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チャットモンチーが語る“音楽と寄り添う人生”「その時の自分の状態によって、音楽は変わっていく」

2015年05月13日 20:51  リアルサウンド

リアルサウンド

チャットモンチー。

 チャットモンチーが6枚目のオリジナルアルバム『共鳴』を5月13日にリリースした。本作は、サポートメンバーを迎えて4人体制として生み出した初のアルバム。「男陣」として恒岡章(Dr. / Hi-STANDARD、CUBISMO GRAFICO FIVE)、下村亮介(Key. & Cho. / the chef cooks me)、「乙女団」として世武裕子(Piano, Synthesizer)、北野愛子(Dr. / DQS, nelca / ex. your gold, my pink)が参加しているほか、チャットモンチーと恒岡章のスリーピース、チャットモンチーのふたりという、計4パターンのメンバー編成による楽曲が収録されている。それぞれの楽器編成を反映し、新機軸と呼ぶべきサウンドをたっぷりと収めた充実作『共鳴』について、また一つの転換点を迎えたバンドキャリアについて、二人が大いに語ってくれた。(編集部)


・「ずっとギターが鳴ってなくてもいいと気づいた」(橋本)


――シングル『ときめき/隣の女』のインタビュー(チャットモンチーが明かす、デビュー10周年の現在地「やりたいことが進化しているのはすごく幸せ」)では、当時制作中の本作について「ヒッピーもいればボンテージの人もいる、アイドルもいればラッパーもいる」と語っていました。実際のアルバムは、4パターンの編成による多彩なサウンドで、まさに新機軸を打ち出した作品になりましたね。


福岡晃子(以下、福岡):チャットモンチーは3ピースのときからずっと“引き算”ばかりしてきたから、音が増えることやメンバー以外の人とやること自体がまず大きな変化でした。でも『こころとあたま/いたちごっこ』あたりから音を重ねる作業にも興味が出て。そうすると、やりたいジャンルが次々に出てきて、それで今回、いろんなものに挑戦してみたんです。だから、自分が個人的に好きな音も入れられて。そういう意味でもかなり好きなアルバムになりましたね。


――具体的に、好きな音を入れた曲とは?


福岡:アルバムの曲で最初にできた、3曲目の「ぜんぶカン」というラップの曲です。ああいう曲は今までのチャットにはなかったので、作ってみたいという思いがありました。まず、えっちゃんがラップの詞を作ってきて、それをアコギで披露してくれて。そこでメロディがわかったから、もう一度作り直した、という感じです。


――絵莉子さんご自身の中に、ラップという引き出しがあったのでしょうか?


橋本絵莉子(以下、橋本):いや、ほぼないです(笑)。スチャダラパーさんとコラボして曲を作ったり(「M4EVER」/スチャダラパー『1212』収録)、group_inouさんとライブしたりして、その頃から芽生えてきたくらい。この曲はギターを弾いてないんですけど、アルバムとしても今回はギターの居所を考えたというか、ずっとギターが鳴ってなくてもいいということに気づいたんです。“あたしが鳴らさなくてもいい”という意識を持てたのは初めてでした。


――なるほど、ギターのポジションが大きく違うわけですね。晃子さんはトラックを作る際、どんなサウンドをイメージしました?


福岡:ヒップホップの作り方を全く知らなかったから、「どうやって作ってるんやろ?」っていうところからのスタートでしたね。とりあえず、ビースティ(・ボーイズ)っぽいのがいいなと思いつつ、ドラムから作ってみて。本当はドラムの一音一音をサンプリングしてビートを作るんでしょうけど、本当にわからないので、自分で叩いたドラムを変換して、後で音を乗せ変えてみたりしたんです。そういう作業も初めてでしたね。


――ビースティ・ボーイズの『イル・コミュニケーション』あたりの感覚ですね。


福岡:そうですね。なんか、上手さよりもワクワクする感じのビートのほうが生っぽくていいいかなって思いました。一方で、ウワモノはけっこう機械っぽくてもいいのかなと。


――パンキッシュなバンドっぽい部分とダンスミュージックがミックスされていて、ヒップホップでもあるし違うものでもある、斬新なダンスナンバーになっていると思います。


橋本:この曲ができたから、またギターをちゃんと使った曲をやりたいと思いました。最後まで「これやったから今度はこっち」って、幅を感じながらアルバムを作っていきましたね。


