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Gacharic Spinが見せた、唯一無二のエンターテインメント「みんなと作るこのライブが一番好き」

2015年05月10日 14:11  リアルサウンド

リアルサウンド

冬将軍の「渋谷公会堂ワンマンツアーFINAL」レポート

 Gacharic Spinはわけがわからないバンドだ。もちろん、良い意味で。今年2月にリリースした『赤裸ライアー/溶けないCANDY』をひっさげたツアーファイナル、渋谷公会堂はまさに笑いあり、涙あり、何でもありの、ハチャメチャで最高の夜となった。


 SE「GS Gacha2015」に合わせて湧き上がる“GS”コール。メンバーが順次登場すると同時に会場は一気に臨戦態勢に突入する。オープニングナンバーは2010年リリースの初シングル、「Lock On!!」でスタート。色とりどりのLED照明に彩られ、客席にレーザーが走り、上空には、これまた電飾が施されたマルチコプターが舞う、いかにもガチャピンらしいド派手なステージだ。4人から現在の6人編成になってから、アレンジが大きく変わった「More Power」、そしてキラーチューン「爆弾娘(ボンバーガール)」へ。のっけから飛ばしまくりのセットリスト。ステージ上の至るところで噴く火柱は、会場の熱を噴射しているようである。


 頭を振りながら超絶なスラップを炸裂させるF チョッパー KOGA(Ba.)、にこやかな笑顔を振りまきながら爆音を掻き鳴らす“魔法使い”改め、1億14歳の“にこりん星の宇宙人”TOMO-ZO(Gt.)、セクシー担当だが、それよりも“お笑い・オチ担当”な印象が強いオレオレオナ(Vo.&Key.)はキーボードにまたがりながら流麗に鍵盤を奏で、時にヘッドセットマイクでステージ中央に躍り出る。真っ青な髪と派手なドラミングを見せるはな(Vo.&Dr.)は、パワフルで手数が多いドラムを叩きながら、こんなに歌が歌えるのかと疑ってしまうほどにエモーショナル。そんな強者プレイヤーたちの演奏に、ガチャガチャダンサーズの1号 まいと2号 ありさが音にシンクロし、ダンサブルにライブの高揚感を煽っていく。ステージのどこを見ていいのかわからない、誰を見ても熱く、どこを見ても楽しめるのである。


 「ヌーディリズム」「好きな人、だけど…」ではアコースティックなガチャピン、“アコピン”でしっとり聴かせる。奇抜さと爆音ロックの印象が強いが、聴かせるところはしっとりと聴かせてくれるのも魅力の一つだ。レオナがくわえたゴムの端をステージ前のカメラマンに渡し、「絶対に離したらダメですよ」からの“ゴムパッチン”、恋愛トークからの“たらい落とし”など、往年のベタなコントもしっかり突っ込んでくる。先ほどまでの尋常じゃない熱量と確かな技量によって作られるライブとは裏腹に、バカバカしい要素も全力でブチかましてくるのがガチャピンだ。


 どこに目をやっても派手なステージ上でひと際目立つのは、はなのドラムセットだろう。打面側にしか張られていないヘッド、タムの胴が配管のように曲がった強烈なインパクトを与える造形美は正面から見ればアルプホルンのようでもある。1970年代に短命で散った幻のドラムメーカー“NORTH”社のセットだ。今現在、これを使用しているドラマーは世界中探しても彼女だけだろう。それだけ、希少な楽器であるにも関わらず話題に上らないのは、ドラマーはおろか、楽器マニアにすらその存在は知られていないからである。現物どころか、写真ですらほとんど存在せず、インターネット上にもほとんど情報がない。あまりに個性的な音であり、チューニングも相当困難であるため、市場には受け入れられずに消えてしまった。そんな取り回しの難しい個性的なドラムですら、自分の音にしてしまうところに、彼女の力量とこだわりをうかがうことが出来るのである。ドラムプレイに明るくない人ですら、彼女のプレイの凄さはわかるはずだ。


 デジロックなサウンドと、オートチューンを掛けたレオナのヴォーカルに印象的なライティングが華を添えた新曲「夢喰いザメ」、パラパラダンスの「JUICY BEATS」。会場全体に赤、青、緑…と、“光る手袋”が舞う。ステージ前方に設置されたVドラムに座り、右手をぐるぐると大きく旋回させ確実にビートを刻みながら歌うはな。こんなにも圧倒的な存在感を放つボーカル&ドラムが他にいるだろうか。


 『赤裸ライアー/溶けないCANDY』のガチャガチャダンサーズと楽器チームによる、ジャケット別売上げ対決は、楽器チームが勝利を収めた。しかし、2014年に恵比寿LIQUIDROOMのワンマンライブのソールドアウト公約を期に、ライブ要員から正式メンバーとなったガチャガチャダンサーズの1号 まいと2号 ありさは、いまやガチャピンのメンバーとして欠かせない存在だ。時に可愛いらしく、時に激しく、汗ぐっしょりのアスリート並みの運動量で舞う姿は、ライブにおける大きな起爆剤になっている。


 「ソールドアウトできなくてごめんなさい」アンコールでKOGAはそう口火を開いた。何がなんでもこの日をソールドさせることを目標にしてきた。ガチャピンが主催する、選りすぐりのガールズバンドだけを集めた恒例イベント〈JUICY GIRLS〉をはじめ、多くのライブを行ってきたのは、渋谷公会堂の向かいにある、shibuya egg manだった。それゆえ、渋谷公会堂への思い入れは強かっただろう。それは長年彼女たちを応援し続けてきたファンも同じはずだ。「あと76席」だったという。通常であるなら「ソールドアウト」と発表してもよい数字。だが、どんな事でも妥協を許さない熱血リーダー、KOGAの生真面目さはそれを許さなかった。


「レコーディングより、練習より、イベントより、みんなと作るこのライブが一番好き」


 そう語るKOGAの言葉、気持ちを体現するかのような「宝物」を、はなが独唱で歌い始める。〈みんなと過ごす時間は なんでこんなに早く過ぎちゃうのかな〉思わず、会場からも歌声が発せられ、大合唱へと変わって行く。


 「ハッピーに終わらなきゃいけないのに泣きそう」しんみりとした雰囲気を払拭するかのごとく、6月3日リリースの「Don’t Let Me Down」(フジテレビ系TVアニメ『ドラゴンボール改』エンディングテーマ)を披露し、続く5分間1本勝負「WINNER」では、会場が一体となるランニングで渋谷公会堂が揺れ動き、そのまま「GS Gacha2012」のGSダンスで、3時間におよぶ熱狂と爆笑に包まれた夜は幕を閉じた。


 しっかりとした演奏技術と音楽性を持ちつつも、そこにとどまることなく、アイドル性やバラエティ要素をも色濃く打ち出し、見るものを圧倒し、捩じ伏せていく。それが通常のロックバンドでは絶対に見ることのできない、ガチャピンの唯一無二のエンターテインメントなのである。


 この日、ソールドアウト出来なかった悔しさをバネに、秋より始まるワンマンツアー、11月29日のZepp Tokyoに向かって怒濤の快進撃を見せてくれることだろう。


(文=冬将軍)