Aさんは、32歳の女性会社員。夫の度重なる浮気に嫌気が差して、離婚を決めた。しかし夫は態度をあいまいにしており、すぐには応じそうにないので弁護士を立てて交渉しようと考えている。
気になるのは、来年の春に小学校に上がる娘のこと。学校に入って友達ができてから、名字が変わることは避けたい。そこであと1年弱の間に、離婚を前提として名字だけでも何とか変えてあげたいとのことだ。
また、離婚後に元夫から子どもの養育費をもらうつもりだが、慰謝料を夫から取ると、その養育費の金額にも影響が出ないかと不安がある。
離婚は一方の求めで強制的にできる場合もある
そこでAさんは、夫には慰謝料を請求せず、浮気相手の女性だけに慰謝料を請求できないかと考えているという。相手の女性には夫もおり、それなりに資産があるのでお金を取れる可能性がありそうだからだ。
そんなAさんの願いだが、果たしてどこまでうまく行くのか。離婚の相談を数多く手がけているアディーレ法律事務所の島田さくら弁護士に聞いてみた。
――結婚する際には、お互いに結婚したいという気持ちをもって婚姻届を出しますよね。離婚の際にも、どちらか一方が離婚したいというだけで離婚することはできず、お互いに納得した上で離婚するのが基本です。これを協議離婚といいます。
もっとも民法770条は、一方の求めで強制的に離婚できる事由を定めています。その中には「配偶者に不貞な行為があったとき」、つまり夫が他の女性と肉体関係をもったときという定めもありますので、Aさんも夫に対して離婚を求めることができます。
ですので、ひとまずは弁護士さんにお願いして、夫に離婚せざるをえないということを理解させた上で、協議離婚をするというのが一番早いでしょうね。
離婚前に子どもの名字を変えることはできない
ただし、夫が不貞の事実そのものを否定したり、離婚を拒否したりした場合には、離婚調停や裁判を起こして、離婚する必要があります。調停の場合でも裁判の場合でも、月に一回程度行われる期日で主張、反論等を繰り広げる必要があるので、夫が臨戦態勢であれば、1年以上かかる可能性もあります。
離婚する前に、お子さんの名字を変えることは残念ながらできません。学校に入って友達ができてから、名字が変わることは避けたいというお気持ちがあるのであれば、お子さんの名字は離婚後も今のままにしておくということもできます。
よく、お子さんの名字は親権をとった側の名字になると思っている方もいるのですが、親権と名字は連動していません。ですので、Aさんがお子さんの親権をとった上で、自分だけ旧姓に戻ってお子さんは元夫の名字のままというのも可能です。
また、離婚したからといって、必ずしも旧姓に戻さなければならないわけではないので、Aさんも離婚してから3ヶ月以内に役所に届け出れば、元夫の名字をそのまま名乗ることができます。
浮気相手にだけ慰謝料請求することもできるが
慰謝料請求についてですが、元夫からは養育費をもらうため、浮気相手の女性にだけ請求したいという方もたくさんいますので、もちろん、浮気相手の女性にだけ慰謝料請求をすることも可能です。
不貞行為というのは、夫と浮気相手の女性が共同で不法な行為をしたことになります。共同不法行為の場合、被害者は、片方に損害賠償の全額を請求してもよいし、双方に請求してもよいということになっています(民法719条)。
ただし、浮気相手の女性にだけ慰謝料請求をして払ってもらった場合、今度は、浮気相手から夫に対して「あなたも悪いんだから少し払いなさいよ」と求める権利(求償権・きゅうしょうけん)が発生するので、結局、夫も慰謝料を払わされてしまう可能性はあります。
慰謝料を夫に請求するにしても、浮気相手の女性に請求するにしても、日本では離婚後の養育費の支払いが20%にも満たないというのが現実です。離婚の際は「養育費の取り決め」をしっかりとして、もしもの場合は夫の給与や預金を差し押さえることによって強制的に養育費を回収することが可能な、公正証書という書面を作成しておくというのもひとつの手ですね。
【取材協力弁護士 プロフィール】
島田 さくら
弁護士(東京弁護士会)。中央大学法学部卒業、大阪大学大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所所属。未婚で妊娠・出産し、一児の母。波乱万丈な人生経験をもとに、悩める女性の強い味方として労働問題、男女トラブルなど身近な法律問題を扱う。相談無料!弁護士が教えるパーフェクト離婚ガイド(アディーレ法律事務所)
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