マクラーレン・ホンダMP4-30が発表される前の数カ月間、新しいホンダF1のパワーユニット『RA615H』に関して非常に多くの推測がなされた。
開幕前のテストでまともに走れなかったマクラーレンは序盤のフライアウェイでライバルに追いつくことに必死で、これまではトラブル続きのスタートとなっている。
こうした信頼性に関する多くの問題は、ホンダが未だ実証されていない新たなテクノロジーを取り入れることでエンジンメーカーのライバルを出し抜こうとした結果で、シーズン中の開発制限が設けられている2015年のパワーユニットを改良の難しい状態でスタートしたくなかったからだと考えられる。
また彼らには、今年のマクラーレンがアグレッシブな空力コンセプトを採用してきたことで、チームの“サイズゼロ”の要素をパッケージングするためのプレッシャーもあったのだろう。
バーレーンGPの週末、ジェンソン・バトン車に起きていた問題によって、はじめて彼らのパワーユニットRA615Hの全貌が明らかになった。そこでは、ホンダがいかに急進的な方法でパッケージを最小限にするべく踏み込んでいたのかが判明、そのレイアウトを英AUTOSPORTが解説している。
それによれば、ホンダは、昨年からターボチャージャーの分割手法(スプリット・ターボ方式:コンプレッサーをエンジン前部、タービンを後部に引き離して配置)を採用しているメルセデスとはまた異なる方法でターボを分割しているという。
まず、ターボチャージャーはエンジンの狭い“Vバンク”内に、MGU-Hに沿って置き、分割したコンプレッサーを前方の同スペース(Vバンク内)に配置(タービンは従来の形に近いエンジン後部に配置)。このレイアウトは、通常のコンプレッサーに代えて新たに独自開発した“軸流コンプレッサー”を採用することで実現しているという。
一般的に軸流コンプレッサーは、通常の遠心ファンと違い(タービンとコンプレッサーを連結する)シャフトに沿って一連の小さなファンがある形とされる(航空機のジェットエンジンなどに採用)。このような設計は、より速い回転を実現する一方で最大ブーストに欠ける可能性があるものの、燃料制限のあるフォーミュラではそれほど問題にはならないと推測される。
つまりホンダは、コンプレッサーとタービンをエンジン前後に分割、配置するメルセデス方式に対し、軸流コンプレッサーを採用することで分割したターボチャージャーをほぼエンジンの枠に収めるような方向でレイアウトしていると考えられる。その結果、ホンダのパワーユニットRA615Hは極めてコンパクトなパッケージを実現し、慣性モーメントや空力効果の面からドライバビリティの向上を図っているようだ。
ただ、彼らのタイトなパッケージは、振動や冷却面などで弊害を生んでおり、特に冷却を必要とするERSは信頼性の問題を引き起こしている。そのためホンダは、温度管理やスピニングシャフト周りのシール部から冷却材が漏れることを防ぐために、現在はエンジンパワーを制限することを強いられている。
しかしながら、彼らの基本的なパワーユニットの設計思想は理にかなったものと考えられており、最終的にはパワーと信頼性の両面で向上を果たすとみられている。そうなれば、マクラーレンの空力パッケージの進歩が完全な形で実現することになるだろう。