F1と同じFIA(国際自動車連盟)管轄による、電気自動車によるフォーミュラカーレース「FIAフォーミュラE選手権」。昨年9月の開幕以来、電気エネルギーのペース配分が勝敗を分ける高い戦略性と、全コース市街地レースならではの激しいクラッシュなど、スリリングなレースが展開されてきた。
今年3月からは、戦いの舞台をアメリカに移し、第5戦マイアミ大会では、日本でもおなじみの元F1ドライバー、アラン・プロスト率いるe.ダムス・ルノーのニコラス・プロストが初優勝。さらに、第6戦ロングビーチ大会では、チャイナレーシングのネルソン・ピケJr.がフォーミュラE初優勝している。
ここまで6戦を終え、全てのレースで異なるドライバーが優勝するという大混戦。第6で初めてフォーミュラEの解説を務めた元F1ドライバーの中野信治氏は、フォーミュラEのレースをどう見たのか? 勝敗を分けたポイントを分析するとともに、いよいよ今週末に迫った第7戦モナコ/モンテカルロ大会の見どころについて語る。
ーー初めてフォーミュラEの解説を担当しましたが、その感想は?
(フォーミュラEの)レースを初めから終わりまでゆっくりと見たのは初めてだったが、思っていた以上にエキサイティングで、モーター音やレース展開、エネルギーマネジメントなど含めて、今までに見たことのない新しいタイプのレースでした。見る側を飽きさせない面白いレースでしたね。
ーー第6戦ロングビーチ大会では、ネルソン・ピケJr. (チャイナ・レーシング)が初優勝を果たしました。今回の勝敗のポイントは?
「勝敗のポイントは、とにかくスタートに尽きると思います。また、今回はネルソン・ピケJr.と同じくらいのレベルのペースで走るドライバーは何人かいたと思いますが、何よりも彼の気迫が、どのドライバーをも上回っていたのではないかなと。彼の気迫や、集中力の高め方が、今回の彼の初優勝につながったと思います」
ーーゴールの瞬間まで隙の無いレースでしたね。
「そうですね。本当に最初から最後まで、ピケJr.は完璧にレースをまとめあげていました。スタート直後のオーバーテイクもそうですし、途中セーフティカーが入ってから2回のリスタートも完璧にまとめていたので、どこにも隙が無かったですね。素晴らしい走りだったと思います」
ーー第5戦は一度もセーフティカーが入りませんでしたが、第6戦では2度入りました。その原因についてはどう考えますか?
「(第6戦は第5戦と比べて)大きな変化は見られませんせしたが、コース幅がすごく広いということもあって、『行けるんじゃないかな』という気持ちがドライバーたちに芽生えたのではないかと思います。実際にはかなりリスクのあるコーナーであっても、なんとなく誘い水のようなコーナーがいくつかあったので、そういうところでアタックをしてクラッシュしてしまうような展開が見られました」
ーーいよいよ第7戦からはヨーロッパラウンド。その初戦はモナコに舞台を移します。中野さんにも非常にゆかりのある地だと思いますが?
「僕自身も過去に2回モナコでレースをした経験がありますが、2年目にミナルディ(1998年)で走ったときは非常に印象的でしたね。最初の年は初めての公道コースということもあって、『こんなところでレースは絶対にできない』と思ったのを覚えています。それでも1年目を終えて、2年目にモナコに来た時には、自分が思っていた以上に車を乗りこなすことができて、サーキットも攻め切ることが出来た。当時F1を戦ってきた全サーキットの中でも1、2を争うくらい好きになったといってもいいくらい、思い出のあるサーキットです」
ーーフォーミュラE仕様で少し短いコースにはなりますが、モナコのコースの特徴は?
「一番分かりやすい特徴は、コース幅が非常に狭いことです。第6戦ロングビーチのコースはコース幅が広かったので、真逆のイメージですね。また、路面のミュー(摩擦係数)に関しても、モナコの方が若干低いのではないかと思います。つまり、タイヤのグリップ力が少し低いということですね。路面のアンジュレーション(起伏)もロングビーチと比べると若干大きく、グリップする場所、しない場所を見つけるのが難しいのかな、という気がします」
ーーレースについてはどんな展開が予想されますか?
