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なぜ人はイベントをやるのか? 音楽ライター・兵庫慎司が考える

2015年05月04日 18:31  リアルサウンド

リアルサウンド

※画像はイメージです

 なぜ人はイベントをやりたがるのだろう。


(参考:夏フェスで大雨が降ってもイベント会社が潰れないワケ


 ということが、昔から不思議だった。どれくらい昔からかというと、自分が学生時代、京都でぱっとしないアマチュアバンドをやっていた頃だから、25年くらい前(バンドブーム絶頂期です)から、ということになる。あ、この場合の「イベント」というのは、ライヴハウスで、ワンマンとか2バンドとかじゃなくて、5~6のバンドが出演して行われるような、いわゆるライヴイベントのことを指しています。フェスとかのでっかいイベントも、イベントといえばイベントですが。


 ライヴハウスに出入りしている、でも自分はバンドをやっているわけではない子(多くの場合女の子)が仕切って、ハコを押さえてバンドを集めてイベントをやる。自分も出してもらっていたので文句をつける立場ではないし、文句を言いたい気持ちもなかったが、ただ単に、不思議だった。


 この子たちはなぜイベントをやるんだろう? 自分がステージに立てるわけではない。もちろんカネが儲かるわけでもない。ブッキングとかチケットさばいたりとか、大変なことだらけなのに、それに値するような見返りなど、ない。でも、リスクはある(客が入らないとか、ノルマ払わないバンドが出るとか)。イベントをやることによって、彼女たちはいったい何を得ているんだろう?


 わからないまま90年代になり、バンドをやめて東京に出てきてロッキング・オンという音楽雑誌の会社に入り、渋谷や新宿や下北沢のライヴハウスを回るのが仕事のひとつになった僕は、東京でも同様のことが行われているのを知ることになる。いや、同様じゃない。もっと熱心に、もっと激しくだ。


 バンドが仕切る、いわゆる「××(バンド名)企画」とは別。アマチュアのイベンターみたいな人が何人もいて、いろんなライヴハウスでイベントをやっている。当然みんなそれで食っているわけではない(のちに『SET YOU FREE』の千葉さんのように、それで食えるくらいイベントを成功させる人も出てくるが)。


 ただ、人気バンドのマネージャーの中には、昔そうやってライヴハウスでイベントをやっていて、バンドとつながりができて、バンドと共にプロの道へ……という人が少なからずいることも、知ったりする。でも、最初からそれを目的にしてイベントをやっているわけではないだろう。だったらマネージメント・オフィスのバイトかなんかに応募したほうがよっぽど早いし。


 そして。ここまではアマチュアやインディの話だが、プロの世界でも同じようにイベントが行われていることに気づく。90年代はまだ数が限られており、有名どころでいうと新宿日清パワーステーションの『SATURDAY NIGHT ROCKN’ROLL SHOW』くらいしか思い出せないが、00年代に入ると一気に増える。


 雑誌やラジオ、テレビなどのメディアが企画制作するイベント。いわゆるライヴを生業とするイベンターが行うイベント。ファッションブランドやショップによるイベント。ライヴハウスが主催者であるイベント。などなど。と、他人事のように書いているが、僕も2000年代の前半頃は、ロッキング・オンが企画制作して赤坂BLITZやSHIBUYA-AX、のちにはZEPP TOKYOで行っていた「JAPAN CIRCUT」というイベントのブッキングが、仕事のひとつだった。すでにその当時、「AX即完のバンドを3つ集めてもAXは全然埋まらない。ヘタするとそこに武道館即完のバンドが加わっていても満員にはならない」という事実は、ライヴ業界の常識だった。毎月とてもブッキングに苦労し、寝ても覚めても「あの回のブッキングがまだだ」ってことが頭の隅にひっかかっている、重苦しい日々を過ごしていたものです。


 そして。2010年代に入り、CDが売れなくなり、どのレコード会社もどの事務所もどのメディアもライヴに活路を見出すしかなくなった結果、この手のイベントは増加の一途を辿ったが、最近はまたちょっと落ち着いているように思う。あたりまえだが、そうそうお客が入るものではないからだ。CDが売れなくてライヴ主体になっている、というのはロック業界全体がそうなわけだから、どのバンドも昔ならツアーは年に1回、あとはイベントとかにポツポツ出る程度だったのが、今は自分たちのツアーを年に2回、ほかのバンドの対バンツアーのゲストに呼ばれてさらに十数本、夏は当然各地のフェスに出演、年末も年越しイベントがあり……と、ライヴの本数がどんどん増えている。そうすると、イベントから順に入らなくなる。あたりまえだ。


