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Alfred Beach Sandalと王舟が語り合うソロ活動のスタンス 「自然に開けていたら一番いいなと思う」

2015年05月07日 19:11  リアルサウンド

リアルサウンド

王舟(左)とAlfred Beach Sandal(右)。

 Alfred Beach Sandal(以下:ABS)が、4月22日にEP『Honeymoon』をリリースした。同作はフィッシュマンズやUAを手掛けるzAkをプロデューサーに迎え、ABSのキャリアにおいて最も開放的でポップな一作に仕上がっている。今回リアルサウンドでは、ABSこと北里彰久と、彼と同日にアナログ盤『Wang LP』を発売したレーベルメイト・王舟との対談を実施。お互いの音楽遍歴や初めて邂逅した際の思い出、互いの音楽やライブ活動、5月から実施するツアー『Wang’s Honeymoon』について、大いに語り合ってもらった。


(参考:【インタビュー】「盛り上がらないことも尊い気がする」Awesome City Club×髭×吉田ヨウヘイgroupが語る”ライブ中に感じること”


・「王舟のことバンド名だと思っていた」(北里)


――最初に2人の音楽遍歴を聞かせてください。王舟さんが音楽を始めたのは中学生のときということですが。


王舟:友達のエレキギターをもらって、早弾きに挑戦してましたね。周りではギターヒーローが一番カッコいいと言われていたし、弾くのが速ければ速いほど褒められた。


――今の音楽からは想像つかないですね(笑)。歌モノに触れたきっかけは?


王舟:スピッツですかね。あとは高校生のころにボサノヴァバンドを組むため、女の子のボーカルをオーディションしたり、ラウンジ系のDJしたりしてました。


――なるほど。北里さんはいかがでしょう。


北里:中学生の時、おじいちゃんが持っていたクラシックギターを貰ってギターを触り始めました。エレキギターを買ってからは、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「ゲット・アップ・ルーシー」のリフをずっと弾いたりしてました。Hi-STANDARDの「STAY GOLD」は難しすぎて断念しました。そこからプライマル・スクリームとか、UKロックにハマったんですけど、ある日たまたまケーブルテレビで『True People's Celebration』っていう、よみうりランドでやってたフェスの映像を見て。それに出てたのが、日本人はボアダムスとかUA、あとはサン・ラのアーケストラ、エルメート・パスコアール、フアナ・モリーナとか、ブラックフレイムスで、「こんな音楽あるんだ!」ってかなりショックで。そこから、ロック以外にも色々聴いていった感じです。


――2人が初共演したのは2009年に八丁堀・七針で行われたライブですが、初めて会ったのもこの時ですか?


王舟:そう。僕は出る前から客として遊びに行ってました。このときの対バン相手には星ト獣と金田貴和子さんがいたよね。


北里:俺は演者で出たのが初めて。


――お互い初対面の印象は?


王舟:事前にMyspaceでビーサンの音源を聴いていて良いイメージを持ったままでライブを見たら、緊張してたせいもあるだろうけど、音源の方が良いと感じたんです。


北里:終わった後に本人から直接言われました(笑)。


王舟:でも、面白いとは思っていたんです。歌物で変なことをやっている人ってあんまりいなかったから。


北里:俺は、王舟のことバンド名だと思っていたことと、ライブが良かったのが記憶に残っている。


王舟:当日はボソっと「良かったです」と言われただけだから、「気に入らないのかな…」と思っていたけど、次の日のブログに「すごく感動した」って書いていて、安心したのを覚えています。ビーサンはまだソロ始めたてだったよね?


北里:2回目くらいかな。前にやっていたバンドが存続しているのかどうかフワフワした状態になった時だったので。緊張していたかどうかはわからないけど。


王舟:ブログに「緊張した」って書いてたよ。


――全部ブログ情報(笑)。


北里:なんで覚えてんだよ。


・「ソロのライブは結局何やったらいいのか未だにわからない」(王舟)


――2人ともシンガーとしてソロキャリアをずっと積んできたというよりは、バンド活動もあって今に至っているわけですが、ソロ活動の中ではバンドセットでの演奏を行っている。この2つにはどういう感覚の違いがありますか?


