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SMAP、NEWS、Sexy Zoneの歌詞に隠れる“引喩”とは? 表現を豊かにするテクニック

2015年05月05日 08:11  リアルサウンド

リアルサウンド

作詞家・zopp。

 修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家やコトバライター、小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。連載第一回では、中田ヤスタカと秋元康という2人のプロデューサーが紡ぐ歌詞に着目したが、第二回では“比喩表現”に着目し、作詞家目線から歌詞の表現技法を解説してもらった。(参考:きゃりーぱみゅぱみゅと小泉今日子の歌詞の共通点とは? 作詞家・zoppがヒット曲を読み解く


・「修二と彰の『青春アミーゴ』は10代や20代向けを狙うため、歌詞に『携帯電話』を使った」


――今回のテーマは“比喩表現”ですが、種類が多いのでどれか一つに絞ってお話いただこうと思います。


zopp:そうですね。今回は“引喩法”をメインにお話しましょう。先に他の比喩表現について説明したいのですが、例えば“直喩”。これは「彼女の肌はシルクのようだ」とか、例えていることを明らかにしているもので、派生形として擬人法や擬態法などがあります。一方、暗喩というものもあり、「彼女の肌はシルクだ」と断言する形です。「比喩表現」という単語自体を辞書で調べると、「例えられる何かを伝える人にいかにリアルに伝えるか」という意味合いということで、たとえば、海を見たことがない子供に海の広さや色を説明するときに「海は青いよ」って言われても理解できないじゃないですか。そこで「君の部屋にある青い絨毯をふわふわと波打たせたようなものが海だよ」と教えると、その少年が人生で初めて海を見て「言ってた通りだ!」となるわけです。


ーー音楽とは違いますが、「さまぁ~ず・三村マサカズさんやフットボールアワー・後藤輝基さんなどがテレビでよく使うツッコミの手法」というと分かりやすいのかもしれないですね。


zopp:彼らのツッコミが個性的なものとして捉えられてる背景って、比喩表現自体は一昔前の人から見たら普通なのに、近年の若い子からすると新鮮に思えるというフィルターがあるのかもしれません。今はなんでも検索すれば出てくる時代で、携帯電話一つあれば例えなくても探せてしまう。先に挙げた彼らのツッコミを例えられる面白さって言うのを改めてああやってまた実感し始めてるんだろうなって。ただ、知らない間に実感していってるんです。作詞って時代が変わっても本質は変わらないものだと思っていて、恋愛にしても「想いを伝えて付き合う」という部分や、親の反対、身分の違いなど、それが成立するまでに生まれる障害は同じ。ただ、比喩表現やアイテムに時代感が如実に表れるので、電報が黒電話になり、ポケベルになって携帯電話になったり、娯楽施設が増えたことで「ヒルズ」とか「ジェットコースター」みたいな新しいアイテムも増えた。


ーー物語の骨格ってのは変わらないけど、上物が変わっていった。


zopp:そう。短歌を詠んで恋心を間接的に伝えてた昔の人と、やってることはずっと変わらないわけです。修二と彰の「青春アミーゴ」は、幅広い世代の方が聴いてくださっていて、40代や50代の方にも評価していただいたのですが、僕が作詞をした段階では、10代や20代を狙いたくて、冒頭の歌詞に「携帯電話」を使ったんです。でも、それ以外の時代背景はマフィア映画的な世界観にしたので、おそらくそこに共感してくれたとは思うのですが。そういうタイムスリップ感もまた面白かったのかもしれませんね。


――なるほど。さて、数ある比喩表現のなかで「引喩法」はどんな効果を生むのでしょうか。


zopp: 僕は作詞を教える際、生徒に「感覚的に書ける人は天才タイプだけど、そこにお金と人材が集まっていた昔とは違い、今はそこまで天才が出てこない。だから感覚的に全てを捉えるんじゃなくて、論理的に物事を捉える秀才になれるように努力してほしい」と伝えています。また、比喩表現についても「思い付きだけでずっと書けるのは天才だけだし、普段から比喩表現がスラスラと出てきづらい世の中だから、しっかり比喩表現を学んで引き出しからアウトプットして欲しい」と教え、大体8個~10個くらいの表現技法を教えています。そこで教えているなかで、僕が好きなのが今回のテーマである「引喩法」。誰かの言葉や過去の出来事を引っ張ってくるというもので、有名な文学作品や芸術、歴史的事実、詩、歌、ことわざ、名言などをそれとなく言及してそれらを新しい文脈に融合させ表現の内容を豊かにさせる修辞的方法です。


