5月17日にスペインのマルカ紙がホンダS660の開発責任者である椋本陵(むくもと・りょう)エンジニアの発言を報じた。その後、ホンダは椋本氏が同紙の取材を受けた事実はないと内容を否定。モナコGPの現場で取材した結果、マルカ紙の記者が直接インタビューを行っていないことを認めた。
問題となった発言は、ホンダの椋本エンジニアが「今シーズン中に優勝が狙えるか?」という問いに「いいえ。来年も難しいでしょう」と答え、「今シーズンの目標は、終盤までに3番手のチームとの差を縮めること。現在の問題は、まだ限界まで持って行くことができていないこと。これまでのところ70%ほどのパワーしか出せていない」と語ったというものだ。
今季から新しくなったモナコのメディアセンターで、マルカ紙の記者を直撃した。この記事を書いたマルコ・カンセコは「読んでもらえばわかるように、これはFOX TVが行ったムクモト氏のインタビューを紹介した記事だ」と言う。
しかし、椋本エンジニアはホンダで史上最年少の開発責任者として新しいS660を手がけて注目を集めているが、F1プロジェクトには関わっていない。
そこで「そのFOX TVのインタビューはいつ、どこで行われたものか?」と尋ねると、記者は「知らない」と言う。「そのインタビューをテレビで見ていないのか?」と確認すると、次のように返答した。
「5月17日の午後に、仕事仲間のジャーナリストから『こんな内容の書き込みがイギリス・オートスポーツのウェブサイトにあった』とメールが届いたんだ。それはオートスポーツのファン・フォーラム(掲示板)で、FOX TVが行ったムクモトさんのインタビューについて書き込まれていた」
つまりマルカ紙の記事は、掲示板に書かれていたインタビューの内容をもとに翻訳して原稿にしたものだった。インタビューが実際に行われていたのかどうかは確認していないという。記者は「こんなに大きな話になって、びっくりしている」と語り、「この記事が間違っていてムクモトさんに迷惑がかかっていたら申し訳ない」と謝罪した。
しかし、このように言い訳を続けた。「私はムクモトさんが語ったという内容こそ、いまのホンダの現状を的確に言い表していると思う。ホンダのアライさんは、いまだに『勝利を目指して頑張っている』という姿勢を崩さないが、それが不可能ということは誰が見てもわかるじゃないか。だから、このインタビューを紹介して記事にしたんだ」と。
確かにマルカ紙が掲載した記事には疑問点が多く、事実と違う内容を報じてしまったのであれば、いかなる理由があれど、マルカ紙はホンダと椋本氏、そして読者に対して謝罪すべきだろう。だが、いまホンダが最優先でやらなければならないことは、このような記事に反論することではなく、パフォーマンスを上げること。フェルナンド・アロンソとマクラーレン・ホンダへの注目度が非常に高いスペイン国内メディアの記者だけではなく、多くのヨーロッパのジャーナリストの間で「ホンダは本当に勝てるのか?」という論調が強くなっている。私は「ホンダなら、できる」と信じたい。
(尾張正博)