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F1スペインGP決勝分析:ハミルトンを襲ったふたつの不運

2015年05月11日 12:20  AUTOSPORT web

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2015年F1第5戦スペインGP 決勝 ニコ・ロズベルグ&ルイス・ハミルトン&メルセデス
ニコ・ロズベルグが今季初優勝を遂げたスペインGP。これも今季自身初となるポールポジションから、危なげない逃げ切り勝ちとなりました。これでルイス・ハミルトン一辺倒だった今季の流れが変わる、そんな予感をさせる1戦だったと言うことが出来るでしょう。

 そもそも、今回のレースは、当初からメルセデスAMGのふたりによる一騎打ちとなることが濃厚でした。前戦バーレーンまで、メルセデスAMGを苦しめていたフェラーリは、今回その鳴りを潜めてしまった感があります。事実、スペインGPでのマシンパフォーマンスは、計算上ではメルセデスAMGから1%以上(1周あたり0.9秒程度)も引き離されていたことを示しており、まったく太刀打ちできませんでした。

 では、なぜハミルトンが負け、ロズベルグが勝つという結果になったのでしょうか? いろいろと探ってみると、ハミルトンに降り掛かったふたつの“不運”が、敗因となったように思います。

 ひとつめは、スタートの失敗です。ポールポジションからスタートするロズベルグが有利なのは言うまでもありませんが、ハミルトンが2番手をキープできていれば、まだ勝機はあったはずです。しかしハミルトンは、スタート時の蹴り出しこそ良かったものの、ホイールスピンを起こして加速が鈍り、1コーナーでフェラーリのセバスチャン・ベッテルに先行を許してしまいます。レーシングライン上からのスタートではないという不利があったものの、このホイールスピンは、非常に痛かった。

 そのハミルトンはレース序盤、ベッテル攻略に取りかかりますが、中低速コーナーが中心のコースレイアウトも影響し、どうしても抜けません。そこでピットは、戦略を“プランB”に変更することを考え、ベッテルの前に出ることを狙います。そして13周目終了後に、ハミルトンを最初のタイヤ交換に迎え入れるのです。

 スタートの失敗こそあったものの、それを挽回するためには、この早期にピットに入れる作戦は功を奏していたように思います。しかし、このピット作業で、ふたつめの敗因が待っていました。タイヤ交換の失敗です。

 ハミルトンはこのピットインでタイヤをミディアムからミディアムへと変更します。この時点で彼の戦略はまだ2ストップ作戦で、ベッテルを“アンダーカット(新しいタイヤを履いてペースを上げ、前を行くマシンがピットインした際に順位の逆転を狙う作戦)”を狙ったものでした。しかし、左リヤタイヤの交換に手間取り、通常よりも3秒ほどタイムをロスしてしまいます。

 タイヤ交換にミスがなければ、ベッテルが次の周にピットインしても、ハミルトンの前でコースに復帰することはできなかったでしょう。しかし、ミスがあったことでベッテルにアンダーカットを阻止する余裕が生まれ、それを見逃さなかったフェラーリ陣営はベッテルをピットに招きます。フェラーリの作業にミスはなく、ベッテルがコースに戻ったのはハミルトンの前で。ハミルトンは再び我慢のレースを強いられることとなり、無線で「コース上でベッテルを抜くのは無理」と、弱音とも取れる発言もしています。そして3ストップ作戦に変更。第2スティントをかなり短く切り上げ、32周目に2回目のピットインを行ってハードタイヤに履き替えて、ゴールを目指すこととなります。

 ところで、レースの45~50周目にかけて、ハミルトンが先頭を走るシーンがありました。これはロズベルグが45周目に2回目のタイヤ交換をすべくピットに入ったために順位が入れ替わったモノですが、ハミルトンにはそのまま最後まで走り切り、勝利を目指すという考え方もあったはずです。その時ハミルトンが履いていたのはハードタイヤであり、“厄介”なベッテルは約20秒後方。すでにピットストップを行っても、ベッテルに先行される心配のない差を築いていました。背後からはロズベルグが迫りつつありましたが、抜きにくいバルセロナならば、そう簡単にオーバーテイクされないはず。しかし、48周目に1分29秒台だったハミルトンのペースは、49周目に1分30秒795、50周目に1分31秒115と徐々に落ちていきます。

