岡山県真庭市はその8割を山林が占め、江戸時代から続く林業の町だ。しかし国内林業の低迷で最盛期には70以上あった製材所も、いまは32カ所に減っている。
2015年4月21日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)は、衰退しつつある林業に攻めの一手を講じ地域活性化につなげる動きを紹介した。福島明さん(77歳)は、代々受け継いできた山林を歩きながらこう肩を落とす。
「植えたときには『お金になる』という夢があったんですよ。それが、次第に単価が安くなっていって…」
製材工場では年2億円の電気代がゼロに
木を大きく育てるために、森林に光を入れる間伐作業をしなければならないが、切り倒した間伐材はお金にならないので山に放置している。間伐すらされず、手入れが行き届いていない山も多いという。
こうした状況に攻めの経営で挑んだのが、真庭最大の製材工場「銘建工業」の3代目中島浩一郎さん(62歳)だ。17年前、周囲に反対されながら木を燃料とする火力発電所「木質バイオマス発電」の施設をつくった。
中島さんは父親に「こんな大きなものをつくってどうすんだ」と言われたと笑う。山から伐採してきたままの丸太を住宅などに利用するには、外皮を剥き角材にしなくてはならない。剥いだ皮は焼却処分に年間数百万円、端材やおがくずを処分するのにも多くの費用が発生する。これを燃料として使えばエネルギーになるのだ。
この発電所のおかげで年間2億円かかっていた工場の電気代がゼロになり、電力会社に電気を売ることで年間5000万円の収入となっている。中島さんはこう語る。
「あの時(発電所を)やっていなかったら、いま会社があるか分からないくらい、やって良かったと思っています」
物理教師やスノーボーダーが「転職」
この成功をうけ、2年前、森林組合や市などが出資して日本最大級のバイオマス発電所の建設へと動き、この4月から稼動を始めている。発電所によって新たな地域雇用も生まれた。
発電所の新規雇用40人のうちのひとり、藤井瑞穂さん(50歳)は、今年3月まで県立高校の物理教師だった。30年近い教師生活を辞め、家族を残し単身赴任してまで転職した理由を、藤井さんはこう話す。
「環境問題に関心があって、自分がやりたい、やったらいいんじゃないかなと思うことを真庭でやっていた。僕にとってはすごく魅力的です」
木くずをチップに加工する作業をしている大戸英之さん(34歳)は、20代の頃にはプロのスノーボーダーを目指して北海道や長野を転々とする日々だった。30歳を過ぎ将来を考え始めたころ、生まれ育った土地で新たな事業が始まることを知った。
現在は両親と3人暮らしの大戸さんは、「豊富な森林資源をちゃんと使おうということで、間違いないことをやっているという思いはあります」と語る。
一方、山林では、これまでお金にならず山に放置していた間伐材を発電所に売ることで、月3万7000円ほどの現金収入になっていた。預金通帳を見せてくれた福島さんは「気分がいい」と嬉しそうだ。
山林にも山主にもいい循環
間伐が進めば日差しが差し込み、良い木が育つ。山林にとっても山主にとってもいい循環が回り出した。真庭バイオマス発電所は4月10日から稼働し、売電による収入は年間21億円が見込まれている。
地元に昔からあった産業を見直して資源として活用することで、地域にも環境にもいい仕組みを築けたことが素晴らしいと思う。なにより、発電所で雇用された人たちの言葉から、この仕事に誇りをもって携わっているということが伝わってきた。(ライター:okei)
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