北里:もともと「一人でやりたい」と思ったことは無かったので、アーティスト名も個人の名前にしていないんです。音楽の作り方は、作業工程だけ見ると完全にバンドのやり方なんですけどね。1人でやる曲みたいなものも出来るけど、それもスタジオに持って行って岩見(継吾・サポートベース)さんや光永(渉・サポートドラム)くんに投げたら、バンドっぽくなる。


王舟:うちはメンバーの入れ替わりも結構あるし、新曲をスタジオに入って練るような形ではないから、当たり前だけど自分が何か言わないと進まない。みんなは「ワイワイ音楽がやりたい」というシンプルな動機で集まっているから、受け皿みたいなものだけ作っておいて、あとは自由にやるという形態だった。でも、アルバムをレコーディングするようになってから、ようやく何をやっていくべきか見えてきたんです。今度のビーサンとのツアー以降は形を変えて、やり方を変えてやろうかなと。ソロは伴奏が薄いので、自分が目立つっていうのがちょっとやりづらいなって。


――どういう部分がやりづらいのでしょうか。


王舟:わりと裏方にいる方が好きなので。だから学校で生徒会とかやる奴すごいなって思いますし。ソロのライブは結局何やったらいいのか未だにわからないんですよね。


北里:バンドのライブの時の方が、やった時に良かった・悪かったという基準がわかりやすいかもね。グルーヴが生まれているから、そこに溶け込めているかどうかで判断できるけど、ソロだとフリーフォームでやってる感じだもんね。


――自由な分、客観視ができないと。


北里:そう。別に「こう見せたい」とかもないし。


・「パッションだけでやっているとだんだん飽きてくる」(北里)


――同じ発売日ということで、お互いの作品についての感想を聞かせてください。


王舟:『Honeymoon』って、前より輪郭がはっきりしてて、zAkさんがプロデュースしてるということもあるけど、音が届くスピードが前より速いと感じた。ビーサンがこの路線をやるのは少し前だとあんまり想像できなかったけど、やったらやったで結構いいなっていう感じはすごくあります(笑)。


――音の届くスピードが速くなったというのは、よりストレートになったということですよね?


王舟:素直な感じだけど、アンサンブルもかなり良くなっている。前はもう少しモヤ掛かった印象があったけど、「仕上げてきたなー」と。これまでは、フィギュアスケートで言うとエキシビションだったけど、しっかり試合用にしてきた感じ。


北里:自然にやってきていることだから、変わったのか自分じゃよくわからないですけどね…。でも、サウンド的にはかなりビルドアップされたと思います。バンドのアンサンブルは一緒にやってきている中で、どんどん纏まってきているし、これまでは自主でやっていたけど、最近は音楽のことだけに集中できる度合いも増えたので。


――音楽を作ることに集中できる時間が増えたことで、自分の中でこういうものを作ろうという考え方は変わりましたか?

北里:それはあんまり変わってないです。もともとそういう、何か思い描いた完成形に向かっていくみたいなタイプじゃないんですけど、その時思いついたことをどうするかという感じで。自分が曲を作る段階で、刷り込みみたいに影響を受けてきた音楽とかは出ているし、基本的には曲の作り方も大体一緒だし。ギターだったらギターで、フレーズをループとしてまず組んで、それをどう発展させていくかっていう。だからサンプラーは使ってないけど、ヒップホップとかに考え方は近いような気がします。


王舟:ビーサンがやっていること自体は全然変わってないもんね。


北里:変わった部分って、zAkさんとか、サポートメンバーからフィードバックされたなかで気付いたところだったりするかも。でも、俺はこれでいいやっていうわけでも全然なくて、去年、ギターの教則本とか初めて買いましたもん。上手くなった方がいいかなと思って(笑)。普通に運指の練習とかもしたかったし、音楽の幅がそれで広がったりするかなって。パッションだけでやっているとだんだん飽きてくるし、同じことばっかりになってくるから。


