「テプラ」をはじめとするユニークなデジタル機器や文房具を次々ヒットさせてきた文具メーカー、キングジム。市場調査は一切せず、「10人に1人が買いたいもの」をねらう開発方針があるという。
2015年5月7日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、社長の宮本彰氏にキングジムの経営戦略・企業風土について話を聞いていた。
「人と同じでは楽しみがない」という創業者の言葉に従う
キングジムは1948年、現社長の祖父である英太郎氏が年賀状をそのまま名簿帳にできるアイデア商品で設立。英太郎氏の口癖は、いかにも創業者らしいものだった。
「人と同じでは楽しみがない。会社が小さくても世にないものをつくろう」
オフィス用の書類を整理するキングファイルが大ヒットして成功したが、1980年代、コンピューターの登場で危機感を募らせる。
当時専務だった彰氏は、社内の反対を押して電子文具の開発に乗り出す。3年かけてテプラを発売し、空前の大ヒット。電子文具はファイル等の文具と並び売り上げの柱となった。
商品化を決める開発会議では、開発者が役員たちの前で様々な試作品をプレゼンする。10人の役員のうち、1人でも「良い」と言えば商品化する決まりだ。名刺をまとめてデータ化できる「ビズレージ」や、文字入力しかできない端末「ポメラ」などもここから生まれた。
「100人にひとりでも確実に買ってくれるひとがいるなから、やってみる価値がある」
そう明かす宮本社長は、村上龍に「勇気がいることですよね」と訊かれると、「9割の人がいらないと思う商品も、1億2000万人の日本人がいるなら1200万台売れるかもしれない」とその意図を説明した。
「素晴らしい商品を作る人は、変わっている人」という信念
4月1日の入社式では、昼食どきに新入社員によるモノマネ大会が始まった。どうやら自己紹介代わりの「一芸披露」だったらしく、宮本社長は個性豊かな社員たちを採用した理由をこう明かす。
「素晴らしい商品を作る人は、変わっている人。非常識な考えを持つ人が、とんでもない商品をつくる」
ユニークな開発者を育てるため、早くから開発を若手に任せている。毎年恒例の新入社員への課題は「新規ビジネスの提案」。入社直後から実践さながらの仕事を任されるという。
入社2年目、商品開発部の青田淳さん(22歳)も、新しい商品の製品化に向けて奮闘していた。オフィス内のカバン置き場に不満を持っていた青田さんは、カバンをイスにかけられる便利グッズを考案した。
先輩社員に頼りたいことも、上司から「それは青田が中心でやる」と言い渡され、小売価格から売上予測まで自分で算出していた。どんなイスにでも合うように、オフィス家具のショールームで試作品の調整を繰り返し、開発会議に臨んだ。
会議では厳しい意見を矢継ぎ早に浴びせられたが、ひとりの幹部が「スペースを取らないし、潜在的なニーズはある」と認めると、「じゃあやりましょう、OKです」という社長のGOサインが出た。青田さんは今後の展望をこう語り、早くも次の開発を進めていた。
「自分がやりたいことをやらせていただいているので、すごく楽しいです。まずは一歩一歩、成長していくしかないですね」
売れなくても責任は取らない「ある意味、当たり前」
小池栄子が「思ったほど売れなくても、開発者は責任をとることはないんですか?」と質問すると、宮本社長は「責任をとることはないです」と答えて、次のように説明した。
「ある意味、失敗するのは当たり前。我々は『10個に1個でいい』と言っているので。売れないことは恥ずかしくない。いい勉強をしたということですよね」
若いうちから開発者としてすべてを任されれば、遊び心だけではやっていけないが、成果が出たときの喜びは大きいはずだ。失敗の責任を取らされると思えば、社員はリスクばかりを考えて自由な発想はできなくなる。「失敗を責めない」度量の深さは、自分から積極的にものづくりにチャレンジしたい人には理想的な社風だと感じた。(ライター:okei)
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