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Superflyが変化の中で見出した、表現の原点とは? 「生きてる喜びを、高らかに大きな声で歌いたい」

2015年05月19日 17:21  リアルサウンド

リアルサウンド

Superfly 5thアルバム『WHITE』インタビュー

 Superflyの新しい始まりを告げるニューアルバム『WHITE』が完成した。前作『Force』('12年)から約3年ぶりとなる本作にはBONNIE PINK、中田裕二、Chris Cester(ex.JET)など国内外のクリエイター陣が参加し、これまでの制作スタイルとは大きく変化した作品となっている。


 今回Real Soundでは越智志帆にインタビューを実施。前作『Force』完成直後に感じたという達成感と虚無感、「受け身になって、いろんな人の影響を受けたかった」という動機からスタートした本作『WHITE』の制作、そして、このアルバムを作り上げたことで生まれた新たな確信について語ってもらった。


・「“終わり”という文字が自分のなかに出てた」


ーーSuperflyの新しいスタートを告げるアルバムですね。「WHITE」というタイトルからも「まっさらの状態から始めたい」という意思を感じます。


Superfly:リスタートというか、“新たな価値観みたいなものに出会えますように”みたいな気持ちですよね。いろんな人たちの感性、才能に触れることで、自分を染めてもらえるようなアルバムにしたいなと思っていたので。


ーーいままでとは違う刺激を求めていた?


Superfly:そうですね。前作の『Force』を作り終えたときに、珍しく“あ、完成したな”って思えたんですよ。それまでは、制作の終わりごろになると“次はこうしよう”とか、良い意味で悔しさが残っていたんです。でも、『Force』のときは、もちろん完璧ではないにしろ、今できるのはここが限界だなという気持ちが湧いてきて。“終わり”という文字が自分のなかに出てたんですよね。


ーーデビューから積み重ねてきたことが『Force』というアルバムによって、ひとつの完結を見たんでしょうね。


Superfly:同時に“空っぽになった”という感覚もあったんですよ。その後はインプットしなきゃという焦りのなかで過ごしていたし、いざ制作に入ることになっても、まだ空っぽの状態が続いてしまっていて。このピンチをどう乗り切ろうかと考えたときに“完全に受け身の状態で音楽を作っていくのもアリかな”って思ったんですよね。


ーー何もない状態を逆手に取るというか。


Superfly:そうです。これまではずっと作曲家の多保くんと(アレンジャー/プロデューサーの)蔦谷好位置さんていう少人数で密に制作を行ってきたんですけど「Force」を作り終えた後の空っぽの状態で次は何を作ろう?ってなった時に今までと同じつくり方じゃ新しいものが出来ない気がして。それがいちばん大きなきっかけでしたね。


ーー結成以来のメインソングライターだった多保さんがアルバムに参加しないとなれば、自ずと制作スタイルは変わりますよね。


Superfly:やり方を変えなくちゃなって思ったんですよね。私自身が絞り出すように作るやり方は量産するには限界だと思ったし、多保君とも話たんですが、10年近く同じ体制でやってるとそれぞれの役割もしっかりできてしまって、それがいい方向に出るときももちろんあったんですが、新鮮さを求めた時にお互いのバランスを取ろうとしたらなかなか難しくって。本当にひとりになって、“いままで出来なかったことを思い切りやろう”というところへ切り替わったというか。今までとは違う人たちと作って新しい刺激を受けたくなりました。


ーーその時点ではもう不安はなかった?


Superfly:多少はあったと思うんですけど、いろんな人たちとやってみようって決めたら、アルバムのイメージがどんどん浮かんできたんです。タイトルは「WHITE」で、色鮮やかなアルバムにしようとか。ある意味、とっ散らかったアルバムでもいいとか。それを具現化するのは大変でしたけど、“きっと良いアルバムになる”という確信もありました。あと、私がイメージしているものだったり、変わっていきたいという気持ちを周囲のスタッフに伝えて、足並みを揃えるのもすごく大変でしたね。“え、そこまで変わっちゃうの?”みたいなこともあっただろうし。


ーーリスナーのことは気になりませんでした? Superflyにはこれまで築き上げてきた強烈なアーティスト・イメージがあって、そこに惹かれているファンも多いと思うんですが。