・「一貫していることは、ふたりともポップが好き」(福岡)


――その点、1曲目の「きみがその気なら」はロックナンバーで、アルバムの“強さ”を印象づけている曲ではないでしょうか。


福岡:この曲はもともと人に提供するつもりで、2ピースのときに作ったんです。けっこう思い切った曲で、チャットでは歌わないような歌詞を書いてみたんですよ。でも結果的に提供するという話がなくなって、チャットでやるなら歌詞を変えようと思ったんですけど、えっちゃんが「そのままでええんちゃう?」って。


――<この地球で生き残るのだ><生命力が響いている きみがその気なら>というフレーズはインパクトありますね。「そのままで」となったのは、チャットでも歌えると思ったからでしょうか。


橋本:この『共鳴』っていうアルバムにぴったりだと思ったからです。歌詞に「乙女」が出てきたり「男」が出てきたりっていうのが、このアルバムを物語っているようで「すごい、予言者!」って思ったし、メロディもすごくいいなと思えたので。


――男陣と乙女団のアレンジに関して、乙女団は「あ・うん」の呼吸で仕上げが早いけれど、男陣は理想形をとことん追求するので時間が掛かる…と、前回お聞きしました。この曲に関してはじっくりと練り上げていったのでしょうか。


橋本:レコーディングの終わりのほうで作った曲で。それで、この曲を男陣でやるか乙女団でやるか、それともみんなでやるかってすごく悩んだんです。結局、男陣でやるって決めて。もともと2ピースのときに作ってた曲だけれど、提供するつもりだったから、ベースもギターもドラムもリフも全部入ってたんですよ。なんとなくの完成型もあって、「こんな感じ。これをみんなで」というイメージだったので、方向性はそんなに迷わなかった気がします。


――今作の収録曲では、男陣と乙女団の楽曲のサウンドが割と分かれている印象があったのですが、この曲に関してはフラットな感じがしました。それぞれのサウンドを改めて振り返ってみるとどうでしょう?


橋本:男陣は“四角とか三角とか定規で測る”みたいな感じで、乙女団は“布とか丸とか、ちょっと測れない”感じ。やっていくうちに、そんなイメージになりました。


――確かに乙女団による「最後の果実」には、布のイメージを感じます。


橋本:はごろも感がありますよね。天女みたいな、そんな感じがします。


福岡:男と女の音の差がこんなに顕著に音に出るんやって、すごく強く思いました。もちろん、個人の性格の違いはあるんですけど、統計して「男と女ってこんな感じなんやな」っていうのが思いっきり音に出てるんちゃうかなって。そのぶん、私たちが中性的やったんやなって思いました。男陣といるときは男性寄りになれるし、乙女団といるときは女だったことを思い出すんですよね(笑)。


――なるほど。男陣、乙女団それぞれの楽曲で見えてきた、チャットモンチーらしさというものがあるのではないでしょうか。


福岡:一貫していることは、ふたりともポップが好きなんですよね。だから、人に伝わらないことはあまりしない。でも、「こうしたい」という気持ちが毎日変わるんですよ、ライブでも、アレンジでも。ふたりとも思いつきが多いというか、バンドをどうしていくか、どうあったほうがいいかと考えている時間が長いんでしょうね。日々「もっとこうやったほうが面白いんじゃないか」って思ってるから、そのスピードが早くて。考えが先に及ぶから、ここ数年のアルバムは以前と全然違うことになってきてるんです(笑)。


橋本:私はこういう内容のアルバムになると思ってなかったんです。『変身』から考えると。チャットモンチーには、いつもいま思っていることじゃないことが起こるんですよ。だから、どうなるか自分でもわからない。いいことを言うと、“計り知れない”というか。


――『変身』のときに考えていた未来のチャット像とは変わってきていると。


福岡:とりあえず、“えっちゃんが子どもを産んでからじゃないとわからへん”ということもありました。それで全く変わってもいいし、そのままでもいいって。とにかくその時の自分たちの状態によって音楽が変わるのはすごくいいことだと思っていて。特に私は、チャットがこうあり続けなきゃいけない…って思いすぎることが多いので、それはもう自分たちの身に任せようと。自分たちの歩むべき人生に音楽を寄り添わせるのが、いちばん自然なんじゃないかと思うんです。


橋本:高校から音楽をやっていて、出産前後は、これまででいちばん音楽活動をしなかった時期なんです。十何年ぶりに、音楽に携わらない、端から見てるという時期だったから、その間はすごく不思議な感覚でした。


――音楽やチャットのことは常に頭の中に?


