2015年05月19日 21:21 弁護士ドットコム
安倍政権が、自衛隊法など安全保障関連の10法案を一括して改定する「平和安全法制整備法」と「国際平和支援法」を国会に提出したことを受け、東京弁護士会は5月18日、東京都内で記者会見を開いて、その問題点を指摘した。
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政府は、今回の法案について「あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする法整備を行うことが必要」と説明している。しかし、日弁連憲法問題対策本部事務局長の川上詩朗弁護士は「法案は、憲法9条に反しています。『切れ目』つまり区別こそが憲法9条です」と批判した。
川上弁護士によると、憲法9条について日本政府は従来、次のような説明をしてきた。
(1)憲法9条は「戦争を放棄し、戦力は持たず、交戦権を認めない」としている。
(2)しかし、憲法前文の「平和的生存権」、憲法13条の「幸福追求権」から、「自衛のための措置」は認められる。
(3)ただし、憲法は平和主義を基本原則としているので、自衛のための措置といっても無制限に認められているわけではない。
(4)自衛のための措置は、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由、幸福追求権が根底から覆される急迫、不正の事態に対処し、国民の権利を守るためやむを得ない措置として、はじめて容認されるもの。
(5)したがって、自衛のための措置は、その事態を排除するために必要最小限度の範囲にとどめるべきだ。
そして、日本はこのような「9条の世界」を前提として、さまざまな切れ目(区別)を法律でつくって、自衛隊の活動を限定してきたという。
たとえば、現在の自衛隊法などでは、自国を防衛するための「武力の行使」と、個人の生命・身体を守るための「武器の使用」が区別されている。そして、「武器の使用」ができる場合は厳しく制限されていて、相手に危害を加えるような射撃ができるのは、正当防衛・緊急避難のケースに限定されている。
ところが、新たな法案では、自衛隊が「任務を遂行するための武器使用」が容認され、従来あった「武器使用と武力行使の切れ目」が薄まっているという。たとえば、安全確保活動や駆けつけ警護、在外邦人救出などで武器使用ができるようになる。そして、こうした任務遂行のための武器使用は、戦闘行為に発展する危険性をはらんでいるという。
また、政府のこれまでの憲法解釈では、自国を防衛する「個別的自衛権」と、なかまの国を防衛する「集団的自衛権」を区別し、このうち「個別的自衛権」だけが行使できると解釈してきた。そのため、現行の自衛隊法でも「武力行使」ができるのは、自国への攻撃がある「個別的自衛権」の場合とされている。しかし、新法案では、自国が攻撃されていない場合でも「集団的自衛権」の行使ができる場合があるとしている。
川上弁護士は、こうした集団的自衛権の行使や武器使用の拡大は、憲法9条が求める「切れ目」をなくそうとするものであり、憲法の「恒久平和主義」に違反すると批判している。
また、憲法が「最高法規」である点を踏まえると、それに反する閣議決定をしたり、新ガイドラインを定めたり、法律を制定することは「立憲主義」に反する。
そして、本来であれば憲法を改正しなければできないはずのことを、「閣議決定」や法律制定によって実現しようとすることは、憲法改正手続きを無意味にしてしまい、「国民主権」を侵害する行為だと、川上弁護士は話していた。
東弁憲法問題対策センター・委員長代行の伊井和彦弁護士は「戦争は必ず権力の暴走で起こる。それは歴史が証明していることです。過ちを繰り返さないためには、常に権力をチェックしないといけません。仮に当面は何も起きなくても、『武器』を権力者に渡してしまったら、いつどんな形で使われるかわかりません」と警鐘を鳴らしていた。
(弁護士ドットコムニュース)