 おそらく、この時点でタイヤが限界を迎えたのでしょう。このまま最後まで走り切ったとしても、ベッテルとの差が縮まることはあれ、埋まることは考えにくい状況でしたが、タイヤが完全に摩耗してしまえば、ふたたびピットに入らなければらない可能性もあります。そうなった場合、再びベッテルに先行されることだけは避けたい……。実際には非常にリスクの高い戦略ですが、そのままハードタイヤで最後まで走り切って勝利を目指す、そんなハミルトンを見てみたかった気もします。

 コースに復帰した際、先頭のロズベルグは20秒先。残りは15周。ハミルトンはこの時点でも勝負を諦めず、ロズベルグよりも1周につき1秒以上速いペースで飛ばします。無線でも「追いつけるだろ?」と。しかし、ピットからは無情の応答が入ります。

「いや、それは無理だ。今回はゴールまでクルマを無事に運ぶことに集中しよう」

 ハミルトンはその無線を聞いても諦め切れなかったのか、その後数周にわたって速いペースで前を追いますが、60周目からは1秒以上ペースを緩め、2位に甘んじることを受け入れたということが、ラップタイムから読み取ることができます。

 ハミルトンの悔しさはいかばかりだったか。今回の敵はベッテルではなく、ロズベルグひとりだったはず。すべてが万全だったとしても、ロズベルグに勝てたかどうかまでは分かりません。しかし、不運(ミスと言ってもいいかもしれませんが……)に見舞われたことで、今回は戦うべき相手ではないはずのベッテルに行く手を阻まれ、ロズベルグとコース上で争い、勝利を目指すことはできませんでした。

 ロズベルグはこの勝利で機嫌を良くし、次戦以降も速さを見せるでしょう。しかし、ハミルトンの終盤の無線を聞けば、その闘争心は少しも衰えていないと感じられました。今後のレースで、ハミルトンとロズベルグによる、より激しい戦いを期待してしまいます。

 しかしそれにしても、今回のフェラーリはどうしたんでしょうか? アップデートパーツを大量に持ち込んだにも関わらず、メルセデスAMGにまったく太刀打ちできないばかりか、逆にその差を広げられてしまいました。しかもキミ・ライコネンは新しいパッケージを嫌い今回のレースでは投入せず、ベッテルのみが新パーツを使いました。

 しかしそのベッテルは、ハードタイヤを上手く使うことができず、その上第2スティントのペースを見ると、ミディアムタイヤ装着時のデグラデーション(タイヤの劣化によるラップタイムへの影響)も、非常に大きかったことが分かります。そのデグラデーションの値は、ウイリアムズと同等。ウイリアムズは特にデグラデーションが大きいとされているマシンであり、それと同等というのは、前戦までのフェラーリからは考えられなかったことです。これまで、フェラーリはタイヤに優しいマシンと言われてきました。事実、その特性をいかんなく発揮し、灼熱のマレーシアGPを勝利しているわけですから。

 今季のフェラーリは、空力至上主義のマシンではなく、サスペンションをうまく動かすマシンに生まれ変わったことで、タイヤに優しくなったと言われていましたが、今回のアップデートによって、再び空力最優先の開発に戻ってしまったということなのでしょうか? 事実、新しいパッケージに違和感を覚え、古いエアロパッケージを使っていたライコネン車の方が、デグラデーションは少ない傾向にあったようですが……。

 とにかく、現時点でフェラーリは、メルセデスAMGに対抗し得る唯一の存在。次のモナコではぜひ巻き返し、混戦に持ち込んでほしいところです。

 最後に、少しだけ後方にも目を向けてみましょう。

 レース序盤に速さを見せたのは、ロータスの2台でした。特にパストール・マルドナドは、自身唯一のF1勝利を収めているここカタルニアで躍動。前を走るマシンを次から次へとオーバーテイクしていきました。これで上位進出かと思われましたが、今回もアクシデントに起因するトラブルによりリタイア。ロータスは速さはあるものの、信頼性にはまだまだ難がありそうです。

 気になるマクラーレン・ホンダは、今回はトラブルに見舞われてしまったものの、上昇傾向にあるのは間違いありません。特にジェンソン・バトンの最終スティントはかなり良いペース。同じ時期に同じミディアムを履き、入賞を果たしたカルロス・サインツJr.(トロロッソ)よりも速かったのです。このペースをレースを通じて発揮できれば、入賞を果たす日はそう遠くないと思われます。

 次回のグランプリは2週間後、伝統のモナコGPです。ロズベルグが、得意とするモナコでどんな走りを見せるか? ハミルトンが今回の悔しさをバネに巻き返すのか? フェラーリの復活はあるのか? 見所を挙げていけばキリがありません。年に一度の手に汗握る公道決戦。ぜひお見逃しなく。
(F1速報)