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エンタメにおける“音楽とお笑いの関係性”はどう変化してきた? 最新チャートから考察

2015年05月14日 18:41  リアルサウンド

リアルサウンド

参考:2015年5月4日~2015年5月10日のCDアルバム週間ランキング(2015年5月18日付)(ORICON STYLE)


 4月29日に発売された浜田省吾の『Journey of a Songwriter~旅するソングライター』が2周連続首位。トータルセールスは10.5万枚である。


 「国民的」あるいは「根強いファンを持つ」「ベテランのロングセールス」をしみじみ語るのは、近年のチャート界ではごく当たり前の傾向となっているのだが、相変わらず売れ続けている3位サザンや5位福山雅治はともかくとして、浜省が連続首位ってすごくない? と思うわけです。


 「今も売れ続ける理由」を考察した記事(参考:浜田省吾、今なお人気を集める理由とは? 新アルバムが2週連続チャート1位を獲得)がアップされたばかりなので、あえてここでは話を下世話の方向に落としてみよう。ダウンタウンの番組では「浜省だらけの~」という企画が毎回爆笑を呼んだし、『週刊SPA!』の名物コーナー「バカサイ」では頻繁に出てきたデニムの人。ヒット曲を知らない世代には特に、サングラス+全身デニム+寡黙キャラ=なぜかウケるハマショー! という方程式がすでに完成されているのではないかと思う。


 もちろんこれは80年代のハマショーのイメージを追った、一昔の話である。今もデフォルメのネタは放送されてはいるが、実際の音楽を聴けばよくわかる。今の彼は、まったく落ち着いた大人のポップスを奏でているのだ。だが、それは今の若者にさほど広まっていない。


 そして、ハマショーをネタにすることで「真剣に歌うこと=ウケる!」という方程式が始まったのなら、それをさらにデフォルメしているのが近年のバラエティ番組だ。まずは『ゴッドタン』のマジ歌選手権。または、どぶろっくの熱唱、そしてクマムシ「あったかいんだからぁ~」のヒット。歌とは言えないまでも、「ラッスンゴレライ」だってリズムや語感ありきの音楽的サムシングを本気でやっているところが面白いのだろうから。


 「本気で歌いあげるシンガー」に芸人がツッコミを入れる時代を経て、今は芸人が本気で歌って踊り、オリジナル曲を披露している時代だ。音楽家はテレビでお笑いと絡まなくても良いし、モノマネされて笑われることも少なくなった。そしてまた、音楽の世界以上に流行り廃りが激しいのがバラエティの世界である。楽器を持ってオリジナル曲を披露した一発芸が過去にどれだけあったか思い出せない。あ、いま唐突に「はなわ」を思い出したが、それ十何年前の話よ! と日本中から総ツッコミが入りそうである。


 さて、同じエンターテインメントの世界であると考えてから、改めてこの事実を確認したいのだ。1975年にデビューした浜省の、なんと10年ぶりの新作が、何食わぬ顔で2週連続1位。これってやっぱりすごくない?


 もちろんすごいのは彼の根強い人気でありクオリティなのだが、そこには「今の」という話題性がない。ベテランばかりが粛々と強く、ほかはサントラやオムニバス、あとは人気BLコミックのドラマCDなどが数千枚単位でランクインしている今週のチャートには、「今話題の!」「今若者にウケている!」「みんなが口ずさむ!」というような賑やかしの言葉がまったく似合わないのだ。


 もちろん、音楽がすべてのメディアや流行や話題とリンクしていなくても、まったく問題はないのである。ないのだが、今週のチャートには、ざっくりエンタメと呼ばれるものとはまったく別の「落ち着き」を、もっと言うなら「静寂」のようなものを感じてしまうのだった。(石井恵梨子)