トップへ

Alfred Beach Sandalと王舟が2マンライブで披露した、鮮烈なバンドアンサンブル

2015年05月12日 17:41  リアルサウンド

リアルサウンド

Alfred Beach Sandal。(写真=山川哲矢)

 Alfred Beach Sandal(以下、ABS)と王舟が5月8日、東京・渋谷 QLUB QUATTROで2マンライブ『Wang's Honeymoon』を行った。


 同ライブは4月22日にABSがEP『Honeymoon』を、王舟が『Wang LP』を同日リリースしたことを記念して実施したツアーの初日公演。共通のファンも多い2組のライブを一目見るため、会場には多くの観客が訪れた。独特な発音の英語と日本語を使い分けた歌詞や、多国籍かつ親しみやすい音楽性を持つ王舟と、ロックやラテン、ブラックミュージックなど様々なジャンルをコラージュしたような実験的な音楽性のABSは、共にソロとして活躍している2組。だが、この日はともに馴染みのあるサポートメンバーを迎えて、バンドセットでライブを実施した。


 開演時間が過ぎ、まずは王舟のライブがスタート。ギターノイズの轟音に紛れながら鍵盤が小鳥のさえずりのように奏でられると、自身が影響を受けたというオアシスの「Songbird」をカバー。観客を一気に引きつけたかと思えば、今度はライブで度々披露してきた電気グルーヴの「虹」を独自のアレンジで演奏するなど、序盤から王舟らしい、人を喰ったような変幻自在さを見せつけた。


 その後は王舟がバンド時代に制作していたという「tatebue」、「Ill Communication」「New Song」「とうもろこし畑」を、フルバンド編成で立て続けに披露。もちろんこれらの曲は弾き語りで歌われる良さもあるが、やはりバンドを想定していただけに、フルバンド編成にピタリとハマっていた。王舟のバンドは岸田佳也(ドラム/トクマルシューゴ、俺はこんなもんじゃない、スッパバンドなど)、池上加奈恵(ベース/真黒毛ぼっくす)、潮田雄一(ギター・バンジョー/QUATTRO)、などが参加しているが、「New Song」ではつい性急になってしまいがちなドライブ感をパワフルなまま上手くコントロールし、潮田のバンジョーが気持ちよく響く「uguisu」ではゆったりとしたシャッフルビートで盛り立てる岸田のドラムがこの編成の核であるように思えた。


 そして、王舟のMCは、この日もいつもどおり飄々としていた。何の脈絡もなく「JR止まったそうですね、大丈夫でした?」と急に観客へ問いかけると、客席は肯定も否定もせずにただ笑い声だけが響く。字面で見ると一見冷たいように思えるが、このゆるい繋がりが彼らと観客の良い関係性で、場所が変われど、会場の空気は彼らが初めて共演した八丁堀・七針と対して変わらないと感じさせた。


 後半は、潮田と2人で弾き語ったピーター・ポールアンドマリー「500 miles」のカバーから、7インチシングルの表題曲「Ward」を披露し、そこから彼の代表曲である「Thailand」へ。音源では王舟が伸びやかに歌っている同曲だが、バンドアンサンブルの勢いに合わせ、彼の歌もエモーショナルなものへと変化していた。そして最後はABSがカバーした際に出来たフレーズを王舟がアルバムの音源に使ったというファンク調の「瞬間」を披露し、ステージを後にした。


 その後登場したABSは、初夏にピッタリな爽やかさを纏った「Coke, Summertime」、「Dynamo Cycle」「Night Bazaar」を立て続けに演奏。コントラバスを持った大男・岩見継吾(コントラバス・ベース/ex. ミドリ、Zycos、Oncenth Trioなど)と、光永渉(ドラム/チムニィ、ランタンパレード、ceroなど)の緻密なドラム捌きによるアンサンブルは、先日のインタビューでABSこと北里彰久が「この3人だから完成している空気感がある」と述べたように、見るごとにその一体感が強まっているように思えた。「Rainbow」の最後で鳴らす口笛も、それぞれが長く鳴らそうとして観客を笑わせたりと、共有している独特なノリもあり、もはやサポートという概念では括れないものになっていることがわかる。(参考:【特別対談】Alfred Beach Sandalと王舟が語り合うソロ活動のスタンス 「自然に開けていたら一番いいなと思う」


 「殺し屋たち」が終わった後のMCで、北里は「王舟と知り合って6年くらいだけど、当時は阿佐ヶ谷にあった居酒屋『めんそーれ』(現在は閉店)で、ひどい時は週5で飲みながら実のない話をしてた。そういう『めんそーれ』での2マンがQUATTROでの2マンになりました」と感慨深げに語ったあと、照れ隠しのように「王舟はデリカシーがないから普段こういうことは絶対言わないんですけど」とメッセージを送り、「ビールの王冠」と三拍子のバラード調の新曲を演奏した。


 中盤ではABSの曲には珍しいロカビリーテイストの新曲を披露。光永の細やかなハイハット捌きや、岩見が巨体を振り回しつつも安定した演奏を繰り広げるなど、サポート2人が楽しそうにしている姿が印象的だった。終盤はセッション要素の強い「Typhoon Sketch」と、最新EPの表題曲「Honeymoon」を立て続けに披露し、ABSは一度ステージを去った。


 アンコールでは、岩見と光永が「ホント王舟王舟ばっか言ってるよね」(光永)「今日来たときとかほとんど一緒の格好してたもんね」(岩見)と北里をイジり倒したあと、『Honeymoon』収録曲であり、NOKKOのカバー「人魚」を披露。ロバート・グラスパーなどの現代ジャズを取り入れてアレンジしたという同曲は、北里の透き通った歌声が前面に出つつ、細やかに動くテクニカルなリズムセクションがライブだとより際立っていた。


 そして最後に演奏された曲は、彼の代表曲といっても過言ではない「モノポリー」。オルタナティブなギターサウンドに乗せて<夏休みなのにモノポリーばっか>というパンチの効いたワンフレーズが、鬱屈な状況でも飄々としている北里本人を表しているかのようだった。


 6年間に及ぶ2人の交流と、それぞれのバンドアンサンブルの充実が見て取れた今回のツアー初日。なお、同ツアーはこのあとも5月16日に大阪・梅田Shangri-La、17日に名古屋・今池TOKUZOでそれぞれ実施される予定となっている。


(文=中村拓海)


■セットリスト
・王舟


1.前半
(笑うだけ(RATN) ~ Songbird(OASIS) ~ 虹(電気グルーヴ) ~ guitar A)
2.tatebue
3.ill communication
4.new song
5.とうもろこし畑
6.boat
7.uguisu
8.500 miles
9.ward
10.ディスコブラジル
11.Thailand
12.瞬間


・Alfred Beach Sandal


1.Coke, Summertime
2.Dynamo Cycle
3.Night Bazaar
4.Rainbow
5.殺し屋たち
6.ビールの王冠
7.新曲
8.新曲
9.Typhoon Sketch
10.Honeymoon
en1.人魚
en.2モノポリー