昨年、無料通話・メールアプリ「LINE」のアカウントが乗っ取られ、WebMoneyといったプリペイドカードの番号を要求される事件が相次いだ。
そんな中、ネット上で大きな話題を呼んだのが、「ロケットニュース24」で公開された『【実録】死闘74分! 今度こそマジのマジで念願だった「LINE乗っ取り」と戦えた!! ジラしにジラして寝技に持ち込み相手はブチギレ爆発TKO』という記事だった。
「ロケットニュース24」編集長のGO羽鳥さんがLINE乗っ取り犯に果敢に立ち向かい、撃退するまでの一部始終を公開した本記事は、なんと2015年4月20日までにツイート数18400以上、Facebookのシェア数15万以上という驚異的なバズり方を見せている。
そんなLINE乗っ取り犯との戦いをはじめとした、GO羽鳥さんの迷惑メールとの激闘の記録を一冊の本にしたのが
『絶対に返してはいけない 迷惑メール、LINE乗っ取りにマジレスしてみた。』(ワニブックス/刊)だ。
昨日配信した前編に引き続きお送りする、「ロケットニュース24」編集長・GO羽鳥さんへのインタビュー、今回は後編だ!
(インタビュー・構成:金井元貴)
■GO羽鳥さんが影響を受けた一冊の本とは?――芸能人の名前を使って迷惑メールを送ってくる「クリスマスの安室奈美恵」では、添付されている画像の正体を「画像検索」を使って解析していますが、そういうやり方があるのだなと思いました。GO羽鳥:そうですね、画像が送られてきたらすぐに検索かけます。それでだいたい分かりますね。
――最近の迷惑メールで印象に残っているものはありますか?GO羽鳥:面白いのは迷惑メール界の「美輪明宏」さんからのメールですね。名前の表記の仕方が日々進化しているんです。「【美】輪明宏」だったのが、「【美しき輪】明宏」とか、「明宏【救いの伝道師】美車侖」にどんどんパワーアップしているんですよ。ものすごくどうでもいい進化なのですが、私はそういうところにシビれるんです。
――ここからはGO羽鳥さんご自身についてお話をうかがいたいと思います。現在は迷惑メール評論家として活動をしながら、「ロケットニュース24」の編集長として、また漫画家としてもご活動されていますが、本業と聞かれると何になるのですか?GO羽鳥:面倒くさいので漫画家と言っています。分かりやすいので。海外に行くことも多いのですが、出入国カードにもそう書いていますね。
――3月から4月にかけて世界を飛び回っていらっしゃいましたが、これはお仕事ですか?GO羽鳥:仕事です。まずはアメリカに行きました。ネタを探すために。「ロケットニュース24」としても、海外取材ネタは増やしていきたいと思っています。ベトナム行きは、チャレンジ企画です。5万円でどれだけ楽しめるのかというネタです。急きょ弾丸で行くことになりました。
――以前、出された本を見てみると、バックパッカーとして世界各国を飛び回っていらっしゃったんですよね。危険に対する察知能力はそういったところに磨かれたのではないかと。GO羽鳥:それはあるかもしれませんね!
――これまでで一番危険だと思った瞬間はなんですか?GO羽鳥:これはなんだろう…。詐欺とかではないのですが、上海で北京駅行きの電車に乗り遅れそうになって、慌ててホームに行ったんですね。そうしたら、電車が停まっているホームを間違えてしまって、このままじゃ本当に電車に間に合わない、と。上海駅は大きいので。
それでホーム上で騒いでいたら、上海駅の掃除スタッフたちが「ホームから線路に降りて、向こうのホームに渡っていけ!」とか言っているんですよ。ジェスチャー付きで。しかも目的のホームまで1両車両が停まっていて、その下をくぐっていかなければいけない。今思えばすごく危険なんですが、若い掃除スタッフたちは「みんなやってるよ! GO! GO!」とか言うんですよ(笑)。
背に腹はかえられず、ホームに降りて、電車の下をくぐって……行ってみたのですが、くぐってる最中に、うしろのほうから「ぎゃはは!」って爆笑の声が聞こえました。掃除スタッフたちです。「あー、だまされた……」と思いましたが、今さら引き返すわけにもいかないので、そのまま向こう側のホームにズズズッって上陸した……と同時に、鉄道警察みたいな10人位の屈強な男たちに引きずり出されて、拘束されました。
――それは一歩間違えれば電車に轢かれていたかも…。GO羽鳥:本当にそうです。騙された私が悪いのですが、これも迷惑メールとかの詐欺と同じで、「焦っていたから冷静な判断ができなかった」わけです。
ちなみに、北京へは次の電車で行けたのですが、そのときちょうどサッカーのAFCアジアカップが開催されていて、北京で日本と中国の決勝戦があったんです。それを見るために、北京へ向かったわけです。でも私はチケットを持っていないので、スタジアムのまわりにいたダフ屋から買いました。それしか入手段がなかったんです。
それで入ろうとしたら、入り口で「これはニセチケットだ。入れないアル」と。そこでちょうど、旅中に知り合った日本人の友達に偶然会いまして、彼が持っていた正規のチケットと比べさせてもらったら……やはり私が買ったのはニセチケットなんですよ。スカシが違う。なんか変。それで私、スタジアムの周囲にいるダフ屋全員にあたって、チケットを見て回ったんですね。100人以上のダフ屋には声かけました。チケットも見せてもらいつつ。そうしたら全部ニセチケット(笑)!
