トップへ

HAPPYは音楽シーンの風景を変えるか? 最新作のサウンドが感じさせる「覚悟」と「凄味」

2015年05月18日 11:41  リアルサウンド

リアルサウンド

HAPPY新作の「覚悟」と「凄味」

 60~70年代の洋楽ロックに深く根ざしたサイケデリック&ポップな音楽性や、日本の同世代のバンド群とは一線を画すその根っからの楽観主義とラブ&ピースを体現したような独特の佇まいやライブパフォーマンスによって、同世代のリスナーのみならず、幅広い世代の音楽ファンから注目を集めているHAPPY。昨年8月のファーストアルバム『HELLO』以来のリリースにして、インディーズ最後の作品とアナウンスされている5曲入りの新作E.P.『To The Next』は、そんな彼らの「現在」と「未来」を繋ぐ架け橋のような作品だ。


 古くはベイ・シティ・ローラーズ(「Turn On The Radio」)から最近ではSEKAI NO OWARI(「インスタントラジオ」)まで、ポップソングにおける王道のテーマといえるラジオについて真っ正面から歌ったリード曲「R.A.D.I.O.」は、彼らの過去の曲では「Lift This Weight」に連なるエレクトリックダンスチューン。「流行なんてどこ吹く風」といった超然とした姿勢がHAPPYのカッコよさではあるが、ロックでもポップでもここ数年世界的に大流行りの「オーオーオー!」の大合唱コーラスも見事にキマっている。既にライブでもクライマックスを彩る重要曲となっているが、今後も彼らの代表曲の1つとしてリスナーから愛されていくだろう。


 しかし、バンドとしての覚悟、もっと言うなら凄味をより感じさせるのは、「The world began with a number」「Swinging Singer Star」「To The Next」といった、ゆったりとしたグルーヴとドリーミーなシンセサウンドで、じわじわと世界をレインボーカラーに染め上げていくような楽曲たちだ。「狭い日本、みんなそんなにやたらとBPMを速めて、言葉やコード展開を詰め込んで、一体どこに行こうとしてるんだ?」とでも言いたげなその悠然としたサウンドは、「Swinging Singer Star」にいたっては往年のローリング・ストーンズやクラッシュがそうであったように、ルーツロックレゲエのリズムにまで接近している。


 アルバム『HELLO』同様、今回も全曲バンドによるセルフプロデュース。レコーディング時はすべてが手探りだったという『HELLO』の時と比べると、本作でのサウンドプロダクションもAlecとRicのボーカルも格段にレベルアップしていて、このままのペースで成長していったとしてもバンドの未来には期待が大いに膨らむ。一方で、果たしてメジャーという新しいフィールドとそこで求められるスケールが、彼らのこの何があっても微動だにしそうにない理想主義的音楽に何をもたらすのかについても興味は尽きない。もともと彼ら5人にはマニアックな音楽をやっていこうという意識はまったくなく、自分達がやっているのはポップのど真ん中だという認識で音を鳴らしているバンドだ。もしHAPPYの音楽がシーンの端っこで鳴っているように聴こえるとしたら、それはHAPPYが端っこにいるのではなく、シーンそのものがズレている。きっと彼らはそう思っているだろうし、そんな天動説を信じているようなバンドだけが、音楽の世界に大きな変革をもたらすことができるのだと思う。(文=宇野維正)