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ファレルはなぜスヌープを敬愛してやまないのか? スヌープ新作で全面タッグの背景

2015年05月19日 13:41  リアルサウンド

リアルサウンド

ファレル・ウィリアムスとスヌープ・ドッグ

「スヌープの新作は自分のアルバムより良いよ」


 5月20日にリリースされるスヌープ・ドッグの新作『BUSH』について、ファレル・ウィリアムスは、こんな風に語っている。シーンを席巻したダフト・パンク「ゲット・ラッキー」やロビン・シック「ブラード・ラインズ~今夜はヘイ・ヘイ・ヘイ」のコラボに続き、昨年にリリースしたソロアルバム『ガール / GIRL』では世界中に「ハッピー」旋風を巻き起こす大ヒット。グラミー賞11冠。いまや「全てを手にした男」となった、あのファレルがである。


参考:ラップ・ミュージックと反ホモフォビアの現在 フランク・オーシャンからキングギドラまで


 事実、多忙を極めるファレル自身にとっても、スヌープ・ドッグの新作はかなり力を入れたプロジェクトとなっていることは間違いない。アルバム『BUSH』では、アルバム全体のプロデュースに加え、全ての楽曲のソングライティングに携わり、うち5曲でバック・ヴォーカルに参加している。アルバム一枚にわたってガッチリとタッグを組んだ形だ。


 では、何故ここに来てスヌープとファレルは手を組んだのか? 「俺とファレルは深い友情で結ばれているんだ」とスヌープ・ドッグ自身が語る相思相愛の関係は、アルバムにどう結実したのか? 今回の記事ではそのあたりを分析していきたい。


 というのも、新作『BUSH』は、かなり壮大なテーマを読み解くことができるアルバムになっているのだ。全世界3500万枚セールスを誇るラッパーと当代随一のプロデューサーという大物タッグにしか成し得ないような「時代を超える」スケールの作品になっている。


 一言でいうと、それは70年代と2010年代を繋ぐ「西海岸ファンク~ヒップホップの一大絵巻」である、ということ。豪華なゲスト陣が参加している一枚なのだが、それは単なる賑やかしではない。ちゃんと意味が込められているのだ。


 まずその一つ目は、ここ数年のアメリカのポップ・シーンにおけるソウル/ファンク/ディスコ回帰(まさにファレルがその最大のキーマンである)の流れに対して真っ向から「本物」を突きつけるようなアルバムになっている、ということ。


 アルバムのリードシングル「ピーチズ・アンド・クリーム」が象徴的だ。この曲にフィーチャリングされているのは、チャーリー・ウィルソン。70~80年代のファンクの伝説的存在、ギャップ・バンドのメンバーである。


 最近では2015年最大のヒット曲であるマーク・ロンソン feat. ブルーノ・マーズ「アップタウン・ファンク」の作曲者に名を連ねたことでも話題を呼んだチャーリー・ウィルソン。現在62歳となる彼だが、ここ数年もスヌープやカニエ・ウェストとのコラボを繰り広げ、今年1月にはソロアルバム『フォーエバー・チャーリー』をリリースしたばかり。現役バリバリのR&Bシンガーとして最前線で活躍している。


 そして、こちらも「生きる伝説」であるスティービー・ワンダーがアルバムの1曲目「カリフォルニア・ロール」に参加。ハーモニカと歌声を聴かせている。


 公式コメンタリー映像によると、この曲はもともとファレルが自分のアルバムのために作った曲だったそう。LAでスタジオ入りした時にスヌープが直接スティービー・ワンダーに電話すると「わかった、すぐそっちに行く」と一時間後に準備万全で現れたそうだ。


 ファレルとスティービー・ワンダーは、昨年のグラミー賞の授賞式でダフト・パンクと共に「ゲット・ラッキー」をパフォーマンスしたことも記憶に新しい。今度はスヌープを軸にしたコラボでリラクシンなファンクを形にしたわけだ。


 一方、ラストに収録された「アイム・ユア・ドッグ」も、アルバム『BUSH』の重要なピースとなっている。この曲にリック・ロスと共にフィーチャーされているのが、ケンドリック・ラマーだ。


 3月にリリースされた傑作アルバム『To Pimp a Butterfly』が記録的なセールスと評価を獲得し、2015年を代表するアーティストの一人となっているケンドリック・ラマー。カリフォルニア州コンプトン出身のラッパーである彼に強い影響を与えたのがスヌープ・ドッグだった。


 実際、彼はメジャーデビューする前の2011年にLAで行われたライブのステージにてスヌープ・ドッグから直々に「新たな西海岸の王」に指名されている。スヌープだけでなくドクター・ドレーやザ・ゲームらからも祝福され、感極まって号泣する場面も見せている。


 「ピーチズ・アンド・クリーム」のような70sファンクにレイドバックした楽曲とは対照的に、こちらの「アイム・ユア・ドッグ」は現在進行形のヒップホップとリンクするテイストなのも印象的だ。スヌープ・ドッグは、この曲でのコラボについてこんな風に語っている。


「ケンドリック・ラマーは、俺達が何年も前に植えた種なんだ。そこから芽を出して成長し続け、ウェストコーストのMCとして頂点に辿りつつある。驚異的な才能だよ。素晴らしい音楽を作り、パフォーマンス力も高い。だから今回のコラボレーションには満足している。彼に影響を与えたアーティストの一人が俺であり、その彼が俺のアルバムに参加してくれたということは、彼からの愛情の印だからね」


 つまり、アルバム『BUSH』は、70年代の生きる伝説と2010年代の音楽シーンの最先端を一つの線で結ぶようなアルバムなのである。これは、アメリカ西海岸シーンの顔役であるスヌープ・ドッグだからこそ実現できた一枚と言っていい。


 そう考えると、ファレルが「自分のアルバムより良いよ」とその出来栄えに自信満々だった理由も納得いくはずだ。(柴 那典)