Superfly:確かにイメージはあると思うし、それを裏切りたくないという気持ちもありました。実際、アルバムの制作に入ったときは“今までのSuperflyの面影を残したほうがいいのかな”と思って、そういう曲に何度もチャレンジしてみたんですよ。でも、ダメだったんですよね。いままでのSuperflyの曲は、私と多保くん、蔦谷さんの3人だから出来たものであって、そのバランスがなければ、単に模倣にしかならないんだなって。たぶん、多保くんが他のところでSuperflyっぽいことをやろうとしても無理だと思うんですよね。そのことに気づいてからは、違うことをやろうって開きなれたというか。


ーーただ、志帆さん自身のルーツミュージックは変わらないわけじゃないですか。


Superfly:だから“ぜんぜん聴いたことがない音楽でもいいな”って思ってたんです。自分がわからないことをやりたかった、というか。私はオールドミュージックが好きだけど、ぜんぜん違うルーツを持っている人の個性とぶつかり合うことで、おもしろい化学反応が起こるんじゃないかなって。曲をお願いするときにも、何人かの方には“Superflyは意識しないでください”って伝えたんですよ。


ーーそうじゃないと意味がないと?


Superfly:そうそう。ホントにそう思いました。わからないことをやるのって、こんなに楽しいんだ!って思いましたからね、制作中。いままではわかないことが怖かったんだけど。


・「周りの人たちが生き生きしていたら、私も燃える」


ーー収録された14曲のうち、12曲は蔦谷好位置さんが編曲を担当していて。蔦谷さんとの関係にも変化があったんでしょうか?


Superfly:いままで以上に濃く入ってもらいましたね。このアルバムでSuperflyは激変すると思ったので、それを整えてもらいたかったというか。あとポジティブに受け身でいたかったんですよ、今回は。だから、周りの人の意見もいっぱい聞きました。“いまのSuperflyは誰とコラボしたらおもしろい?”とか、そもそもSuperflyはどんなふうに見えていて、どこに可能性を感じてるのかな?とか。そういうことが自分ではわからなくなっていたし、みなさんの話をたくさん聞けたこともすごく良かったですね。


ーー楽曲についてもいくつか聞かせてください。何といっても最高だったのは、Chirs Cester(JET)とのコラボレーションによる「A・HA・HA」「脱獄の季節」。どちらも海外のインディーロックの流れを感じさせる楽曲ですが、とにかくぶっ飛んでるし、本作におけるSuperflyの変化を象徴してますよね。


Superfly:私も「A・HA・HA」がいちばんぶっ飛んでると思います(笑)。以前、JETといっしょに『i spy i spy』(Superfly×JET)をやったときもすごくおもしろかったんですよ。自分たちのレコーディングスタイルとはぜんぜん違っていたし、異文化交流みたいな感じで。また新しい刺激をもらえないかなと思ってお願いしたんですけど、やっぱりおもしろくて。この曲に関しては本当に“染まった”という感じなんですよね。ふだんは“こういうふうに歌おう”って作戦をしっかり立てるんですけど、「A・HA・HA」はクリスにはっきりと思い描くものがあったみたいなので言われるまま、“はい、やります”って。普通だったらもっと音程を合わせるんだけど、“それはやめてほしい”って言われたので、全力で音程のない歌を歌いました(笑)。


ーーBONNIE PINKさんが作詞作曲を手がけた「Woman」については?


Superfly:ずっと尊敬しているアーティストで、ずっと“いつか曲を書いてほしいな”って思っていたんです。去年の年末にごはんをご一緒させてもらって、緊張したんですが直接お願いして。そのときも“Superflyのことは意識しないで、等身大で曲を書いてほしいです”ってお伝えしたんです。私としては、それを演じるように歌いたかったので。


ーー「Woman」のメロディは確かにBONNIE PINK節が強く出てますよね。


Superfly:ボニーさんのルーツの部分が出てるんじゃないかなって。最初は“メロウで胸キュンの曲が来るのかな”と思ってたんですが、意外にも力強いものを作ってくれて。ボニーさんの可愛らしさ、タフさがぜんぶ入った曲だと思いますね。“子宮で考えた答えで正解”なんて歌詞、私には絶対に書けないですから。もっと人生経験を積めば、こういうことも言えるようになるのかな…って思ったり。歌うときは、あまり自分に寄せ過ぎないように意識してました。それよりもボニーさんが見えたほうがいいなって。


ーー曲を作った人の顔が見えるようにしたかった?


