トップへ

山崎まさよしが改めて示した歌唱力 弦楽四重奏ライブの豊かさに迫る

2015年05月14日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

山崎まさよし全国ツアー「Yamazaki Masayoshi String Quartet“HARVEST”」東京公演の様子。(写真=岩佐篤樹)

 今年デビュー20周年を迎えた山崎まさよしが4月から5月にかけて全国ツアー「Yamazaki Masayoshi String Quartet“HARVEST”」を開催。音楽家の服部隆之氏がアレンジを担当し、山崎のアコースティックギター、ピアノの弾き語りと弦楽四重奏の共演によるこのコンサートは、昨年から始まった彼の新しいスタイルだ。会場はカラヤン、小澤征爾などの名演でも知られる東京文化会館。このホールで山崎は、“HARVEST(収穫)”という題名にふさわしい豊かなステージを繰り広げた。


(参考:山崎まさよしの曲はなぜリスナーの心を揺さぶるのか


 最初の曲は、ヴィオラ、チェロによるイントロから始まる「月明かりに照らされて」。1995年のデビュー曲を、ブルージーなアコギ、クラシカルなストリングスとともにゆったりと大らかに歌い上げる山崎。エッジの効いたブルースハープも良いアクセントになっている。さらに代表曲のひとつであるバラードナンバー「僕はここにいる」。指弾きによるアルペジオ、ノスタルジックな旋律を奏でるヴァイオリンが気持ちよく溶け合い、このコンサートのコンセプトが生き生きと体現されていく。伝統あるクラシックホールだけあって、音響も抜群。ひとつひとつの弦の響き、ボーカルのニュアンスまでが伝わってきて、楽曲の魅力、アレンジの質の高さをつぶさに堪能できるのだ。


 いつになく丁寧な雰囲気のボーカルも印象的だった。中村キタロー(ベース)、江川ゲンタ(ドラム)を交えた3ピーススタイルで、プレイヤー同士の個性とエゴがぶつかり合うようなライブを行ってきた山崎だが、クラシカルなカルテットを交えた編成ではおそらく、主旋律であるボーカルのメロディをより正確に歌う必要性が高まるのではないだろうか。その当然の結果として今回のツアーでは、シンガーとしての山崎まさよしのポテンシャルが改めて示されることになった。簡単に言うと、この人はとんでもなく歌が上手い、ということだ。


 「20周年ということで、今回はこういう贅沢な内容で。日頃3人で回ってるところを、あと2人加わってますから」というMCで観客を笑わせた後、映画『春を背負って』の主題歌「心の手紙」と1997年のヒット曲「One more time, One more chance」をピアノの弾き語りで披露し、第一部は終了。第2部のオープニングでは服部氏がサプライズ登場し、「今日、声出てるよね」(服部)「そう……ですか?(笑)」(山崎)と気の置けないトークを展開。デビュー10周年を記念して行われた全国ツアー「YAMAZAKI MASAYOSHI 10th Anniversary LIVE [ARENA 2005]」にも、総勢24名のフルオーケストラを率いて参加した服部氏。MCのなかでも「隆之さんの書かれるストリングスは、それ自体が作品。聴いているだけで、こちらの想像力が掻き立てられる」と語っていたが、山崎まさよしとストリングスとの音楽的なつながりは、年齢を超えた友情と言うべき両者の信頼関係によって支えられていることが改めて感じられた。


 最新アルバムのタイトル曲「Flowers」からは、持ち前の高揚感あふれるパフォーマンスへと突入。パンディロの音をループさせてリズムを作り、ファンキーなギターカッティングが響き渡ると、観客も一斉に立ち上がり、思い思いに体を揺らし始める。「ドミノ」「Fat Mama」ではカルテットのメンバーも立ち上がって演奏するなど、伝統的あるクラシックホールと思えないほどの熱気に包まれた。


 アンコールでは代表曲「セロリ」「お家へ帰ろう」などを披露、観客のコーラスに参加するなど客席とステージの一体感を演出。ブルース、フォーク、歌謡曲などをルーツに持つ楽曲、山崎の芳醇なボーカル、そして、クラシカルなストリングスがごく自然に結びついた、実りの多いコンサートだったと思う。(森朋之)