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ポメラニアンと散歩していた女性が「大型犬」に襲われた!「 飼い主」の責任は?

2015年05月19日 15:11  弁護士ドットコム

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飼い犬の「ポメラニアン」3匹と散歩していた女性が、同じく散歩中の大型犬に襲われるという事件が起きた。ポメラニアンのうち2匹が死傷し、女性も軽いケガを負った。大型犬と飼い主の男性はその場を立ち去ったため、北海道警札幌豊平署が「市畜犬条例」違反容疑で捜査を始めたと、報じられている。


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被害者らが作成したチラシによれば、大型犬は散歩中に突然、襲いかかってきた。驚いて逃げ出した1匹が車にはねられて死亡、もう1匹も噛みつかれて17針を縫う重傷を負った。女性も腰をかまれて軽いケガ。残る1匹は自宅前まで逃げ帰り、無事だったという。



この大型犬の飼い主は、どのような罪に問われるのだろうか。ペット問題にくわしい渋谷寛弁護士に話を聞いた。



●「器物損害罪」や「動物殺傷罪」の可能性


「大型犬の飼い主が捕まっていないため、犯行の態様の詳細はいまだ不明確です」。そう前置きしたうえで、渋谷弁護士は次のように指摘した。



「被害者の供述によると、大型犬が、散歩中に別の飼い主の腰を噛んでケガを負わせたのですから、大型犬の飼い主は、故意でなかったとしても、過失傷害罪(刑法209条)が成立する可能性があります。もし『噛むなら噛んでもかまわない』と思っていたのであれば、より刑罰の重い傷害罪の成立も考えられます。



また、ポメラニアンが車にひかれて死亡したり、17針縫う重傷を負ったことについては、器物損壊罪(刑法261条)、動物殺傷罪(動愛法44条)の成立が考えられます。ただし、いずれも犯罪が成立するためには、『死んでもかまわない』『ケガしてもかまわない』という『未必の故意』があったことが必要となります」



今回、警察が捜査を始めた「市畜犬条例」違反容疑とは、どのようなものだろうか。



「『札幌市畜犬取り締まり及び野犬掃とう条例』(昭和42年成立)の6条では、飼い犬が、他人や他の飼い犬に危害を加えた場合、市長に届ける義務があります。これに違反すると、16条2項3号により、5万円以下の罰金または科料に処せられることになります。



ただ、動物愛護管理法の動物殺傷罪の200万円以下の罰金に比べると、はるかに低い罰則です。警察は、確実なところから、この条例違反で捜査をしているようです。逮捕後の供述に従い、さきほど述べたような、より重い罪を問うことも考えられます。



ちなみに、今回のような咬傷事件が生じたときの知事への届出義務は、東京都の条例にもあります(東京都ペット条例29条1項)。罰則は、より軽く、拘留(30日未満の身柄拘束)または科料(1000円以上9999円以下)にとどまります(40条2項)」



●犬自身が損害賠償を求めることはできない


では、被害にあった人と犬は、大型犬の飼い主に対して、慰謝料などを請求できるのだろうか。



「民事上は、動物の飼い主には、重い不法行為責任が規定されています(民法718条)。動物の飼い主は、その管理する動物が他人に与えた損害について、原則として損害を賠償しなくてはなりません。



まず、軽いケガだったとはいえ、ポメラニアンの飼い主が負ったケガについて、治療費と慰謝料を請求できます。また、飼い犬の1匹が死亡し、もう1匹が大ケガを負ったことによる精神的苦痛について、慰謝料を請求することが考えられます。



ただし、死亡したり、ケガをした犬自身が、加害犬の飼い主に対し、損害の賠償を求めることは、今の法制度ではできません。犬自身の法的な主体性が認められていないからです」



このように渋谷弁護士は述べていた。



(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
渋谷 寛(しぶや・ひろし)弁護士
1997年に渋谷総合法律事務所開設。ペットに関する訴訟事件について多く取り扱う。ペット法学会事務局次長も務める。
事務所名:渋谷総合法律事務所
事務所URL:http://www.s-lawoffice.jp/index.html