・「時代背景や出てくるアイテムが違うことで歌詞は変化していく」


ーー「引用」を主に使った比喩表現ということですか。


zopp:でも、この引用元は何でもいいというわけではなくて、例えば、僕は先日映画の『バードマン』を見てひどく感銘を受けたんですが、大きく世間に浸透しているわけではないし、物語としても複雑なので、これを引用しても大半の方が気づかないと思うんですよ。だから、引喩法を用いた歌詞には『不思議の国のアリス』をモチーフにした松田聖子さんの「時間の国のアリス」やMY LITTLE LOVERの「ALICE」、『人魚姫』を参考にしたNOKKOさんの「人魚」や中山美穂さんの「人魚姫」など、有名なファンタジーと現実をくっつけた表現が多い。ディズニーやスタジオジブリの手法を使っていると考えるとわかりやすいかもしれません。


ーー背景を想像しやすいからでしょうか。


zopp:誰もが知ってるものは入ってきやすいですからね。ジャニーズではもう少しマニアックなものが題材になることもあって、Hey! Say! JUMPの「真夜中のシャドーボーイ」は1969年のアメリカ映画『真夜中のカウボーイ』でしょうし、SMAPの「俺たちに明日はある」は映画『俺たちに明日は無い』、関ジャニ∞の「関風ファイティング」は、カール・ダグラスの「カンフー・ファイティング(吼えろ! ドラゴン)」だし、Sexy Zoneの「明日に向かって撃て!」は同名映画のタイトルの引喩なんですよね。そのなかで、今回深堀りしたいのは、飛鳥涼さんが作詞した光GENJIの「パラダイス銀河」。光GENJIには「荒野のメガロポリス」という、SF映画の原点にして頂点の映画『メトロポリス』をモチーフにしたものがありますが、この曲は2つの有名な物語が引用され、ミックスされているんです。それは『ピーターパン』と『銀河鉄道の夜』。前者については、<空をほしがる子供達 さみしそうだね その瞳 ついておいで>、<大人は見えない しゃかりきコロンブス夢の島まではさがせない>、というフレーズがそれを表していて、<空を~>については、まさに劇中でウェンディとピーターパンが出会うワンシーンのことですよね。で、<大人は見えない~>は、作品に登場する夢の国「ネバーランド」のことを、アメリカ大陸を発見した偉人であるコロンブスが、しゃかりきになっても探せない島として表現している。


ーー『銀河鉄道の夜』は宮沢健二の著作ですね。


zopp:その部分は<風がぬけるシーツは騒ぎ出す ベッドはもう汽車になって銀河行きのベルが鳴れば夢は止まらない何処までも>ですね。『銀河鉄道999』にも当てはまるといえます。二つのわかりやすい物語を使って恋愛のプロセスをファンタジックに表現しているのがこの歌の面白いと言えるところです。


ーーちなみにzoppさんが手掛けた作品で、引喩法を使ったものをいくつか教えてください。


zopp:まずはNEWSの「サヤエンドウ」を挙げて説明します。この曲は映画『ONE PIECE THE MOVIE カラクリ城のメカ巨兵』の主題歌で、同作や』『パイレーツ・オブ・カリビアン』などの海賊系を意識しつつ、ただメンバーが海賊になって冒険に出るというのにはピンとこなかったので、子供たち目線で「もしも自分たちが麦わら海賊団に入ったら…」という物語を作ろうと思ったものです。あとは、『ロミオとジュリエット』が好きなこともあり、同じNEWSの「ベサメ・ムーチョ~狂おしいボレロ~」やジャニーズWESTの「Criminal」といったものも書いています。男女の許されない恋や、強引に2人で逃げ出すものも好きですね。そもそも『ロミオとジュリエット』自体、ギリシャ神話の『ピュラモスとティスベ』からの引喩だったりするのですが。


ーー今も昔も物語の表現技法はさほど変わらないということですね。


zopp:結局、焼き増しなんですけど、時代背景や出てくるアイテムが違うことで歌詞は変化していくんです。あと、Kis-My-Ft2の「Diamond Honey」は『シンデレラ』をモチーフにしたものですね。仮面舞踏会の中にいる場違いな女の子に一目ぼれするけど、その子が時計を気にし始めてどこかに行くという。これって「もうすぐ12時で終電だから私帰らないと」という情景に似たものがあると思いませんか?


