2015年05月10日 12:01 弁護士ドットコム
「世紀の一戦」として注目を集めたプロボクシングの世界ウエルター級王座統一戦で、判定の末に敗れたマニー・パッキャオ。フィリピン出身の名ボクサーは試合後の記者会見で、戦う前から右肩をいためていたことを明かしたが、その「告白」が思わぬ事態に発展した。ラスベガスでの敗戦からまもない5月5日、500万ドル(約6億円)以上の損害賠償請求訴訟を起こされたのだ。
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報道によると、訴えを起こしたのは、試合が行われた米ネバダ州の住民たち。パッキャオは5月2日の試合の約2週間前に右肩を負傷していたのにもかかわらず、試合を統括するコミッションへ報告する義務を怠っていたと主張。こうした情報を知らされずに、高額なチケットを購入したり、有料放送を視聴したり、賭博でパッキャオ勝利に賭けたりした結果、損害を受けたと訴えているという。
この試合は、6階級制覇のパッキャオと5階級制覇のフロイド・メイウェザー(アメリカ)の対決として注目され、入場料が7200万ドル(約86億円)、有料放送が3億ドル(約360億円)にのぼり、賭博の賭け金もネバダ州内だけで6000万ドル(約72億円)に達したという。
今回のような訴訟は日本でも起こりうるのか。消費者問題にくわしい岡田崇弁護士に聞いた。
「今回のような訴訟は『アメリカならでは』のもので、日本では起こりえないと考えます」
岡田弁護士はこのように切り出した。
どうして、日本では起こりえないのだろうか。まず、岡田弁護士は、チケット購入による観戦について説明する。
「試合観戦のチケットを法的に解釈すると、チケット発行元からチケット記載の役務(サービス)が提供され、チケットを所持している人が会場で観戦できるという権利を持っているということができます。
今回のケースでは、試合が予定通り開催されて、勝敗が判定にまでもつれ込んでいる以上、チケット発行元の役務は十分尽くされています。そのため、チケットを所持している人に損害は発生していません」
有料放送の視聴についても、同様のことがいえそうだ。では、どうして訴訟になったのだろうか。
「アメリカで訴訟になったのは、『賭け』が行われていたという特殊性があるからだと思います。
『賭け』においては、十分な情報開示がなされているというのが前提にあります。一方の選手が『試合前にケガをしていた』という情報開示がなされていないために、不測の損害を受けたという構成はありうるところです」
岡田弁護士はこのように述べていた。
パッキャオはすでに右肩の手術を終えたと報じられているが、世界中から注目を集めた「世紀の一戦」はリングから法廷へとその舞台を移すようだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
岡田 崇(おかだ・たかし)弁護士
大阪弁護士会・消費者保護委員会委員(平成18年・19年度副委員長)、日本弁護士連合会・消費者問題対策委員会副委員長
事務所名:岡田崇法律事務所
事務所名:岡田崇法律事務所
事務所URL:http://www.okadalaw.jp