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作詞家・松本隆が日本の音楽に残してきた功績 『風街レジェンド2015』の意義を読み解く

2015年05月17日 17:31  リアルサウンド

リアルサウンド

松本隆 作詞活動四十五周年トリビュート『風街であひませう(完全生産限定盤)』(ビクターエンタテインメント)

 作詞家・松本隆の作詞活動 45周年を記念したオフィシャルプロジェクト「風街レジェンド2015」公演が、8月21日と22日に東京・国際フォーラム ホールAで開催される。


参考:EXILEなど手がける作詞家・小竹正人が明かす表現技法「三代目の作詞に関しては良い意味で公私混同」


 松本隆は20歳のとき、細野晴臣、大瀧詠一、鈴木茂とともに“はっぴいえんど”を結成し、ドラムと作詞を担当。「日本語のロック」の一つの雛形を提示し、その後の日本のポピュラー音楽に多大な影響を及ぼした。はっぴいえんど解散後は作詞に専念し、膨大な数のヒット曲を制作。寺尾聡「ルビーの指輪」や松田聖子「赤いスイートピー」などを手がけ、歌謡曲黄金時代を築いた。90年代以降は、若い世代とのコラボレーションも盛んに行い、00年代には自らのレーベルを設立、新人バンドを発掘するなどの音楽プロデュースも積極的に行ってきた。


 今回の公演に先立って、6月24日にはトリビュートアルバム『風街であひませう』がリリースされる。総合サウンドプロデューサーに鈴木正人(Little Creatures)を迎え、安藤裕子、小山田壮平(ex. andymori)&イエロートレイン、草野マサムネ(スピッツ)、クラムボン、斉藤和義、手嶌葵、中納良恵(EGO-WRAPPIN’)、ハナレグミ、やくしまるえつこ、YUKIといった、日本のポップミュージック界で活躍するボーカリストたちがトリビュートで参加している。


 松本隆はなぜここまで多くのミュージシャンやリスナーに、長きにわたって愛されているのだろうか。音楽ライターの森朋之氏は、彼の多大なる功績を振り返りつつ、核となる魅力についてこう語る。


「日本の歌謡曲に日常的な言葉遣いをセンス良く取り入れ、時代の空気、人々の欲望などを反映させたのが安井かずみさん、阿久悠さんだとすれば、そこにさらなる洗練を加え、より色彩豊かなポップソングへと導いた最大の功労者が松本隆さんではないでしょうか。根底には人間の繊細で複雑な感情、ときには痛みや葛藤なども含まれているのですが、そのドギツい部分は丁寧に濾過され、歌詞として現れる言葉はまるで優れた絵画や映画のようにカラフルで上品。それがもっとも端的に示されたのが、大瀧詠一さん、松田聖子さんの楽曲でしょう。私が初めて“作詞家・松本隆”を意識したのは10代前半で大瀧さんの『A LONG VACATION』を聴いたときですが、そのときもおそらく、松本さんの歌詞の洗練度の高さに惹かれたのだと思います」


 また、同氏は松本隆の手掛ける楽曲の幅広さについて、“質と量を兼ね備えた作家”だと続ける。


「大衆音楽に関わるクリエイターにとって多作であることは大切な条件だと思うのですが、松本さんはその点でも極めて優れています。松本さんはこれまでに2000作以上の歌詞を手がけていらっしゃいますが、そのアベレージが極めて高い。80年代以降の歌謡曲、J-POPの楽曲のクレジットを調べてみると、提供するアーティスト、ジャンルの幅が驚くほど広く“え、この曲も松本さんだったのか!?”と驚いてしまいます。ちなみにこの現象は筒美京平さんにも共通しているのですが、要は質と量を兼ね備えた作家ということですね」


 『風街レジェンド2015』ライブでは、元はっぴいえんどの松本、細野晴臣、鈴木茂のほか、稲垣潤一、イモ欽トリオ、EPO、斉藤由貴、佐野元春、C-C-B、寺尾聰、中川翔子、矢野顕子、吉田美奈子、水谷豊、安田成美らが出演し、井上鑑を音楽監督とする「風街ばんど」とともに松本が手がけた楽曲を披露する。森氏は同ライブが持つ意義について、こう述べる。


「『風街レジェンド2015』は、松本さんの膨大で濃密な歌詞活動がおそらく初めて可視化されるイベントと言えるでしょう。ふだんポップスを聴くときに作詞家のクレジットを気にしていない方もいらっしゃるかもしれませんが、すでに発表されている出演者、演奏曲を見るだけでも『え、この人も松本さんの歌詞を歌ってたのか?』という発見があるはず。それは同時に、日本のポップスのもっとも豊かなところを堪能できることにもつながるでしょう」


 2日間で、J-POPの30年を振り返ることができるといっても過言ではない同公演。豪華ゲスト陣と数々の名曲が、どのような化学反応を見せるのか、楽しみでならない。(リアルサウンド編集部)