ーー確かにそうですね。ポップソングで「終電」という歌詞はよく見る気がします。


zopp:「終電で帰る女の子」と「12時になる前に城を抜け出すシンデレラ」はドラマチックに引喩しやすいですから(笑)。あと、ドラマチックな物語を作る方法として、「いかに抑制された状況を作るか」というものがあります。魅力的な物語はたいてい主人公やヒロインが抑制されていて、自由を求めて冒険や恋愛をすることが多い。近年は、争いごとの概念が薄くなり、平和に暮らしている人ーー自由な人が多いからこそ、逆に抑制されたものに憧れを抱く人がたくさん居て、そのような歌詞を求めていたりする。でも、同じ歌詞でも、昔の人達は「門限だから帰らないとね」と共感目線で捉えることが多数派だったり、同じ刺さるテーマでも世代ごとに「共感」と「憧れ」が入れ換わってるように思えるんですよね。それは作詞だけじゃなく、舞台やドラマ、映画や音楽にもいえることなのですが。


・「耳なじみがあっても最近の人の発言を使うのは難しい」


ーーファッションなどもそうですが、おおよそ20年周期で歌詞のあり方も変わっているのかもしれません。


zopp:細かく紐解いていくと面白そうですね。あと、引喩には物語が用いられるのと同様に、名言を引用しているケースも多いんです。たとえばブルース・リーの名言「Don't think Feel(考えるな、感じろ)」って、色々なものに使われていますよね。僕はNEWSの「Fighting Man」でこのフレーズを引喩しました。個人的に好きな名言は、ガイウス・ユリウス・カエサルの「賽は投げられた」で、昨日まで仲間だった人達と戦わなければならないときに、「やってられっか!」とか「皆殺しだ!」ではなく、この言葉を使ってルビコン川を渡って行く。なんて素晴らしい時代だったんでしょうね。ちなみに僕はこのフレーズを、山下智久くんの「月と太陽のラプソディ」と、ももいろクローバーZの「上球物語」に使っています。作詞をする際にこの手法が使いにくいという人は、逆に自分の小さな経験を、御伽話や名言に例えたらどうなるかを考えると幅は広がるので、やってみることをオススメします。


ーー実体験をそのまま歌詞にするのって気恥ずかしい部分もあるでしょうし、そうしたカモフラージュは有効でしょうね。


zopp:よく生徒から「実体験を元に歌詞に書かれているんですか?」と訊かれるんですが、実際は“なんちゃって実体験”なんですよ。体験している人の気持ちになったり、聴く人の気持ちになって書いているだけで。15歳のアイドルには15歳向けの、もしくはその子たちのファンが経験しそうな言葉に置き換えているんです。作詞家を目指すひとのなかには、「自分って作詞家になれますかね」という40代や50代の方もいるのですが、物語の根幹は変わらないので、言葉の使い方や言い回し、アイテムをちゃんと今のものにアップデートすれば書けるはずなんです。恋愛や友情は普遍的で変わらないものですから。


ーー時代を表す言葉というのは得てして強いフレーズなので、歌詞に使った時に頭に残りやすいというのもあるのでしょうか?


zopp:はい。逆に造語がブレイクするのは稀ですが、当たると大きい。ドラマの『家政婦のミタ』は、引喩を使っていながらも造語のようなタイトルで目を引いたすごい例です。あと、引喩に使うべき名言って、耳なじみがあっても最近の人の発言を使うのは難しいと思います。たとえば、水泳の北島康介さんが言った「チョー気持ちいい」を歌詞に使っても気恥ずかしいじゃないですか。僕が知る限りは、ご健在にも関わらずよく使われているのってアントニオ猪木さんくらいかも。ほとんどが昔の物を焼き増してるんですよね。大体同じ事を言ってるんですども現代風になっているとか。


――まったくゼロからの造語って、いまはほとんどないのかもしれませんね。


zopp:相当難しいと思います。昔は辞書になければオッケーという感じでしたが、いまはもうハンドルネームや個人ブログの名前なんかでもガンガン造語ができているので、作った言葉でもネットで調べると誰かが先にやっている場合が多い。あとは、外国語の響きで同じような言葉があったりしますし。存在する言葉同士を組み合わせた造語もありますけどね。たとえば、Hey! Say! JUMPの新曲「我 I Need You」は、外国語で「好きです」を表した「ウォーアイニー」と「I Need You」を組みあわせた造語ですね。僕が書いたものだと、NEWSの「恋のABO」がそれにあたるのですが、血液型のA型・B型・O型・AB型を、アルファベットの「ABC」とかけました。


――組み合わせ方によっては既視感のある造語になるわけですね。


zopp:これも一つの作り方ですね。ただ、流行語大賞などを見ていると、長く残る言葉って、何かの引喩じゃなく、他の何にも置き換えれない造語なんだと思います。だからこそ見つけたときのリターンが大きいわけなのですが、そこまでハイリスクなものをはじめからやる必要はないので、作詞を勉強しているひとはまず引喩から取り組んで欲しいです。


(取材・文=中村拓海)