17日、チェッカーを迎えた第43回ニュルブルクリンク24時間耐久レース。日本勢の戦いが目立つレースとなったが、SP3TクラスではSTIが走らせたスバルWRX STIが素晴らしい戦いを披露し、見事クラス優勝を奪回した。
スバルは近年、WRX STIを鍛えるべくニュルブルクリンク24時間に毎年のように参戦してきた。しかし、同じクラスのライバルであるアウディTTの前に、2年連続で勝利を逃す結果となっていた。今季は大幅にマシンを改良しニュルに臨んだが、事前のテスト参戦ではトラブルが頻発。さらに、佐々木孝太に代わって急遽山内英輝を起用することになるなど、不安交じりの24時間となった。
しかし、予選でクラスポールポジションを獲得すると、決勝レースでも大きなトラブルなく、ライバルを寄せ付けぬペースで見事クラス優勝を奪還。山内も初の24時間挑戦にも関わらず素晴らしいタイムを刻み、優勝に大きく貢献した。
チェッカー後、喜びに沸くスバルピット前で辰巳英治総監督に聞くと「ちょっとできすぎですね(笑)。4月に苦労していたのはなんだったのかというくらい」と笑顔で語ってくれた。
「その時は心が折れるくらいトラブルが多かったんですが、スバルファンのことを考えたら、逃げ出す訳にいかないと思って。そういう気持ちがスタッフのみんなにもあって、心ひとつにできたのだと思います」と辰巳総監督。
「スバルの社員たちが『いいものを作ろう』とやってきた結果だと思います」
また、特筆すべきスピードをみせた山内に対しても「素晴らしかったですね。『彼は使える!』と思ってスーパーGTで連れてきましたが、ニュルはやっぱり難しいんです。彼が聞いたら怒るかもしれませんが(笑)、最初でここまでやってくれるとは驚きましたね。日本のスーパーGTドライバーの底力をみたと思います」と手放しで称賛した。
そんな山内は、ピットに戻りテレビのインタビューに応える間も、目に光るものが浮かんでいた。ふだんは気さくなキャラクターで涙とは程遠い印象だが、そんな山内も、ニュルブルクリンクという舞台での大仕事に、涙が抑えきれなかったようだ。
「ドバイで24時間レースは一度戦ったことはあるんです。その時も表彰台に乗れそうで止まってしまったんですが……。でも、ホントに……。今回ニュルブルクリンクという場所が特別なのか、走っているうちに『ここで当たったら死ぬな』とか思い始めてしまって、恐怖心が出てきてしまったんです」と山内。
「でもその中で、チームメイトもスタッフも皆さんが本当に一生懸命やってくれて。こうして結果に出せたことは本当によかったです。クルマも本当に素晴らしかった。ずっとバランスが変わらなくて、雨でもそんなに大きくバランスは良くて安心して乗ることができました」
最後はアンカーという大役も務め、金色の紙吹雪が舞いスタッフが待ち受ける中、他のマシンたちとともにチェッカーを受けた。「マルセル(ラッセー)で終わる予定だったんですが、自分が2スティントいったので全部ずれて、自分がアンカーで乗ることになったんです。偶然なんですけどね」と山内。
「本当に良かったです。最後は涙がウルウルしてきてしまって……。すごく感動しました。始まる前は『大丈夫です』なんて言ってましたけど(笑)、不安だらけでしたし、怖いし、雨降ったらツルツルですし……。弱気なことも言えないしで……」
今季スバルに加入し、いきなり大役を果たした山内は、話している間も興奮醒めやらぬ様子。「本当にいい経験になりました」と言うその表情からは、ドライバーとしてひとまわりもふたまわりも成長した様子が感じられた。