2015年05月16日 11:11 弁護士ドットコム
ようやく有給休暇を取得できたその日の朝。「ちょっとトラブったんだけど来てほしいな。お前がいないと困るんだよ。頼むよ」。そんな電話がかかってきたら、どう対応すべきだろうか。
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というのも、ある管理職の社員がネットの掲示板に「有休を取った部下を出社させている。出社を強制しているわけではないから問題ない」と書き込んでいたからだ。この投稿者は、仕事で困ったことが起きると、冒頭のように電話をかけるそうだ。部下は「え? 今日有休なんですけど」と動揺しつつも、最終的には「わかりました」と承諾して、出社してくるという。
ネットでは「有休は労働者の権利のはず。上司は横暴すぎるのでは?」などと非難の声が多数あがった。トラブルが発生したからとはいえ、有給休暇を取っている部下に対して、上司が出社を求めても、問題ないのだろうか。大部博之弁護士に聞いた。
「上司が有休を取った部下に出社を求めることが、適法な『時季変更権の行使』といえるかを考える必要があります」
大部弁護士が指摘した「時季変更権」とは、会社が年休(有給休暇)取得を拒否する権利のことだ。労働者が日付(時季)を指定して年休を申請したとき、取得を認めると業務の正常な運営を妨げるおそれがある場合に、年休の取得を拒否することができる。
「今回の場合、2つのポイントがあります。まず、その日に部下が休暇をとることが『事業の正常な運営を妨げる場合』にあたるかという点と、『休暇当日になって、上司が時季変更権を行使できるか』という点です。
1つ目の『事業の正常な運営を妨げる場合』が認められるのは、有休を取った日が、その部下が所属する部署にとって、仕事上、極めて重要な日で、その部下がいないと大きな支障が出ること、そして他の代替要員もいないというような場合です。
今回のように、単に『仕事でトラぶった、その部下がいないと困る』という程度では、およそ『事業の正常な運営を妨げる』とは認められません」
では、ポイントの2つ目「休暇当日に上司が時季変更権を行使できるか」についてはどうだろう。
「時季変更権は、少なくとも休暇の前日までに行使するのが原則です。しかし、部下が当日や前日など直前になって休暇を申請し、上司が代替要員を確保する時間の余裕がなかったといった場合は、会社は例外的に休暇当日の時季変更権を行使して、取得を拒否できます。
今回の事例でも、仮に、部下の年休の申請が休暇前日などギリギリになされたもので、かつ『事業の正常な運営を妨げる場合』には、上司は適法に時季変更権を行使し、出社を命じることができます。逆に、適法な時季変更権の行使と言えない場合であれば、出勤を命じることは当然できません」
ネットに書き込みをした上司は、「強制しているわけではないから問題ない」と言い張っているが・・・。
「上司と部下の関係であれば、出社しろと言われれば断りにくいものです。部下が承諾したからといって、上記のような『適法な時季変更権の行使』でなければ、損害賠償の対象となる可能性も考えられます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大部 博之(おおべ・ひろゆき)弁護士
2006年弁護士登録。東京大学法学部卒。成城大学法学部講師。経済産業省後援ドリームゲートアドバイザー。起業支援、事業再生も含む企業法務全般から、一般民事・刑事まで広く扱う。
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/