橋本:バンドをやっている感覚が鈍るんじゃないかという思いがいちばん強かったです。でも、一日くらいで戻った気がします。久しぶりにスタジオに入って、最初は、少しだけ戸惑ったけれど、やっぱり大きい音出すっていいなと思って。そういうのって、ずっとやってたらわからないことですよね。バンドでジャーンってやる感じとか、わぁって思いましたね(笑)。


――お休み中は、おふたりのなかで創作意欲は継続していたのでしょうか。それとも一区切りがあったのでしょうか。


福岡:どうだったんだろう。でも、演奏とか、音楽と離れることがなかなかないから、それが逆にいい機会だと思ってお互い過ごそうと。私は海外に行きまくってましたね。外国でどうやって音楽が鳴っているかというのが気になって。それもすごく勉強になりました。外国だったら、BGMが生演奏だったりとか、ストリートミュージシャンにお金を払う感覚が日本と違っていたりとか。プロでもその辺で演奏していたり。「やっぱり自由やな」というのは、海外に行って思って、それと自分たちがどうということは直接的にはないけど、「こうあるべき」というのを思いすぎなくてもいいんやなと思いました。それが男陣とか乙女団とか新体制にも表れたんだと思います。


・「徳島に帰ると、かなりフラットに戻れる」(福岡)


――なるほど。作品のお話に戻りますが、5曲目の「毒の花」は晃子さんが作詞の新しいタイプの曲。前作の『ときめき/隣の女』に引き続き、静かな鋭さがある曲ですね。


福岡:この曲は徳島で書いたんですけど、故郷にいると、東京にいる自分を客観的に見れるというか。徳島に帰ると、かなりフラットに戻れるんですよ。普段こんな感じだなって。例えば、自分自身が毒というものだとしたらどうだろうと考えると、すごく孤立しているものに思えますよね。でも、自分より強力な毒に会うと抑制される…人ってそういうものかなって、自分のことを考えたときにそう思ったんです。


――より大きな毒の前だと飲み込まれてしまうというのは、人間の一種の悲哀みたいなものでもありますよね。


福岡:でも、滅多に毒同士で会うことってないし、自分も他人を刺してしまうこともあったりする。(毒とは)滅多に交われないけど、制されるときがあるというか。とはいえ、人として生きるみんなのことを「花」って例えている曲でもあるんですよね。そういう感じで、なんかうまく言えんから歌詞にしてます(笑)。


――そうしたユーモラスな毒っ気のようなものは、チャットモンチーのこれまでの曲にも見え隠れしていましたが、今度のアルバムではかなり全編に散りばめられている印象でした。


橋本:毒っ気があるからこうやって曲にもなるし、「これ私のこと!」って言ってる人も多いんですね。みんなが思っていることなんだな、みんな毒を持っているんだなっていうことも、今回感じました。


――みんなが思ってるけど、普段は言わないことを歌う。


福岡:そういうのを歌ってる人が少なすぎるだけかも。私にとってはけっこう普通のことだと思うから、言っちゃえと思って書いてるんですけど、「毒がありますよね」「グロテスクですよね」ってすっごい言われて、「そんなにか」と思って、けっこう反省したり(笑)。本当に普通に恋愛や家族の曲を書くように出てきただけなので、取り立ててそれにメッセージを込めたってことじゃないんですよ。


――先ほど自分を客観視するという話が出ましたが、6曲目の「私が証」にも自分自身と向き合うような印象がありました。


橋本:「私が証」の歌詞は2年くらい前の歌詞で、いろいろ考える期間もあった時期のものだから、“今までとこれから”みたいな感じがありますよね。チャットモンチーとしてやっていく上での気持ちというか。


――音楽を作り続けることに重圧を感じることもありますか?


