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KIRINJI・弓木英梨乃、楽曲重視のギターテクとは? ゲス乙女。や『けいおん!』をリアレンジ

2015年05月11日 17:31  リアルサウンド

リアルサウンド

弓木英梨乃

 KIRINJIメンバーであり、ギタリストの弓木英梨乃が、5月1日よりYouTubeにて「YUMIKI’s GuitArrange Studio」という番組をスタートした。定評のあるギターテクニックと独自のセンスを持って、原曲とは別のベクトルへとリアレンジするという試みの番組である。


 先日公開になった第一回目は、ゲスの極み乙女。「猟奇的なキスを私にして」。呪文的に耳に残るタイトル詞と、同バンドの持ち味であるエキセントリックな楽曲展開が聴く者にインパクトを与える同曲であるが、ファンク&ディスコ調アレンジを施し、耳に馴染みのよい軽快なポップスに昇華させている。


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 右チャンネルでは軽快なカッティングを中心としたコードワーク、左チャンネルではピック弾きと指弾きを使い分けながら、単音弾きのオブリガードと時折フックとして入る小技フレーズが盛り込まれている。ヘッドフォンで聴くとその違いがより解るだろう。ヤマハの銘器、SA(セミアコ)とSG(ソリッド)の使い分けによる音色の違いも注目だ。


 原曲ではAメロの無機質なピアノの分散和音とスラップ・ベースの後ノリ具合の絡みが独特の味となっているが、弓木アレンジではそのニュアンスは残しつつもスマートにまとめている。対になっているように感じられる2本のギターだが、小節アタマに右のギターがジャストに入っているのに対し、それを追うように左のギターが微妙にアタックをずらしながら、というように右から左へと流れていくようなフレージングが絶妙だ。


 KIRINJIのメンバーとしても活躍する弓木だが、特に派手なプレイを魅せるわけでもなく、技巧派というわけでもない。元々シンガーソングライターという部分もあってか、あくまで歌を邪魔しない、楽曲を重視したアレンジの一環としてのギタープレイという趣である。


 ビートルズを聴いて、ロックに興味を持ち、ギターを始め、ジョージ・ハリスンを完全コピーすることに没頭したという。ジョージといえば、「もっと評価されるべきギタリスト」として必ずといっていいほど名前があがる人物。歌のバックとして、楽曲に彩りを与えるサウンド・コンポーザーとしてのギターは絶品なのである。


 そんな彼女であるが、一方でスティーヴ・ヴァイやスティーヴィー・レイ・ヴォーンなどのギターヒーローもフェイバリットとして上げており、インストゥルメンタル曲もある。


 2歳半からヴァイオリンの経験があるという彼女であるが、それもあってか、左指の運指が美しいのだ。フレットに対して並行に近く、指板に対しても指を寝かせないよう角度をつけて押弦している。指の腹ではなく、指の先でしっかり押さえ込む。フレットのないヴァイオリンでは押弦する指先で音程も音色もニュアンスのコントロールするため、ギターにおいてもそうした押さえ方になるのだろう。それもあってか、ストレスのないポジショニング、なだらかな音運び、ゆったりとしたフレーズに表情とニュアンスが流麗に響くのである。


 どこか控えめな印象の強い彼女のギターではあるが、根はやはりロックギタリストだ。アニメ『けいおん!』のナンバーとして有名な「GO! GO! MANIAC」では、縦横無尽に駆け巡るギタープレイを見せる。ラフに見えて、メリハリを利かせたカッティングと単音弾きの使い分けで、絶妙なタイム感を操っている。


 海外では昔から楽器演奏、特にギターに関していえば、楽器店を始めとしたセミナーやデモンストレーション、教則に関する文化は深く根付いており、近年では現役アーティストによる動画サイトでの模範演奏やSkypeを使ったレッスンも頻繁に行われている。日本においてはそうした動きはあまり一般化されていないのが現状だ。そんな中、こうしたギタープレイを堪能できる番組というのも興味深い。弓木は過去にも、MySpaceを使った「女の子による女の子のためのギター講座」などを積極的に行ってきた経緯もある。


 最近では吉澤嘉代子といった個性的なアーティストのサポートを務める彼女。相川七瀬の作品ではアレンジャーとしての才覚も見せている。アーティストとして、ギタリストとして、アレンジャーとして、そして、ギターを弾く楽しさを伝える伝道師として、今後の彼女の活動に注目したい。(冬将軍)