――4曲目に収録しているNOKKOさんのカバー「人魚」はどういう経緯で選曲したのでしょうか。


北里:バンドの忘年会をやっていた時に、光永くんが酔っぱらいながら「いいよねーこの曲」って言ってて、その場のノリでやろうかってなりました。でも、そのままやっても面白くないから、ロバート・グラスパーだったかなんだったかの曲のリズムパターンのイメージでやってみようってアイデアが出て。あと、カバーする前に「バラードっぽく歌うのは無し」って決めていて。だって歌詞とか一つも共感できないから、情感たっぷりのアプローチが出来ないし。ミックスもはじめはもっとモヤがかったウェットな感じになっていたんですけど、僕の要望でもっとドライにしました。


・「『一体にならないだろう』と思っていた人と、瞬間的に握手しちゃった時は嬉しい」(北里)


――北里さんは王舟さんの『Wang』についてはどう思いますか? CD版は発売からもうすぐ1年になりますが。


北里:『Wang』自体はずっと作っていて、なかなかできない過程も見てたので、客観視できない(笑)。「出てよかったな」という気持ちが一番強いです。勝手に感慨深い、みたいな。アルバムが出た後は、誰かがDJで掛けているのを聴いて、「良い感じにチャラくて面白いな」と思ったり。


――「チャラい」って面白い表現ですね。


北里:気持ちが乗っかりやすいというか…。


王舟:それは気に入っているところなんですよ。カントリーやフォークのようにシビアな音楽を形式だけ踏襲して、“スタイルの良さ”だけを見せたかったから。だからチャラかったりユルい感じで今っぽい雰囲気に出来ていると思うんです。60年代のイギリスの人たちがブルースのカバーをやってポップな感じにしているとか、そういう感覚に近いですね。


――収録曲の「瞬間」は北里さんがカバーした際に出来たフレーズを王舟さんがアルバムの音源に使った曲ですよね。


北里:そうそう、最初の宅録バージョンで聴いていい曲だなって思っていたけどライブとかで全然やらないから、「なんでやらないの?」って聞いたら「ベースリフ一発だからやりようがない」みたいなことを言っていて。「そうかな」って思って。それでコード進行とかフレーズとか、ちょっとだけアレンジしてカバーしたんですけど。


王舟:すごくポップな感じになったよね。その時のコードを後で教えてもらって、バンドに持っていったら、かなり馴染んだんです。


――ちなみに、2人は録音物とライブの意識の違いをどう捉えられますか?


王舟:相撲で言ったら録音物は稽古で、ライブは試合(笑)。


北里:それはちょっとわかんない(笑)。どっちも試合だけど、種類が違うっていうか。でも球技っていうくらいは一緒かな? わりとライブ感みたいなのがある録音物の方がいいのかなって考えた時期もあったけど、それは全然違うものだと今は思うようになったし。


王舟:録音物はちょっと誇張してやろうと思ったらできるし、わりと自由度は高いけど、ライブは場所も来る人も毎回違うから臨機応変にやらないといけない。でもそれがいいんですけど。もちろん録音物は事前に準備ができるんですが、それが良い方向にも悪い方向にも転がることはあるし。


――2人はライブで観客の反応を見るタイプですか?


王舟:お客さんの楽しそうな雰囲気が伝わってきて、次第に演奏が良くなっていくライブが何回ありました。言葉に出さないけど、本当少しだけ一体感を共有する感じが心地いい。


北里:全然見ないです。もちろん、お互いの感覚が交差した瞬間はすごい快感だけど、煽ったりできるタイプじゃないし、別に何かするわけではないから…。


――緩やかな空気感で繋がるという感覚は、2人のライブを見ていると何となく伝わってきます。


北里:それでも、「一体にならないだろう」と思っていた人と、瞬間的に握手しちゃった時は嬉しい。そのためにやっているようなところはあるけど、だからといってこっちから両手を広げて迎えに行くわけではないし。別に閉じたいわけでもないから、自然に開けていたら一番いいなと思います。


・「意識を変えるために簡単にメンバーを入れ替えるのも違う」(王舟)


――5月から2人はライブツアーをともに回るわけですが、お互いのバンド編成についてはどう思います?


