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多田慎也×NAOKI-T特別対談 人気音楽作家が明かす、プロとしての目覚めと信条

2015年05月14日 11:51  リアルサウンド

リアルサウンド

多田慎也(左)とNAOKI-T(右)。(写真=竹内洋平)

 音楽を創る全ての人を応援したいという思いから生まれた、音楽作家・クリエイターのための音楽総合プラットフォーム『Music Factory Tokyo』が、多数の作詞・作曲を手掛けながら、自身もシンガーソングライターとして活躍する多田慎也(以下、多田)と、プロデューサー、作編曲家として活躍し、2000年代のJ-POPを牽引しているNAOKI-Tによる対談記事を公開した。


 同サイトは、ニュースやインタビュー、コラムなどを配信し、知識や技術を広げる一助をするほか、クリエイター同士の交流の場を提供したり、セミナーやイベント、ライブの開催など様々なプロジェクトを提案して、未来のクリエイターたちをバックアップする目的で作られたもの。コンテンツの編集には、リアルサウンド編集部のある株式会社blueprintが携わっている。リアルサウンドでは、今回公開された対談の前編を掲載。同記事では、嵐、Kis-My-Ft2、AKB48、ももいろクローバーZ、ソナーポケットなどを手掛ける多田と、ケツメイシ、FUNKY MONKEY BABYS、近年ではmiwaやchay、May'nといったアーティストを担当してきたNAOKI-Tが音楽家としてのキャリアをスタートさせるまでの遍歴や、初めて同じクレジットに載った際の裏話、お互いの楽曲についての印象などを語り合ってもらった。


・「『苦しい』に『楽しい』が入ると仕事は長続きする」(多田)


――ふたりが音楽家としてのキャリアをスタートさせたのは?


多田:4歳から始めたピアノが、僕と音楽の出会いです。中学時代には、学校行事の演劇で主役としてステージに立つ機会があり、そこでお客さんや先生から沢山拍手をもらい、「こういう仕事があるんだ!」と、人前に立つ喜びを感じたんです。この時から、得意な音楽でステージに立ったり、立つ人のサポートをしたいという思いが芽生えたんです。メロディラインを初めて作ったのは高校生のときで、当時ユニットを組んでいた仲間たちから「曲を書くことって出来る? 書いて欲しいんだ」と言われたことが作曲のきっかけでした。


NAOKI-T:僕は、中学3年生のころにRockに衝撃を受け、初めてギターを触って以降、ギタリストになるための練習を積んできました。ただ、練習をするだけでは何も起こらないので、自分がどういう音楽が好きかというアピールをするために楽曲を作っていたという意識もありましたね。リスナーとしてはインストゥメンタルな音楽に携わるプレーヤー……ジョン・スコフィールドやパット・メセニーなどが好きだったので、ジャズやフュージョンを聴いていて、当時は歌モノにそこまで興味がなかったです。


多田:ぼくの場合はNAOKIさんとは逆で、歌モノのJ-POPをよく聴いていました。当時、『愛は勝つ』で鮮烈なデビューを果たしたKANさんが、ぼくにとっての音楽の先生でした。


――具体的にプロを目指そうと思ったきっかけはなんですか。


NAOKI-T:僕の場合ラッキーな事にプロの現場は17歳の時に体験する事が出来ました。ギタリストとして活動していくなかで、知り合いを通じてレコーディングに呼ばれるようになったんです。それまではバンドをやっていたんで曲や歌詞は誰かが作っても自分のパートは自分で考える事が当たり前でした。それが仕事でスタジオに行くと音色やフレーズに対して指示を出している人の存在に気づくんです。「ナイル・ロジャースみたいに弾いてよ」とか「ロックスターみたいなリフが欲しい」『ここはデモのように!』と言われプロの現場をみる事で初めて編曲家という職業を知りました。ただ、この時すぐに編曲を仕事にしてみようと思ったかというと、ちょっと記憶が曖昧で……(笑)。


多田:僕が20歳のときは、大学でバンドを組んでオーディションに出続けていました。そこで何かの賞を取ることはなかったのですが、審査員のエンジニアさんに気に入られて「曲を書いてみないか」とか、「コーラスやってみないか」という提案があって。本当は歌いたいんだけど、それを続けるうちに、自分の選択肢のなかに、作詞・作曲という道が現れ、「プロとして、歩んでいこう」と自覚しました。


NAOKI-T:僕はたぶん、当初はバンドなど自分の音楽で世に出たかったんだと思う。でも、某レーベルの新人開発部から声がかかって、デビューできるのかと思って喜んで行ったら、育成期間がすごく長くて苦しかった。その間にバイトの一環として、違う新人のアレンジ仕事をしたり、ギターのサポートに入ったりしているうちに、別の事務所から「アシスタントを募集しているから、ケツメイシの合宿に行かないか」と言われ、人間性が合うかどうかを確かめるためにメンバーの何人かと話しました。そこで「曲を作ったり、楽器を弾いたり、アレンジをしています」と話したら、「良かったらトラックメイクしてみない?」と言われ、実際にやってみたところ、運良くメンバーが気に入ってくれた。そこから参加した合宿が楽しすぎて、この仕事のやりがいを見出しました。


多田:たしかに、「苦しい」に「楽しい」が入ると仕事は長続きしますね。


NAOKI-T:「やらされてる」という気持ちだけで作っているのはバレるんですよ。だから、どんなに曲数を作っても通らなかった理由については納得できる。苦しく作っているものをアーティストは歌いたくないし、ディレクターも採用したいとは思わないなって悟ったことが、僕の転機かもしれません。


・「多田君のデモは自由度が高い分、創作意欲を刺激される」(NAOKI-T)


――ふたりがクレジットに揃って並んだのは、2007年が最初でした。この頃から交流はありましたか?


