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裁量労働制で心臓マヒの男性に異例の「労災認定」 不適切な制度運用へのけん制となるか

2015年05月13日 15:40  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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実労働時間ではなく、あらかじめ定めた時間働いたものとみなして給料を支払う「裁量労働制」で働いていた男性が心室細動(心臓マヒ)で亡くなったケースについて、東京・三田労働基準監督署が労働災害と認めたと報じられている。

各紙はこれを「極めて異例」と紹介。裁量労働制の場合、会社は実労働時間を把握していないことが多く、過労を認定しにくいことがその理由だ。しかしネットには「裁量労働制の実態はまさにこうだ」などと憤る声が相次いでいる。

出勤9時半・退勤27時でも「時間外勤務ゼロ」と嘆く人も

毎日新聞の記事によると、この男性が働いていた会社では、残業時間はみなしで月40時間とされていた。しかし遺族側が男性の労働実態を調べたところ、午前3時ごろに起床して海外市場の動向を分析し、午前6時ごろに出社していた。

朝一番に顧客向けリポートを送り、退社は午後6時半ごろ。昼休みを1時間取ったとして会社にいる時間だけでも11時間半。早朝の自宅残業を1時間半として1日13時間、月100時間程度の時間外労働があったという計算となる。遺族によれば、心疾患発症前1か月の残業は133時間あったという。

さらに会社は、早朝出勤している男性に対して「他の従業員より早く帰るな」と注意していた上に、正確な労働時間を把握していなかった。これでは裁量労働制といっても「本人の裁量は実質的になかった」(遺族)という指摘もうなずける。

この記事はネットで大きな話題となり、「裁量労働の実態はこうだよ。裁量なんてない」と会社や制度を批判する声があがっている。

「裁量労働制マジクソだなって思うよ…もうゴメンである」
「異例って言葉を使っている時点で、古い体質が露呈されたと思う」
「うちの旦那も140時間残業してた…寝不足、食事とらない、ストレス、疲労ってほんっっっとに体根こそぎ壊すよ…。みなし労働制だろうと勤務時間は記録するべきでしょ」

ある会社員は、タイムカードを「出勤9時半・退勤27時」で連日打刻しているのに、裁量労働制を理由に「時間外勤務:0時間 時間外手当:0円」と表示されているのを見て「絶望を感じた」と明かす。

不適切な運用に対するけん制として働けばよいが

裁量労働制は、本来「労働時間と成果・業績が必ずしも連動しない職種」において、時間配分などを大幅に労働者の裁量にゆだねるもの。当然「定時前退社」が許されてしかるべきだ。

しかし実際には「仕事の遅れ」などを理由に、多くの職場で長時間労働を強いられているのが実態だ。また、会社には労働時間の把握・管理義務が残るが、実際には労働者任せで会社が正確な労働時間を把握していないことも多い。

日本の職場特有の「協調性」や「おつきあい」という意識も、裁量労働制がうまく運用されない理由になっていると指摘する人もいる。

「日本は労働基準が定められているにもかかわらず、労働者が周囲との信頼関係や上司との付き合いを悪化させないよう、労働基準を破ってしまう例が多々ある。『本人が望んだ』としても、それは付き合い上の問題であることが多い」

現在国会で審議中の労基法の改正案と絡めて、「残業代ゼロ法案が通れば過労死認定がますます難しくなり、泣き寝入りが当たり前となってしまう…」と不安を書き込む人も。

改正案には、裁量労働制の営業職への適用拡大と、高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ制度)が組み込まれている。「多様で柔軟な働き方の実現」が制限のない長時間労働につながる恐れがあるという指摘だが、今回のような「異例の労災認定」が、裁量労働制の不適切な運用に対するけん制として働けばよいのだが。

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