北里:3人以外の編成も流動的にやってましたけど、落ち着いた先は自分の音楽、作り方でやった音楽を発展させていくための3人編成で。だからこれがしっくりくるし、その先が思い浮かぶので、王舟のような大人数の編成に憧れることはなくなりましたね。


王舟:見ていると「制約をつけて上手くやっている感」があるんだよ。


北里:どうなんだろうね。今の3人にサポートが1人入っただけでもかなりバランスは変わるから…。もうこの3人で共有している空気感みたいなものもあるし、スタジオとか部活っぽいから(笑)。


――ソロバンドだからこそ、幕間で人数の増減も可能だと思うのですが、その辺はどうでしょう。


北里:いいんだけど、それだとやっぱり自分がちゃんと設計図を示していないとダメだと思ったからやらなくなったので。毎回セッションに近い形だと、どうしてもモヤがかる部分がある。アンサンブルの精度を高めるのって、譜面で示すか同じメンバーで何回も練習するかだと思うんだけと、王舟はどうやって進めてるの?


王舟:「なあなあっぽくやってる奴らだけど、実はすごく良い演奏をしている」というのが理想的で(笑)。“ゆるい雰囲気=ストイックじゃない”ということじゃなく、上手い具合に色々反応しあって、良いアンサンブルになると思ってるので。だから細かい演出とかは指示したりしないですね。


北里:バンドメンバーを反応させるために、自分が具体的なことを言わなくても成り立つ方向に意識的に持っていってる?


王舟:意識はしてるね。ある時期はガチガチに合わせていたけど、そうすると「良くしよう」という意識がどこかへ行ってしまって「これで完成だからいいや」となってしまった。楽曲の強度を上げるためにそう作用するのは嫌だなと考えていたんですが、意識を変えるために簡単にメンバーを入れ替えるのも違うなと思って。


北里:そうなんだ。フレーズの指定とかはしたりする?


王舟:指定したいところは指定する。ここまでかなり「ゆるい雰囲気」とか言ってますけど、それで上手くいくっていうことがやりたいというわけではないんですよ。何と言うか、必死でガチガチに合わせるのとは違う頑張り方を提示したいんです。やり方はみんな人それぞれだけど、それを肯定的な意味で言ってるのと、投げやりな感じで言ってるのではまた響き方が違うと思うので。ひとつ具体的な目標を定めて、そこを突き詰めていくというやり方は自分に向いていないので、模索中と言ったところですね。一回一回のライブを見ると、ライブの中で流動的な動きがあった方が理想なんですけど、それとは別に、例えば10本のライブを通して、自分たちのなかで流れができるような空気感を目指したい。


――ツアーはこの2組のツーマンだからこそできる空気感があると思うんですが、どういう展開を想像しますか。


王舟:ライブの前後も一緒に回るわけなので、移動中に雰囲気がどう変わるか楽しみです。いつものライブよりも、もうちょっとゆるい感じになると思うけど。


北里:さらにゆるくなるんだ(笑)。僕らは、音源をどうライブで表現するかなって感じで。まあ、ライブはライブでいい演奏をして、グルーヴが出れば良いと思ってます。


王舟:ツーマンライブって、対バン相手によって客層が変わるわけですが、ビーサンが好きなお客さんに来てもらえるのは嬉しいです。アウェイな感じも好きだけど、今回はアウェイ感があるのかないのかちょっとよくわからない感じ。


北里:それはあまりないと思うよ。


王舟:そうだよね。どっちかしか知らない人に来てもらえるとやりがいがあるんだけどな。


北里:両方知らなくても来て欲しいんだけど(笑)。


(取材・文・撮影=中村拓海)