スペインGPでも「らしい」無線で楽しませてくれたキミ・ライコネン。時に暴言ととれるような発言も飛び出すが、決して感情にまかせて動くことはない。バルセロナでは、セバスチャン・ベッテルとは違う仕様のパッケージを選び、チームプレイに徹していたのだ。
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「クソったれのマルシャは何をやってるんだ!?」
F1スペインGP決勝の20周目、ライコネンは苛立ちを抑え切れない様子で、放送禁止用語を交えて無線で叫んだ。
「もうコーナー3つも、ど真ん中を走り続けているんだ! マルシャをどかせてくれ!」
前戦バーレーンGPで今季初の表彰台を獲得したライコネンにとって、スペインGPは次のステップになるはずだった。
しかし金曜からマシンバランスに不満を訴え、さらにはタイヤウォーマーの誤作動でミディアムタイヤが1セット燃えて、Q3の新品アタックを1回フイにするという信じがたい事態にまで見舞われた。それ以外にもライコネンの苛立ちが募るような凡ミスが重なっていた。
金曜のフリー走行1回目ではレースエンジニアのデイブ・グリーンウッドがコースへと送り出すタイミングを誤り、トラフィックに捕まって、アタックの機会を逃した。
グリーンウッドは「すまない、こちらのミスだ」と平謝り。挙げ句の果てには、ピットに呼び戻してピット作業位置にラバーを乗せながらピットアウトするという作業をやるつもりが、セッション残り時間の関係からピットスルーでコースへと戻さざるを得なくなった。
「何やってんだ? さっきはトラフィックのど真ん中に送り出したし、信じられないよ!」
土曜のフリー走行でも数値セッティングのミスがあり、それを伝えたグリーンウッドに対して、ライコネンが「エクセレント(最高だな)!」と皮肉で返す場面もあった。
さらにフェラーリはQ1最初のアタックでも、ライコネンをトラフィックの中に送り出してしまった。
「すまなかった」
「そうだね、理想的じゃなかった。しかもリヤのグリップがない」
ぶっきらぼうなライコネンの話し方は、周囲に誤解を与えがちだ。しかし、ライコネンは怒りにまかせてスペインGPの週末を過ごしていたわけではない。
金曜の段階でマシンパフォーマンスに満足できなかったライコネンは、さらにパフォーマンスが低下するリスクを覚悟の上で土曜以降は旧型の空力パッケージに戻し、予選と決勝に臨んだ。その背景には、2台が新旧別々の仕様で走ることで正確な比較データ収集が可能になるという理由があった。
ライコネンはチームに対する怒りを募らせてレースを台無しにするようなことはせず、むしろチームに貢献するためのチームプレイに徹していたのだ。
「旧型パッケージに戻したのは僕とチームの判断だ。新パッケージが良いかどうか、はっきりしなかったからね。新パッケージが問題なく、きちんと想定通りの性能を発揮していることを明確にしたかったんだ。もちろん(土曜に旧型を試したら)元に戻すチャンスはないわけだけど、そのリスクを冒すことには納得している」
最後はバルテリ・ボッタスを攻略できず5位に終わったが、ライコネンは淡々とした表情で週末の収穫を振り返った。
「土曜から2台で別々の仕様で走って、多くを学ぶことができたはずだ。学んで知識を増やすことができたなら、間違いなく今後の助けになるだろう。リスクを冒し、多少の結果を犠牲にしても構わないと思っていた。失ったといっても、1レースだけのことだからね」
マウリツィオ・アリバベーネ代表もライコネンの貢献に満足げな表情を見せた。
「2台で比較することで、数値上は新型のほうが優れていることは明確になった。しかし現実を見れば、まだ十分でないことは確かだ。これからデータを分析して、さらなる進歩に役立てたい」
アリバベーネによるフェラーリ新体制は、メルセデス追撃に向けてチームがひとつになって突き進んでいる。
(米家峰起)