今年も6月13~14日にかけて、伝統のル・マン24時間レースが開催される。1923年初開催。今年で83回目の大会を迎える(途中10回の開催中止年がある)。
今年のル・マン24時間レースで優勝候補と目されるのは、アウディ、ポルシェ、そしてトヨタの2者である。今季のWEC(世界耐久選手権)2戦でも、これら3メーカーが僅差のレースを繰り広げており、今から勝者を予測するのは非常に難しい。ましてや、24時間という長丁場のレースである。何が起きるか分からない。
優勝候補3メーカーの中で、トヨタのみがル・マン未勝利である。ポルシェは現在ル・マン(WEC)復帰2年目ながら、通算の勝利数は史上最多の16勝。アウディは13勝とポルシェに僅かに及ばないものの現在5連覇中と、絶対的王者の名を欲しいままにしている。トヨタは、昨年ポールポジションを獲得したものの、勝利に繋げることはできなかった。
そのトヨタがル・マン24時間レースに参戦を開始したのが、1985年。もう30年も前のことである。この時のマシンは、85C-L。この85C-Lは、トムスが童夢と共同で開発したマシンで、トムスが企画を、童夢が設計と製造を担当している。両者のコラボレーションは1982年の82Cに始まり、83C、84Cと進化し、この85Cに繋がっている。
基本的には1985年の全日本耐久選手権用マシンである85C。空力面に配慮した流麗なボディカウルが特徴的である。ヘッドライトも路面スレスレの所に設けられ、近未来的な外観。搭載されていたエンジンは、トヨタ製4T-GT改。市販車用をチューンアップした、2090cc直4ターボエンジンである。トヨタは当時大出力のレース用エンジンを持っておらず、非力ではあるものの、このエンジンで戦うしかなかった。
この年の全日本耐久選手権は、ポルシェが猛威をふるっていた時代のまっただ中。開幕戦こそ前年使用の84Cを走らせた童夢・トヨタが勝利していたものの、全6戦中4戦でポルシェが勝利していた(もう1戦はマーチ85G日産が勝利。ちなみにこのレースは、WECの日本ラウンドとして開催されたレースである)。
85Cをル・マン仕様に仕立てた85C-Lは、この年のル・マン24時間レースに2台が出走。1台がトムス、もう1台が童夢からのエントリーである。
トムスの85C-Lに搭乗したのは中嶋悟、関谷正徳、星野薫というメンバー。メインスポンサーは、アパレルメーカーのレイトンハウスである。しかし、市販車ベースの4T-GTエンジンではパワーが足りず、ル・マンの最も長いストレート“ユノディエール”では、最速マシンより70km/h以上もトップスピードが劣っていたという。
29番グリッドからスタートしたレースは我慢の展開となったものの、“完走”を目指して走行を続け、12位でチェッカーを受ける。同じマシンを使った童夢はリタイアだったが、マツダ(19&24位)を抑え、日本車最上位でのゴールであった。とはいえ、優勝したポルシェに570km以上の差を付けられるもので、優勝はまだまだ先、という印象だった。
1985年、85C-Lで初めてル・マンに挑戦したトヨタ。彼らの挑戦がその後も続いてきたのは、皆様ご存知の通り。しかし、彼らは常に高い壁に跳ね返され続けてきた。プジョーと激しいトップ争いを繰り広げた1992年、マシントラブルにより後退を強いられた1994年、トップを行くBMWに迫る走りを見せながらも終盤にタイヤバーストに泣いた1999年、アウディと死闘を演じた2013年……いずれも2位表彰台止まりとなっている。昨年も、中嶋一貴のドライビングでポールポジションを獲得しながらも(これは日本人初のル・マンでのポールポジションアタックであった)、またしても優勝には手が届かなかった。
今年も、間もなくル・マン24時間レースが開催される。もちろん、トヨタもTS040で挑戦。悲願の初優勝を目指す。さて、その結末はいかに? そして、トヨタのル・マン挑戦の原点を、今週末の鈴鹿サーキットで見ることができる。