2015年05月20日 10:31 弁護士ドットコム
「結婚を前提とした交際」「婚約した」。幸せそうなカップルから当たり前のように聞く言葉だが、ゴールインする前に二人の関係が変わってしまうこともたまにある。場合によっては、法的なトラブルに発展することもあるが、次のようなケースでは、裁判所はどう判断するのだろうか。
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遠距離だった彼と「結婚を前提に」交際を始め、プロボーズを受けた。その際には指輪をもらい、「婚約したのだから」と、北海道から埼玉まで引っ越した。親との顔合わせもすませ、
彼の自宅の近くに同居予定の部屋を借り、週に半分ぐらいは彼とそこで過ごしていた。新居には家財道具もそろえ、あとは彼の卒業を待つだけーー。
さらに、妊娠もして、新しい人生のスタートに胸をはずませていたのに、彼から唐突に別れを告げられてしまったのだという。そこで、途方にくれた女性は、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに次のような相談を寄せた。
「子どもの認知のほか、結婚の約束を反故にした慰謝料、養育費ももらいたい。でも、そもそも『婚約していた』といえるのでしょうか? プロポーズの際にもらった指輪は以前、喧嘩した時に弾みで返してしまっています・・・」
澤藤亮介弁護士に話をきいた。
「婚約とは『将来結婚する旨の当事者間の約束』をいいます。民法上に規定はありませんが、判例上では『婚姻の予定』などと表現されることもあり、一種の『契約』として考えられています」
では「婚約」した後、一方が「やっぱり結婚したくない」と言い出した場合には、どうなるのだろうか。
「一方当事者が『正当な理由』なく婚約を破棄した場合、その当事者は他方当事者に対し、債務不履行があったものとして、損害賠償義務を負うこととされています。なお、現行法上、破棄した当事者に対し、結婚そのものを強制することはできません」
具体的には、どのような事実があれば「婚約」とみなされるのだろうか。
「婚約自体は、両当事者の間に、将来結婚することについての『合意』があれば成立するとされており、結納や婚約指輪受領などの儀式的なものは、成立要件ではありません。
もっとも、『合意』は両当事者の内心であって、第三者の目に見えないものです。実際の裁判では、立証の観点から、結納や婚約指輪のほか、結婚式や同居の準備を進めていたか、継続的な性交渉が存在するか、妊娠・出産の事実が存在するか、両親等の親族に結婚の挨拶をしたかなどの外形的な事情を総合考慮したうえで、裁判官が婚約の成否を判断することになります」
今回の相談者のケースでは、「婚約」とみなされるのだろうか。
「プロポーズを受けていた,返してしまったとはいえ婚約指輪をもらっていた、両親に挨拶していた、妊娠した、北海道から埼玉まで移り住んだ、家具等まで購入して新居の準備を進めていたなどの事実があります。こうした事実を、裁判で立証できれば、婚約は成立していたとの判断を受ける可能性がかなり高いと言えるでしょう。
そして、別れを切り出した男性側にその破棄についての正当理由(たとえば、実は女性が他の男性と交際していたなど)がなければ、男性は女性に対し、婚約不当破棄による損害(精神的苦痛への慰謝料や財産的損害)の賠償義務を負うことになります」
澤藤弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
澤藤 亮介(さわふじ・りょうすけ)弁護士
東京弁護士会所属。離婚、不倫問題、労働問題などを中心に取り扱う。iPad、iPhoneなどのデバイス好きが高じ、事務所内の事件資料や書籍の全面データ化等、ITをフル活用して業務の効率化を図っている。日経BP社『iPadで行こう!』などにも寄稿。
事務所名:新宿キーウェスト法律事務所
事務所URL:http://www.keywest-law.com