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マクドナルドの一部社員「給与ダウン」 会社が「賃下げ」するときのハードルは?

2015年05月15日 11:01  弁護士ドットコム

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最終損益が2年連続で赤字の見通しとなった日本マクドナルドホールディングス(HD)は、2015年4月分の給与から、人事評価や給与の算出方法を見直し、一部社員の基本給を引き下げた。


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マクドナルドの広報は、弁護士ドットコムの取材に対し、新たな給与制度の導入で「給料が下がった社員がいることは事実だ」と説明している。



一般論として、企業が社員の賃下げをする場合、どのようなハードルがあるのだろうか。社会保険労務士の資格を持つ高橋聡税理士に聞いた。



●就業規則の中に根拠があるかどうか


「従業員の給料を無条件に下げられるわけではありません」



高橋税理士はこのように述べる。どんな条件があるのだろうか。



「労働組合が存在しているのであれば、会社と組合の間に、賃下げに関する規定が『労働協約』として結ばれているのか、その規定の内容がどうなのかによって、条件が異なります。



一方、労働協約がない場合は、就業規則上で、賃下げできる根拠規定があるか否かが問題となります。仮に就業規則に根拠となる規定がないにもかかわらず賃下げした場合は、本人の同意があったとしても、無効となります(労働契約法12条)。



就業規則に賃下げの根拠規定がない場合は、就業規則を変更して、規定を設ける必要があります」



就業規則は、会社が自由に変更できるのだろうか。



「就業規則の変更自体は会社が一方的に行えますが、変更後の就業規則が従業員に対する『拘束力』を持つためには、変更後の就業規則を従業員に周知させることが、大前提となります。



そして、賃下げのために就業規則を変更することは『就業規則の不利益変更』に当たるため、その変更が『合理的』であることが必要となります。



変更が合理的かどうかは、労働者の受ける不利益はどの程度なのか、労働条件を変更する必要性はあるのか、変更した後の就業規則の内容は相当なのか、労働組合等との交渉の状況はどうなっているのか、というような諸事情を総合的に考慮して判断されることになります(労働契約法10条)」



もともと就業規則で定められていたら、どうすることもできないのだろうか。



「就業規則に賃下げの根拠規定が存在する場合は、会社側が一方的に賃下げすることも可能です。しかし、その場合でも、会社側の権利濫用と認められる場合は、無効となります(労働契約法3条5項)」



●モチベーションの低下を抑えることが必要


従業員の側からすると、モチベーションを失ってしまうのではないだろうか。



「賃下げを問題なく行うためには、単純な法律論だけでなく、従業員にさまざまな配慮をすることが求められるでしょう。



もし業績の悪化が理由の場合、雇用を維持し、危機的状況を乗り切るために、会社として『このような措置が必要である』ということを従業員に粘り強く説明し、多数者の賛同を得るなどして、従業員のモチベーションの低下を抑える必要があります。



そのためには、役員報酬の減額・返上など、痛みを共有する措置も必要です。そうしないと、従業員のモチベーションの低下による『サービス低下』が起こり、さらなる業績悪化につながるという悪循環に陥りかねません」



高橋税理士はこのように述べていた。



【取材協力税理士】


高橋 聡 (たかはし・さとし)公認会計士、税理士、社会保険労務士、中小企業診断士


東北大学法学部(労働法専攻)卒業後、本田技研工業を経て、太田昭和監査法人に入社、主に株式公開支援業務、法定監査業務に従事。その後、監査法人トーマツを経て、独立。現在は、創業支援業務、株式公開支援業務をメインに、会計・税務・労務・企業法務に渡る幅広い視点からの助言・支援業務を行う。


事務所名 :高橋聡公認会計士事務所


事務所URL:http://www.takahashi-cpa.jp


(弁護士ドットコムニュース)