だから試合が始まってもスタジアムに入ることはできませんでした。ちょうどそのとき中国人サポーターの反日行為が問題になりましたけれど、あれがなぜ起きたかというと、中国人たちもニセチケットを掴まされていたんです。試合が始まった時点で、スタジアムの柵とかをガチャガチャやって「入れろー!」とか大騒ぎしていました。そりゃ怒ります。なにせ大金払ったのにニセチケットだったわけですから。
で、スタジアムに入れなくてフラストレーションも爆発寸前だったうえ、中国は試合に負けてしまったものだから、一気に爆発して暴動が始まって。私は香港やシンガポールから来た報道陣のフリをして、暴動のど真ん中に突っ込んで写真を撮りまくっていました。ああいう嵐の中では逃げる方がよほど危険なんです。その中にいたほうが目立たないので。
――それはまさに危険を回避する能力ですね。GO羽鳥:そういう危険を感じることは、海外ではたくさん経験しました。インドのデリーの安宿でマンガを描いていたら、「ボーン!」という大きな音が鳴ると同時に部屋もタテ揺れして、なんだと思って窓を開けたら、買い物とかのために毎日通る道にあるお店が爆破されていたり。死者もたくさん出ました。テロでした。
あとは人を騙そうとしてくる人はどの国にもいますが、共通しているのは目が違うということですよね。完全に騙そうとしている目をしている。それはすぐに分かる。
――まずは目を見る、と。そういったご経験を通してウェブニュースの編集長に行き着くんですね。GO羽鳥:もともと私はサブカルジャンルの人間で、主にグラビア誌とかで漫画やコラムの連載をしていました。で、出版不況になったとき、そういった雑誌の中で一番最初に切られるのがサブカルコーナーなんですね。私が海外の放浪から日本に帰ってきたら、出版不況が始まっていました。「日本に帰ってきたのに仕事がない!」状態です。
そんな状態では生活できないので、ひょんなことからAV動画にモザイクを入れるアルバイトをすることになりました。ちゃんとした携帯用アダルト番組のための動画です。あの時代はまだガラケーが主流で、画面も小さいので画素数が粗い。すると、モザイクが入っていても、無修正に見えてしまう、と。よって、「二度がけ」しなきゃいけなかったんです。そんなことをやりつつ生き延びていたら、紆余曲折あって「ロケットニュース24」に関わることになりました。
――GO羽鳥さんが今まで影響を受けた本をあげていただければと思います。GO羽鳥:これはクーロン黒沢さんの『電脳アジアコピー天国』という本です。1994年に、秀和システムから出版された本です。
――クーロン黒沢さんとはお仕事をご一緒されていましたよね。GO羽鳥:はい、しています! この本は中学生のときに渋谷・代々木公園のフリーマーケットで、100円で買ったものなのですが、非常に面白くて何回も何回も読みました。もうクーロン黒沢さんは私の憧れで、その影響で怪しい世界に興味をもつようになり、秋葉原の怪しい系のお店にも通うようになりつつ、主にアキバで流通していたマニアックなゲーム系のミニコミ誌でマンガを描いていたら……なんと黒沢さん本人にからお呼ばれされて、いきなり書籍デビューできたという。だから、クーロン黒沢さんは私にとっての神です。この本がなかったら漫画家にもライターにもなっていなかったと思います。
――フリーマーケットでこの本を手に取ったのはどうしてだったんですか?GO羽鳥:ちょうどそのころ、私の姉がシンガポールに旅行しに行きまして、お土産として「in1(インワン)カセット」というものを買ってきてくれたんです。これは、ファミコンカセットの中に4本分のゲームが入った違法ソフトです。なにこれすげえ!って思っていたら、ちょうど同じタイミングで読んでいた『ファミ通』でも、鈴木みそ先生の連載漫画の中で、その「in1カセット」が出てきたんです。その流れで、フリマで「電脳」「アジア」という文字を見つけてしまったので、もしかして……と思ったら「やっぱり載ってるよ!」と(笑)。3連発で私の前に怪しいモノが現れたので、完全にハマりましたね。
――まさしく運命の出会いですね。この『絶対に返してはいけない 迷惑メール、LINE乗っ取りにマジレスしてみた。』も誰かの人生を変えてしまうかもしれない。GO羽鳥:変えていたらいいですよね(笑)
――では最後に、本書をどんな人に読んでほしいですか?GO羽鳥:いまだに(迷惑メールやLINE乗っ取りに)騙される人がいますが、その人たちは「ロケットニュース24」の私の記事も見ていないわけですよね。もしも見ていてたら、絶対に騙されない。インターネットを見ていなかったり、ネットニュースを見ていない人たちが特に騙される傾向にあると思うので、そんな人たちにこの本を読んでもらえれば、被害者も減るのではないかと思います。そうであってほしいです。
(了)
■GO羽鳥さんプロフィール
迷惑メール評論家。1979年生まれ。東京都出身。幼少時代より漫画を描きはじめ、中学時代で「週刊プロレス」の常連投稿者、高校時代はミニコミ誌においてアマチュアデビュー、そして99年漫画家としてプロデビュー。多数の雑誌や書籍で漫画家、イラストレーター、ライターとして活躍。現在は、ロケットニュース24編集長も務める。漫画家としてのペンネームは「マミヤ狂四郎」。
『絶対に返してはいけない 迷惑メール、LINE乗っ取りにマジレスしてみた。』
GO羽鳥/著、ワニブックス/刊