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浜田省吾、今なお人気を集める理由とは? 新アルバムが2週連続チャート1位を獲得

2015年05月13日 08:21  リアルサウンド

リアルサウンド

浜田省吾『Journey of a Songwriter ~ 旅するソングライター』(ソニー・ミュージックレーベルズ)

 実力派のベテランミュージシャンが昨今、ヒットチャートを賑わしている。3月31日に発売されたサザンオールスターズの『葡萄』が、オリコンチャートの1位に輝いたほか、1月21日にリリースされた徳永英明の『VOCALIST 6』や、昨年9月10日にリリースされた竹内まりやの『TRAD』も、軒並み好セールスを記録した。


 そんな中、浜田省吾の10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Journey of a Songwriter ~ 旅するソングライター』もまた、発売2週で10.5万枚を売上げ、5月11日付け、5月18日付けのオリコン週間アルバムランキングで2週連続首位を獲得。2週連続となる首位は60代のアーティストとしてシングル・アルバムを通じて史上初の快挙となった。


参考:浜田省吾、35年ぶりのラジオパーソナリティで山口智充と音楽談義 作品への思い語る


 浜田省吾もまたベテランミュージシャンとして、いまなお厚い支持を集めていることが改めて浮き彫りとなったが、なぜ彼の音楽は求められ続けるのか。その理由を、キャリアや音楽性、最新作の傾向から読み解いていきたい。


 浜田省吾がミュージシャンとしてデビューしたのは1975年。吉田拓郎らが中心となって結成したフォークサークル「広島フォーク村」を出自に持つバンド・AIDOのドラマーとして世に出た。しかし浜田は自身のドラムの腕前に限界を感じ、1976年にはシンガー・ソングライターに転身しソロデビュー。しばらくは巡業などをこなし、自身の方向性を模索することになる。その後、1979年に発表したシングル『風を感じて』がヒットし、翌1980年にアルバム『Home Bound』で音楽性を本格的なロックに定めていく。1986年にはアルバム『J.Boy』が初のオリコンチャート1位を記録。1992年にはテレビドラマ『愛という名のもとに』で多くの楽曲が使用されたこともあり、これまでの音源も改めて高く評価され、ロック・ミュージシャンとしての地位を確かなものにした。


 ビートルズやザ・ビーチ・ボーイズをルーツに持ちながらも、日本語による歌唱にこだわり、日本のロックのひとつの形を作ったとも称される浜田省吾。時代性に向き合いながら、情景や感性を丁寧に描写するスタイルは、ロックファンにとどまらない幅広い世代のリスナーを獲得し、尾崎豊やMr.Childrenの桜井和寿、福山雅治など、後進の多くのミュージシャンにも影響を与えてきた。35年ぶりのラジオ・パーソナリティとして、5月1日放送の『浜田省吾と山口智充のオールナイトニッポンGOLD』に出演した際、浜田はデビュー時のことを述懐し、「当時はロックシーン自体がなかったので、10年後のことなどはまったくわからなかった。いつも自分たちがやっていることが、シーンになっていったっていう感覚が強いですね」と語ったように、その活動の軌跡は、現在のシーンの礎を作り上げたといっても過言ではないだろう。


 音楽に向き合う姿勢もまた、いまも変わらずリスペクトされ続ける所以だ。浜田の詩世界は内省的でありながら社会派な一面も備えていて、たとえば1986年に発表された代表曲のひとつである「J.Boy」は、“JAPANESE BOY”という意味の造語をタイトルに冠した作品。ひとりの少年の成長物語を描きながら、成熟しない日本を否定的に捉えて歌うロックナンバーに仕上がっている。自らの体験や心象風景を題材としながらも、言葉の選び方やサウンドで時代を鋭く照射するスタイルは、時を経て聴くと、古びるどころかかえって人間の普遍的な心情が浮き彫りとなってくるから興味深い。


 もちろん今作『Journey of a Songwriter ~ 旅するソングライター』でも、浜田のそうした姿勢を伺うことができる。たとえばタイトルナンバーである「旅するソングライター」では、「成し遂げたことより / 今をどう生きるかって考えてる / 自分忘れの旅の途中で」という歌詞があるが、この一節からは浜田自身がキャリアを重ねたうえで、さらに新たな地平を目指していることを示唆させる。あるいは「夜はこれから」では、近年世界的に流行しているダンス・ミュージックに真っ向から挑戦、EDM風のヴォーカル・エフェクトを取り入れるなど、いまも変わらぬ音楽的探究心を見せている。


 大御所ミュージシャンとして確固とした成果を残しながらも、いまの時代の音楽と向き合い、新たな作品を生み出し続けている浜田省吾。本作『Journey of a Songwriter ~ 旅するソングライター』もまた、時を越えて多くの人に愛聴される一枚となりそうだ。(松下博夫)