2015年05月03日 10:41 弁護士ドットコム
ゴールデンウィーク期間中、帰省や旅行で、新幹線を利用する人も多いだろう。早めに手を打って指定席を予約できた人は快適だろうが、出遅れた人は、限られた自由席を求めて、当日の争奪戦にかけるほかない。せっかくの休みも疲れがたまることになりそうだ。
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指定席車輌の通路にも乗客があふれるのが、この時期の新幹線だ。ネットには「疲れていた上に2時間も立ちっぱなしでキツかった」「確実に座れるようホームで長時間並ぶか、立つことを前提に目的地まで早く着くことを選ぶか、の究極の選択」「席に座れても、立ったままでも同じ金額なのはおかしいのでは?」などの声がみられる。
短時間の移動ならともかく、何時間もかかる新幹線で立ち続けることは、身体的な負担が大きい。「安くない乗車料金を払っているのに・・・」と不満に思う人もいるだろう。では、もし新幹線に立ちっぱなしで乗って体調を崩した場合、鉄道会社の責任を問うことはできるのか? 岡田一毅弁護士に聞いた。
「この時期、新幹線の混雑具合を示す『乗車率』という言葉を聞くかと思います。乗車率100%とは、つまり満席のこと。席に座れず、通路やデッキに立っている人がいる状況は、乗車率が100%を超えたことを意味します。年によっては、200%に迫ることもあります」
乗車率200%超となれば、定員の2倍が乗車した状態だ・・・。そもそも、そんな状態で新幹線を運行しても問題ないのだろうか。
「鉄道車両の定員は、あくまで快適に乗車できる基準の『サービス定員』と呼ばれるものです。乗車率100%を超えて運行をしても、法律違反にはなりません。
いっぽう、車や飛行機、船などの定員は『それ以上乗ったら危険』という意味の『保安定員』ですから、超過することは法律で禁止されています」
それでは、鉄道の場合、何人詰め込んでも許されるのだろうか。
「いいえ、限度はあります。鉄道会社と乗客の間には『旅客運送契約』があり、鉄道会社には乗客を安全に輸送する注意義務があると考えられます」
どんな場合に、「注意義務違反」となるのか?
「あくまで理論上の話ですが、考えられるのは次のようなケースでしょうか。すし詰めの車内で異常に温度が上がり、乗客が熱中症になるような状況だった。鉄道会社がそんな状況を知りながら、それでもあえて客を乗車させたーー。
こんな場合には『注意義務違反』にあたる可能性があります。そんな状態であったため、乗客が体調を崩したら、鉄道会社は損害賠償責任を負う可能性が、理論的にはあり得ます」
その場合、請求は簡単に認められるのだろうか。
「その程度で鉄道会社の責任を問うのは、簡単ではありません。そもそも、体調を崩したといっても、原因は様々です。体調を崩した原因がほかに考えられる場合、車内状況と相当因果関係があるとはいえないので、損害賠償は認められません。いろいろな手間も考えると、実際に請求することは、なかなか難しいといえるでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
岡田 一毅(おかだ・かずき)弁護士
2013年度京都弁護士会副会長。交通事故などの交通法務に詳しく、大手損保会社の顧問弁護士も勤める。また医療法人の顧問弁護士など、医事法務についても手がけている。大の鉄道好きでもある。
事務所名:赤井・岡田法律事務所
事務所URL:http://www.akai-okadalaw.com/