「ドライバーがミスを犯しやすいと思います。また、クルマのセットアップが非常に重要になってくるでしょう。マシンをコースに持ってくる前に、ファクトリーでシミュレーションをして決めるイニシャルのセットアップが上手くいっていれば、初めからコースを攻めていける。予選・決勝へ行くまでに、早い段階でセットアップが決まれば、他をどんどんリードしていくことができます。そうするとドライバーにも余裕が出来るので、ミスを犯す可能性が減っていく。そうした積み重ねでモータースポーツは出来ています」
ーー第7戦のコース図を見て、オーバーテイクのポイントになりそうなところは?
「ターン3(サンテ・デ・ボーテからボー・リバージュを登らず、ヌーベルシケインへショートカットするように付けられたストレートのエンド部分。ヌーベルシケインがヘアピン状になっている)がオーバーテイクのポイントになるのは間違いないと思いますね。また、ターン1(ヘアピン状になったサンテ・デ・ボーテ)についても、僕がF1を走らせていたときとは若干違うレイアウトになっていますが、もしかしたらここもオーバーテイクが起きる可能性はありますね」
ーーターン1はどういったところがポイントになってきますか?
「モナコのメインストレートは思った以上に短いので、なかなかスリップ(ストリーム)に入るのが難しい。しかし、ターン12(最終コーナー/アントニー・ノウズ)の出口が非常に狭く路面が逆バンクのようになっていて、すごくスリッピーでオーバーステアを出しやすい上、リヤが特に重く滑りやすいので、ミスするドライバーも必ず出てくると思います。そのミスに乗じるかたちで、オーバーテイクできるポイントになってくる気がしますね」
ーーターン3については?
「ストレートの後のヘアピンですが、このストレートの距離も非常に短いと思うので、(前を走るクルマが)綺麗にターン1、ターン2を抜けてしまうと、オーバーテイクは難しいかもしれない。なので、ターン1とターン2で相手にトラクションを綺麗にかけさせないように、プレッシャーをかけてミスを誘うのが重要。そして、ターン3でオーバーテイクする、という展開がイメージできます。特にモナコのようなコース幅も狭いサーキットでは、ひとつのコーナーでオーバーテイクするというよりは、前のコーナーでミスを誘い、次のコーナーでオーバーテイクをするというような、頭を使ったレース展開が必要になってきます。そこはひとつの見どころになってくると思いますね」
ーー6戦終わって6人の優勝者が出ていますが、次の7戦目でまた新しい優勝者が出るのか、それとも2勝目を挙げるドライバーが出るのか? 注目が集まります。
「1回勝っているドライバーは、絶対に自分が一番乗りで2勝目を挙げたいと思っているはずです。ただ、ここまで2勝しているドライバーがいないというのは、ひとつの面白いポイントだと思います。
フォーミュラEは、見た目のスピードがそこまで速くないので、モータースポーツを知らない人にとっては、簡単に運転できると思ってしまうかもしれないけれども、コントロールがすごく繊細なんですね。普通に走らせる分には、意外に楽に走らせることができると思いますが、ギリギリを攻めていった時に、クルマの限界がどこにあるのかが掴みづらい。
1勝目を挙げたドライバーは、すごく自信をもって、全てコントロールできると思って次のコースに行くので、どこかで隙ができてしまう。今までの他のカテゴリーのクルマなら、それでもコントロールできていたかもしれないけれども、このマシンだとそれが出来ない。フォーミュラEは、ドライバーにとってすごく奥の深いクルマですよね。1勝を挙げて、自信を持って臨んだドライバーが、これまでもミスをしていますから。そういった部分が、他のカテゴリーにはない難しさであり、面白さだと思いますね」
フォーミュラEモナコePrix テレビ放送予定
2015年5月9日(土)
テスト走行:午後5時15分(CSテレ朝チャンネル2)
予選:午後6時45分(CSテレ朝チャンネル2)
決勝:午後10時54分(BS朝日)
大会ハイライト
5月10日(日):午後11時30分(BS朝日)
5月16日(土):深夜3時45分(テレビ朝日系列地上波※一部地域を除く)
(提供:テレビ朝日/編集:オートスポーツweb)