 というわけで数は落ち着いたものの、それでもイベントは日々行われている。幕張メッセとかさいたまスーパーアリーナとかの大会場でどかーんとぶち上げるようなやつは、コケたら痛いけど成功すれば儲かるだろうから、まだわかる。たとえばスペースシャワーTVの『スペースシャワー列伝』やロッキング・オン・ジャパンの『JAPAN NEXT』は、番組や誌面と連動しているものだし、イベント単体の採算よりも新人をプッシュするほうが大事な側面もあるだろうから、それもわかる(で、実際、どちらもお客、入っているし)。


 でも、たとえばZEPPやスタジオコーストくらいの大バコで、すでに名前が知れていて人気も安定しているバンドをいくつか集めてイベントをやるのは、なぜだろう。満員になったところで収益はたかが知れているし(当然ワンマンの方が儲かる)、コケたら目も当てられない。


 じゃあメリットはなんだろう。そのイベントをやることによってイメージがよくなる? 今はなき『DEVIROCK NIGHT』などは確かにそういうものだった気がするが、それ以外は、はたしてそうだろうか。「××のイベントに行ったらお客さん全然入っていなかった」っていう時のダメージのほうがでかくないか? あるいは、もしかしたら「自分はこれだけのメンツをブッキングできる」という自己顕示欲もあるんだろうか。いや、そんなのんきな理由で組まれているイベント、ほぼない気がする。中にはあるのかもしれないが、もっとみんな必死にやっている印象がある。


 商売にはならない。ブランドイメージの構築とかでもない。権力の誇示でもない。ならば、なぜやるのか。


 やりたいから。


 簡単すぎる答えで申し訳ないが、足かけ25年以上この問題について考えてきて、出た結論はこれだ。より正確に言うと、ほんの一部の「商売になっている」イベント以外が開催され続けている理由はつまるところそれだ、ということだ。


 きっと、ただ、やりたいのだ。冒頭に書いたような、ライヴハウスでアマチュアバンドを集めてイベントを企画する人たちも、客が入るイベントを考えて日々頭をしぼっている音楽業界人のみなさんも、同じように。アマチュアならともかく、プロで、ビジネスとして仕事しているのに「ただやりたいから」なんて動機、通るの?と思われるだろう。そうだ。普通なら通らない。しかしその通らないものが「イベント」となると通ってしまうのだ。逆にいうと、テーマが「イベント」になると人はおかしくなる、とも言える。イベントとなると、冷静な判断ができなくなってしまうのだ、おそろしいことに。


 バンドが集まれば何かが起こる、という幻想があるのかもしれない。好きな曲を並べて編集テープを作るように、自分の好きなバンドが集まるのがうれしいのかもしれない。それでお客が入った日にゃあ、自分の価値観が認められたようで、そこにエクスタシーを覚えることができるのかもしれない。


 ただ、ちょっとやってみればわかるが、実際にイベントをやるというのは、そんな無邪気なもんではない。そのような達成感が得られることなどほぼない、とすら言っていい。


 バクチだし、効率が悪いし、報われない。でもやる。やりたいから。という、冷静に考えたらやんないほうがいいのはわかっているのにやりたい、だからやってしまうという、イベントに対するこの感じって、今の時代、ロック・バンドのマネージメントなんかしないほうがいい、ロック・バンドのCDなんて出さないほうがいい、そもそもロック・バンドなんてやらないほうがいい、でもやってしまうし、CDを出してしまうし、マネージメントしてしまう、という非効率さと、似ている気がする。というか、根っこにあるものが同じな気がする。そしてずうずうしいことを言うと、そんなロック・バンドについて何か書いたり、インタヴューをしたりすることでメシを食いたいなんて今時思っている奴の、その動機の根っこにあるものとも、近いような気がする。近ければいいなあ、とも思う。(兵庫慎司)