について


「V3を入れるにあたって……実は1年前にはこのタイミングで入れる予定はなかったんですけど、日本開催が決まって、何とか千葉戦に間に合わせようと、結構無理をして間に合わせました。まず福島で二週間ほどセットアップして、飛んで調整をしてきたんですけど、非常にいい出来になって千葉にフライイン(他選手の機体は、飛んでくるのではなく分解・梱包されて会場入りした)することになって、とっても満足しています。日本戦ということもあって、皆さんがこうして多く来てくれていますけど、皆さんのお力があって初めて機体の導入に繋がった、というのもあります。機体の性能は非常にいい、というデータが出てきていますんでね、楽しみにしているんですけど、まだ2回しかトラックを飛んでいないので、まだデータが不足していて、予選2回目のセッティングはあまり良くなかったんですけども(しかし予選タイムは、その2回目のものが採用されている)、今晩ずっと解析をしているんで、明日はベストセッティングに近付くと思います」


千葉の空については


「実は小学生の時、千葉(習志野市)に住んでいたことがあったので、ここら辺(幕張)は近所なんですよね。昔から知ってる場所で飛べるっていうのは、もちろん空の状態は子供の頃から知ってるんですけど『見慣れた景色』でレースをするっていうのは初めての経験だったんで、ちょっと違和感があったんですけど……。でも知った景色の中でレースをするっていうのは、初めての場所だとどこを飛んでるのか(位置参照点となる)場所を確認したりと、余計なことが増えるんですけど、それをしなくていいので、今日は楽しむことができました。……スカイツリーも見えました」


レースディレクターのスティーブ・ジョーンズ氏からは


「日本で開催したいと数年前から計画してきた。非常に多くのファンが来てくれて嬉しい。できるなら来年も千葉で、そして何年も続けて開催できれば、と思っている」


というコメントがありました。


■決勝、ラウンド・オブ14組み合わせ


予選の結果を受けて、決勝の緒戦となる「ラウンド・オブ14」の組み合わせが決まりました。2015年からは参加選手が12人から14人に増えたこともあり、緒戦のラウンド・オブ14からノックアウト(直接対戦)方式のラウンドが始まり、最終のファイナル4までに2回のノックアウトラウンドを経ることになりました。


予選10位対5位の対戦から始まり、最終組は予選トップと最下位の対戦となります。ヒート1:ピート・マクロード(予選10位) 対 マイケル・グーリアン(予選5位)


ヒート2:ナイジェル・ラム(予選11位) 対 マット・ホール(予選4位)


ヒート3:室屋義秀(予選9位) 対 マルティン・ソンカ(予選6位)


ヒート4:ハンネス・アルヒ(予選12位) 対 ポール・ボノム(予選3位)


ヒート5:フワン・ベラルデ(予選8位) 対 カービー・チャンブリス(予選7位)


ヒート6:ピーター・ベゼネイ(予選13位) 対 マティアス・ドルダラー(予選2位)


ヒート7:フランソワ・ルボット(予選14位) 対 ニコラス・イワノフ(予選1位)


この中で注目なのは、万人が認めるライバル、ボノム選手とアルヒ選手がいきなり戦うということでしょう。ここで見るのがもったいない好カードです。常に安定したフライトを見せるボノム選手に対し、一発の速さはあるものの、ムラッ気があり、メンタル面に課題を抱えるアルヒ選手。予選でもインコレクト・フライトレベルのペナルティがなければ、全体で2位相当のタイムをたたき出していただけに、いかに冷静に飛べるかが鍵になります。


また、同じMXS-Rを駆るラム選手とホール選手の対戦も見逃せません。ラム選手は2014年のシリーズチャンピオン、そしてラム選手は今シーズン緒戦を2位という好成績で千葉にやってきました。ラム選手と同じようにウイングレットを今年から装着し、いうなら「ウイングレット対決」といったところ。


そして、最終ヒート7はフランス人同士の対決。ルボット選手がレッドブル・エアレースに参戦するにあたって、イワノフ選手が先輩として相談にのったこともあるという間柄だけに、こちらも注目です。


室屋選手は今シーズン緒戦のアブダビに続き、またもソンカ選手との対戦。アブダビではソンカ選手の2秒ペナルティにより室屋選手が勝ち抜きましたが、実は単純にタイムだけで較べれば、ソンカ選手の方が室屋選手より0秒070速かったのです。スピードの出る新型機を手にした室屋選手がどういうフライトを見せるか、注目です。


(……まぁ、レース後に書いているので、結果は既にご存知だと思いますが)


※続編「日本初開催! レッドブル・エアレース千葉大会(日曜日・決勝ハンガー編)」は5月25日に掲載します。


(取材:咲村珠樹)