2016年卒の新卒者に向けて、ちょっと変わった就活情報サイトがオープンしている。「第一次産業ネット2016」がそれだ。農林水産・農業関連産業(アグリビジネス)の会社を専門に紹介しているナビサイトである。
これまでは新卒で「就農する」という選択肢はあまり考えられていなかったが、学生の意識も少しずつ変わっているという。同サイトを運営するLife Lab(ライフラボ)社の西田裕紀氏に、最新の取り組みや業界動向を聞いてみた。
「のんびり暮らしたい」で挫折する人もいるが
第一次産業ネットが今年2月に都内で開催した「「Agri-Business Career Summit 2016」には、100名程の学生が集まった。先進的な農業やアグリビジネスを営む10社と交流し、西田氏は「徐々にですが、農業の仕事に対する学生の関心の高まりを感じています」と語る。
「もちろん参加者全体としては農業関係の分野を専攻する学生も多いのですが、約半数はそうでない学部の方たち。これまでは中途採用が当たり前だった会社側にも、少しずつ変化しているといえます」
新卒専門サイトの登録者数は、4月時点で1000人を超えた。募集企業は15社で、イオングループが手がける「イオンアグリ創造」のように知名度の高い会社の関連会社や、養鶏・酪農の分野で大規模な事業を展開する会社などが、若い担い手を募集している。
「これから業界は『二分化』が進むと思っています。すなわち、効率を求めて大規模化する企業と、無農薬など小規模でも付加価値を高める企業です」
大規模化した企業は、多くの労働力が必要になる。しかし農業法人の中は、新卒を採用したり育てたりといった経験のない企業も多い。そこには、日本の第一次産業が高齢化していたり、その仕事の実態がうまく伝わっていないといった課題がある。
「上手に採用して定着率も良い企業もあれば、60代の経営者が20代の新卒者をうまく使えないこともある。求職者も『独立したいから修行しよう』とモチベーションが高い人もいれば、『都会がイヤでのんびり暮らしたい』とヤワな動機で就農して続かない、という人もいます。それぞれですね」
マーケティングやロボット化で若い発想に期待
旧態依然とした業界のイメージも強いが、ここに来て変化の兆しも現れている。生産から加工、流通販売まで行う「六次産業化」もそのひとつだ。英語サイトを作り、農産物を海外へ輸出したり、海外で農場を運営したりするなど、一口に「農業」といってもその幅は広がっている。
「既存の多く農家さんは、たとえば野菜を作るのは上手だが、売り方を知らないという弱点がある。できるのにやっていないという状況ですが、これを若い人が新しいことを提案して変えられたら面白いことになる。実際、代替わりで30代の経営者も増えてきていますよ」
とはいえ、第一次産業は単純作業の積み重ねという側面もある。大規模な農場などは、トラクターをGPSで自動運転させたり、牛の搾乳をロボットに任せたりするなど、オートメーション化も進んでいる。外国人の採用も増えているそうだ。仕事や役割が変化する業界で、どのような人材が求められるのだろうか。
「まずは、素直で諦めないこと。あとは目的意識がはっきりしていると続きやすいですね。第一次産業は設備投資がかかるので、独立するには参入障壁が高い。かつ既存事業者は優遇されている部分もあるので、独立ではなく就職することで、そこに参画してどう事業を大きくしようか、というビジョンが描けると、なお良いのではないでしょうか」
「生産」以外の役割も担って「変化できる業界」に
言うまでもなく、第一次産業の就業者数は減り続けている。さらに2014年の農業就業人口226.6万人のうち、63.7%に当たる144.3万人が65歳以上で、平均年齢は66.7歳と高齢化が進む。その一方でイオングループのような大資本が参入し、ビッグファームを作っているところもある。
学生の意識も変わりつつある。リクルートキャリアの調査によると「農業・水産・鉱業」への就職を志望した就活生は2014年卒では0.9%だったが、15年卒では1.9%と微増。西田氏も「より若いうちから農業を就職の選択肢に入れてもらうことが大事」という。
「そして、農業法人の成功モデルをひとつでも多く作っていくことが必須だと思います。これからの第一次産業は生産だけでなく、求められる役割は多様化していく。時代にあった形で若い人材が入ってくれば、変化できる業界だと思います」
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