NAOKI-T:いや、もっと後ですね。スタジオの現場ってアレンジャーがいることは多いんですが、作詞家や作曲家はほとんどいないですから。でも、あるとき多田くんが偶然スタジオに来ていて、ディレクターさんが紹介してくれたことで繋がった。


多田:その時はメールのアドレスだけ交換していて、あとから「会いましょう」と連絡を取り合いました。…でも、僕はケツメイシの「さくら」で、すでにNAOKIさんのサウンドを知っていたんですけどね。そして、提出した曲のデモがアレンジされたあと、スタッフに呼んでもらってスタジオでNAOKIさんの手が加わった音源を聴きました。そのとき、「なんだこりゃ、すげー!」となったのを良く覚えていますし、「プロと仕事するってこういうことなんだな」と思いました。


NAOKI-T:嬉しいです。かなり強烈なポップソングがくるのかと思っていたら、ラジカセで録ったような弾き語りで、多田くんがフリーテンポで歌っているデモが届いて(笑)。最初に聴いたときは、シンガーソングライターのデモテープのような印象でした。提供用というよりは自分で大事に歌おうと思って作った曲のように感じました。ですので表面的な派手さよりも曲の温度や匂いを大事にしつつ表情を汲み取ろうと膨らませました。


――多田さん自身の色の濃いテープを聴いて、それを活かしたアレンジをしようとしたわけですね。そしてここから、二人は作曲者とその編曲家として、いくつかの楽曲でクレジットをともにするようになります。


NAOKI-T:ディレクターさんやメンバーの話によると、デモから採用する曲を選んで仕上げる流れになったときに、偶然この二人になるケースが多かったんだって。あとディレクターさんが僕の仕事を評価してくれる中で、それまで手がけていたイントロについて褒められることが多かったので、毎回「素敵なイントロを作ってくれ」という発注もありました。そういうときにすでにカッチリ出来上がった作家のデモを渡されるのと違い、多田君のデモは自由度が高い分、創作意欲を刺激され荷が重い反面楽しかったです。


多田:僕はシンガーソングライターもやっているのですが、リリース時、物販でも「イントロが大好きなんです」って言われて、『いろんな人の協力があって……』って戸惑うこともあったよ(笑)


NAOKI-T:でも、多田くんに言ってなかったかもしれないけど、2段階あるイントロのひとつめは、作曲家へのリスペクトを含めているんです。Aメロの頭のモチーフからイントロをスタートさせて、2段階目で良い意味で裏切りになるようなアレンジにして……。


多田:ファンの方から人気の楽曲もそうですが、とあるアーティストはメモリアルな時期に、NAOKIさんと一緒に手掛けることが多いですね。


・「曲のなかに何かサプライズを入れたいとは思っている」(NAOKI-T)


――お互いが作るサウンドについては、それぞれどういう印象を抱いていますか?


多田:すごく歌を大事にしてくれるアレンジなので「歌っていて気持ちいいだろうな」と感じます。上品で歌に寄り添ってくれるんだけど、どこか綺麗な毒がある。それが“いびつさ”であり、メロとメロの間で良い違和感を感じさせる引っかかりで。最近、一緒にやらせていただいた『ドラえもん』の挿入歌の「友達」という曲もそうです。しっとりと曲が流れていくのに、サビ終わりからの間奏で、ドラマティックな展開をし、良い意味でお客さんの期待を裏切るところとか、NAOKIさんのアレンジにおけるいいところなのかも。


NAOKI-T:多田くんの言う毒に関しては、無意識なのかもしれないですけど、曲のなかに何かサプライズを入れたいとは思っていますね。僕が多田くんの曲に感じるのは、“表情がある”という所。感情の起伏とか、においとか。派手さやキャッチーさやゴージャスといった、テクニカルな部分ではない風情みたいなものですね。言葉だけでもメロディのみでも、両方のときでも、それが曲に出ている。きっと多田くん自身も、ぐっとくるポイントがないと、曲にOKを出していないんじゃないかな、という気はしますね。「これ派手でしょ。キャッチーでしょ。じゃあ、もう編曲にまかせちゃおう」という考え方はすぐにできるわけで、それよりももうひとつ高いハードルを越えるものを常に世の中へと送りだしているところを尊敬しています。


多田:自分の表現したい世界をどこまで出していいのかということについては、今後も悩み続けると思います。伝えたいことって、芯の部分ではみんな一緒の気がしていますし、芯の部分に共感できる作品を作っていきたいと思います。「これを歌ってみたい」と思える作品をもっと多く書きたいですね。


(取材・文=中村拓海/写真=竹内洋平)


後編【多田慎也×NAOKI-Tが明かす“プロの音楽作家に必要なこと”「好みが分かれる曲を書くくらいが丁度良い」】はこちら