福岡:音楽を作るということは苦ではないんですけど、作る期間は、やっぱり定時で仕事する人たちがその時に見聞きするものを全部インプットするような気持ちでいます。全部見て、それを何かに変えてやろうと思うから、そういう意味でちょっと疲れることはありますね。あと、自分が傷つかずに歌詞を書くのは難しいなと、今回すごく思いました。毒というか、自分が周りにどういう人って思われてもいいというか、作品が良ければそれでいいと思えるようにはなりました。


――普段言わないことも、創作の種となるというか。


福岡:そうですね。もういいかなと思って(笑)。チャットモンチーはあまり自分たちとかけ離れたことは歌わないバンドなので、フィクション、ノンフィクションでいくと、ノンフィクションのことが多いんです。いま現在の自分がそういう人間なんだと認識されてもいいから、そのときしか書けないことを書いたほうがミュージシャン的には嬉しいというか。そのまま出せるのは自分とバンドの状態がいいということですからね。


――今回、西 加奈子さんが歌詞を書かれた曲(9曲目の「例えば、」)もあって、ある意味では異なる血が入っていますよね。でも、すごくチャットモンチーらしい曲でした。


橋本:ちゃんとチャットモンチーの曲になりました。もともとすごく好きな作家さんだから、交わらないはずはないとは思います。もちろん、「大好きな西さんの歌詞や! わぁっ」て思ったけど、好きやからこうなるよねって。


――交わる部分というのは、どういうところで感じましたか?


橋本:サビの<僕らにまつわるすべてのことは ひとつも欠けてはいけなかった>という部分は、10周年のチャットにすごく交わるなと思いました。


福岡:私も歌詞を見たときに“自分たちのことかな”って思いましたね。あと、作家さんというのがすごくいいハードルになったというか。西さんの本が好きな人も、チャットの音楽を好きな人もいいと思えるものを作りたいとすごく思ったんです。「やって良かった」と思えるものになるには、その歌詞にそって、ふたりで演奏するのがいいかなと思いました。


――だからこそ、この曲はチャットモンチーのふたりで作ったと。おふたりの考える西さんの言葉や作品の魅力とは?


橋本:歌詞と作品とではまた違うんですけど、文字を読んでいて想像が広がるし、「こういうことを文章にしてくれたんだ!」という感覚があります。きっと、チャットの歌詞の「毒」もそうやって思ってくれている人が多いと思うんです。「こういう気持ち、こうやって書くんや」「でも、難しくなく書いてるから、思いつかなかった」っていうことが多々起こって、西さんの本は特にそれのくり返しというか。「わっ」って驚くことばっかりだから、そういうのが好きなんでしょうね。


――さて、対バンツアーが発表になりましたが、これもかなり自由ですよね。たとえば、広島公演で共演する柳沢慎吾さんが何をするんだろうとか。


福岡:柳沢慎吾さんは何をしてくれるのかまだわかんないです。ダメもとでお願いしたらOKを頂けました。とにかく人を引きつける魅力が百人力くらいある人なので、そういう意味ではめちゃくちゃ強力、バンド並みに音圧がすごいと思うんですよ。このツアーは基本的に、チャットが好きなバンドをお客さんに好きになってもらったり、個々で見たことがあっても、一緒にいるのは見たことがないとか、組み合わせ的に面白いものを見てもらったり、というポイントをすごく大事にしています。イベントを組むのも、出るのもアマチュアのときから多くて、一日6組くらいのイベントに出る世代だったので、どうしてもイベントをやりたがるところがあって(笑)。あの感じって絶対に楽しかったし、ワンマンで見るのももちろんいいけれど、そこでしか出会えないこともすごく大事やでって思いますね。


――チャットモンチーの編成としてはどうなるんですか?


福岡:男陣、乙女団、チャットの6人のミックスですね。とにかく聴いても見ても楽しめるライブにしたいと思っているので、絶対に一回はライブに来てほしいです。


橋本:うん。フェスにミックスで出るのも初めてなので、楽しみたいです。


(取材=神谷弘一/構成=橋川良寛)