Superfly:書いてくれた人の得意なところだったり、個性がハッキリ感じられたほうがいいと思ったんです。中田裕二さんに書いていただいた「リビドーに告ぐ」もそうですね。この曲メロディを聴かせてもらったときに、花の強い香りをイメージしたんですよ。女性の髪が揺れる絵が浮かんできたし、その残り香はユリみたいに甘くてキツイ香りなんだろうなって。だから、歌詞の方向性も変えてもらったんです。最初は爽やかな雰囲気だったんですけど、もっと中田さんのイメージが感じられるエロスがあるものがいいな、と。他の方もそうですけど、みなさんの個性が強いものを歌ったほうが、自分のエネルギーもさらに引っ張り出してもらえると思いました。


ーー「Superflyという素材を使って、楽しんでください」みたいな?


Superfly:そうですね(笑)。そういうほうが性格に合ってるんですよ、もともと。たとえばバンドメンバーに対してもそうで、私を良く見せたいとか、声が聴こえないから、音を下げてほしいみたいなことはぜんぜんなくて、“みんなの音がデカいなら、私もデカく歌う!”みたいな感じなので。周りの人たちが生き生きしていたら、私も燃えるんですよ。昔からそういうところはあるし、今回のアルバムの制作にもそれが出てるんじゃないかなって。自分から“こうしたい”って主張するタイプではなくて、提示されたものに対してアレンジを加えるほうが合ってるんです。


・「やっぱり自分はロックシンガーなんだな」


ーー志帆さん自身が作詞作曲に関わった楽曲についてはどうですか? 特に「Beautiful」はアルバムのなかでも重要なポジションにあるナンバーだと思うのですが。


Superfly:1曲は私自身を描いたものを入れようと思ってたんですよね。じつはしばらく作詞がまったく出来なくて、“ああ、苦しい”って感じていて。そんなときに“Superflyの持ち味って何だろう?”って考えてみたんです。そのときに思い浮かんだのが、“生命力”だったんですよ。生きてる喜びを、高らかに大きな声で歌えるのが、Superflyの良さだなって。そういうものを表現できる曲がほしいと思って作ったのが、「Beautiful」だったんです。曲が出来たときはすごく嬉しかったし、その勢いで、歌詞も2日くらいで書けて。追い込まれるとすごい力を発揮できるんだなって思いました(笑)。


ーーいろいろなタイプのクリエイターとコラボすることで、Superfly本来の魅力にも立ち返ることができた?


Superfly:やっぱり自分はロックシンガーなんだなって思いましたね。ハイトーンで歌えるのも自分の持ち味だし、ストレートな歌詞を書くっていうのも……じつはちょっとイヤになってた時期もあったんですよね、ストレートな歌詞が。でも、それも自分の個性だなって思えたというか。たぶん、いろんな人といっしょに曲を作っていくなかで、自分の個性が改めて浮き出てたんじゃないかと思うんですよ。「Beautiful」の歌詞を書いているときも、自分に与えられたものを、長所も短所もひっくるめて、ぜんぶ肯定してやろうと思っていたし。今回アルバムに参加してくれた方々からも、内側から出てくる自信みたいなものを感じたんですよ。そういう人が持っている説得力ってすごいなって思ったし、私もそうありたいなって。


ーーアルバムの初回生産限定盤には初の邦楽カバーミニアルバムも付いていますが、こういうトライも前向きなモードじゃないと出来ないですよね。


Superfly:そうですね。私は本来、精神的にグラグラ来てしまいがちというか、良いことにも悪いことにもグッと引っ張られるところがあったんですよ。特に悪いことに引っ張られてしまうと、なかなか抜け出せないこともあって。そうならないように自分を閉ざして、守ってきたところもあったし…。でも、今回のアルバムを作ってからは、自分のなかにしっかり芯が出来た感覚があるんです。もしネガティブなことに直面したとしても、いまだったらそれを肯定できるし、プラスに変えることも出来るんじゃないかなって。


ーーそういう心境の変化って、年齢も関係あるんでしょうか?


Superfly:大いにあると思います。27、28歳くらいのときって、いま思えばすごく苦しかったんですよ。身体も変化してくるし、喉も使いっぱなしだったから、そのバランスを必死で取ろうとしていて。そこも解消してきたというか、“こういうときは、こうすればいい”ということがわかってきて。まあ、これから何があるかわからないですけど、ドンと来い!って感じです(笑)。
(取材・文=森朋之)