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新規定導入2年目のスーパーフォーミュラ、揺れるニュータイヤ問題

2015年04月25日 18:00  AUTOSPORT web

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スーパーフォーミュラ開幕戦でPPを獲得した山本尚貴。開幕戦ではニュータイヤのセット数に関してさまざまな意見が飛び交った。
「大人の事情を抜きにすれば、個人的にはまったく理解できません」

 スーパーフォーミュラ開幕戦、予選前の記者会見で昨年チャンピオンを獲得した中嶋一貴がきっぱりと言葉にした。「理解できない」と話していたのは今シーズンのスーパーフォーミュラで使用できるニュータイヤのセット数に関して。今季は昨年の4セットから1セット少ない3セットで週末を戦わなければならなくなったのだ。端的に言えば、予選Q1~Q3に向けてニュータイヤを温存しなければならないため、練習走行でニュータイヤを履けず、週末を通して予選で初めてニュータイヤを装着するのが今年のスーパーフォーミュラのスタイルになった。

「(スーパーフォーミュラの)経験があるドライバーはともかく、今年入ってきたドライバーには不利になる」と、一貴は続ける。トラブルで予選Q2落ちしてしまった小林可夢偉も、この規定に異議を唱えた。

「僕、ルーキー中のルーキーですよ(笑)。(国内の)コースも知らないし、ニュータイヤも練習走行で使えない。どうしようかな、という状況です。それなのに予選でいきなり初めてニュータイヤというのは、ちょっとひどいですね」

 開幕戦でPPを獲得した山本尚貴も疑問を投げかける。

「ニュータイヤのグリップを確認せずに予選に行くのは、なかなか難しいものがある。本当に予選で最高のパフォーマンスを出すためには、フリー走行でしっかりとニュータイヤを履いた状態で確認できた方がいい」

 現在のスーパーフォーミュラは予選順位とスタートで勝負の7~8割は決まり、開幕戦の予選Q1ではトップから1秒以内に12台という僅差の戦いが繰り広げられた。予選のコンマ数秒が勝敗に直結するだけに、予選に向けてのアプローチはどのドライバーも細かく、それぞれのノウハウの蓄積の結果でもある。言うまでもなく、ワンメイクのドライバーズレースであるスーパーフォーミュラでは、その1周の予選アタックに懸けるドライバーの集中力やとことん速さを求め続ける姿がファンの心を引きつけるのであり、それがスーパーGTやハコ車と違うフォーミュラの醍醐味でもある。その予選までのアプローチに運やギャンブル性が高まる要素が加わってしまうのは、やはりドライバーだけでなく、ファンにとっても歓迎すべき事態ではない。

 次戦に持ち込むユーズドタイヤについても今後はドライバーによって使用頻度が違ってくることになり、今後は練習走行のタイムや順位の信憑性が薄れていくことになる。予選までのアプローチ、練習走行から予選までの流れを外部から追うことは難しくなり、予選順位の予想や、予選に向けてのプロセスやストーリーを楽しむという見方は奪われてしまう。

 このニュータイヤのセット数について、土曜の会見に出席したJRPの白井裕社長は「私としては基本的にはレースのタイヤはAスペック、Bスペックがあって、それをチーム側、ドライバー側がタイヤマネジメントをしながら予選でやっていくというのが理想だと思います。いろいろ事情があってこうなってしまったが、なんとか今季はこれで行きたい」と、理想と現実の苦しい立場を垣間見せた。白井社長の言葉からも、この問題がJRPだけでは解決できない、複雑な事情であることが察せられる。

 もちろん、「ニュータイヤに関してはみんな同条件だから、気にしていない」という意見も多い。F1チームでさえ財政事情が苦しい中、今年のスーパーフォーミュラのタイヤセット数の問題も予算を抜きにしては語れず、「仕方がないのではないか」という、いわゆる大人の事情としての現場の声があることは確かだ。

「それなれば、予選をQ1,Q2の2セッションにするべきではないか」と声を上げるのは、多くのドライバーたち。予選のセッションがひとつ減れば、練習走行でニュータイヤを投入することができる。実際、一時はこの方向で進めるという動きもあったようだが、結局は実現せずにQ3までのセッション採用となった。その理由は明らかになっていないが、F1を始め、現在のトップフォーミュラは予選Q3までのスタイルが世界のスタンダードになっており、国際格式としてのFIAへの体裁、そして、今季から変わったF1へのステップアップに必要なスーパーライセンスの発給条件への影響も懸念されたと推測される。

 開幕戦の決勝はスタートでトップを奪ったアンドレ・ロッテラーがそのままチェッカーを奪ったが、レース内容としてはニュータイヤの問題を忘れさせるほど、濃密な展開だった。オーバーテイクシステムは昨年の燃料流量5kg/hアップから10kg/hアップに倍増し、オープニングラップから終盤まで、接近戦&オーバーテイクが至る場所で披露された。さらにドライバーによって戦略が分かれ、前後のドライバーとピットタイミングを探り合うレースならではの面白さは昨年以上と言ってもよく、新規定2年目のレース内容としては十分、魅力的だったと言える。言い換えれば、だからこそ、ニュータイヤのセット数などの今年の変更点が、せっかくのハイレベルなレース・クオリティに水を差す事態にならないか懸念されるのである。

 予選後の会見でアンドレ・ロッテラーが「今年のスーパーフォーミュラはいろいろLess(減少傾向)だね」と、ジョークとも皮肉とも取れるコメントを残した。これはニュータイヤのセット数だけでなく、開幕戦のエンジンの流量制限が昨年より5kg/h下がってパワーがなくなったことも含んでいる。世界のさまざまなカテゴリーを知るロッテラーにとって、このコメントは2年目のスーパーフォーミュラのマシンパッケージを憂いてのことであることは間違いない。

 今季のタイヤ規定に関しての変更はないようだが、スーパーフォーミュラの今後については近々大きな動きがあるとも聞く。高評価のシャシー、エンジン、そして運営面を含めて昨年、最高品質のワンメイクカテゴリーとして世界に知れ渡ったスーパーフォーミュラ。次のステップに向けて、限られた状況の中で何を優先していくのか。ニュータイヤ3セットの今後の影響だけでなく、コース外での動静も見守りたい。