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「ろくでなし子さんの作品を見れば、わいせつじゃないとわかる」弁護団長インタビュー

2015年04月25日 13:21  弁護士ドットコム

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「わいせつなデータ」を不特定多数に送信したなどとして、わいせつ電磁的記録送信などの罪で起訴された芸術家「ろくでなし子」さんの裁判がいま、東京地裁(田辺三保子裁判長)で行われている。4月15日の初公判に続き、第2回公判は5月11日に予定されている。


【関連記事:【インタビュー】なぜ「ろくでなし子」は「女性器アート」を作るのか?(上)】



ろくでなし子さんは2013年、女性器をモチーフにしたボートを、ネットで寄付を募って制作した。その際、3000円以上を寄付した人たちに、自らの女性器をスキャンして作った「3Dプリンタ用データ」をネット経由で送ったり、そのデータが入ったCD-Rを郵送したりした。また、2014年には、女性器をかたどってさまざまなデコレーションを加えた「デコまん」という作品を、東京都内の女性向けアダルトグッズショップで展示した。



検察はこれらのデータや作品が「わいせつ」だとして、ろくでなし子さんを起訴した。しかし、ろくでなし子さんは一貫して「わいせつではない」と主張している。



裁判の争点は、いったいどんな点になるのだろうか? ろくでなし子弁護団の主任弁護人を務める須見健矢弁護団長に聞いた。



●「アウトの理由がわからない」


この裁判の最大の争点は、データや作品が「わいせつ」なのか、そうでないのかという点です。



私たちは「わいせつではない」と考えています。



正直なところ、なぜ警察・検察がアウトだと考えたのか、まったく理由が分かりません。たとえば、店舗に「デコまん」はいくつも展示されていましたが、そのうち3つだけが「アウト」という判断でした。その理由が、検察側からは示されていません。



――女性器をかたどったものでも、「わいせつ」ではないのですか?



データも作品も、実際に見ると「これをわいせつと呼ぶのか」と首を傾げざるを得ない外観です。実際に作品を見れば、わいせつではないとわかります。本来なら、一般の方にも作品を見て判断してください、と言いたいところですが・・・。



今回、検察側に問題とされたデコまん作品は、3つあります。そのうちの1つは、チョコレート色に彩色して、砂糖菓子のようなトッピングを乗せたもので、「スイーツまん」と名付けられている作品です。



他の2つのデコまん作品も「青色」と「白と黒のゼブラカラー」です。



いわゆるセックスや性交渉などのイメージとは、まったくかけ離れているものだと思います。普通の人がこうした作品を見たとき、本当に「わいせつ」だと思うのでしょうか。



●3Dデータはわいせつなのか


――それでは、3Dプリンタ用のデータは「わいせつ」ではないのですか?



「女性器をスキャンして作成したデータ」と報道されていますから、あたかも実物そっくりの「写真」のようなものだと考えている人もいるかもしれませんね。



しかし、3Dプリンタ用のデータは、写真や動画のファイルとはまったく違います。データをダウンロードするところまではできても、専用のソフトウェアがインストールされていない普通のパソコンでは直ちに開けないのです。



ましてや、3Dプリンタで出力して造形するには、それなりの手間を要します。しかも、実際に出力して出来上がる物は、無機質で生々しさがありません。



仮に専用ソフトウェアを手に入れて画像として表示したとしても、そこに表示されるのはあくまで「3次元の図面」様のもので、画像の見た目としても、女性器本来の質感や細部のディテールまでを視覚で感得することはありません。



――そもそも「わいせつ」とは何なのですか?



それが、まさにこの裁判で問われていることです。



刑法でいう「わいせつ」については、1957年の最高裁判決が示した「わいせつ3要件」という定義があります。それは次のようなものです。



(1)いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、


(2)普通人の正常な性的羞恥心を害し、


(3)善良な性的道義観念に反するもの



私たちは、今回のデータや作品が、この定義に当てはまらないと考えています。



●芸術作品であれば「わいせつ」ではない?


――性器をモチーフにしたものがアートと言えるのでしょうか?



ろくでなし子さんが制作しているのは、女性器をモチーフにした「アート作品」です。女性器をモチーフにしたアートは、日本ではまだ少ないかもしれませんが、世界の現代アートの中では決して「突拍子がないもの」ではありません。



ろくでなし子さんのもとには、海外メディアからの取材がたくさん来ています。その反応は「日本ではなぜ、この作品を取り締まるのか」というものが多く、ろくでなし子さんの作品を「芸術」としてみているのだろうと思います。



――芸術なら無罪なのでしょうか?



芸術作品なら無罪かというと、話はそう単純ではありません。しかし、その作品の持つ芸術性は、さきほどの基準に照らして、わいせつ性を否定する一つの要素になることは間違いありません。



●全体でひとつの「アート・プロジェクト」


――仮に「デコまん」がアートだとして、3Dプリンタ用のデータはどうですか?



そもそも、ろくでなし子さんは、女性器の形をしたボート「マンボート」を作って、それで川下りをするというアート・プロジェクトを思いついたんですね。そして、ネットで資金を集める「クラウドファンディング」という仕組みを使って寄付を呼びかけ、黄色いマンボートを制作し、川に浮かべました。



彼女にとってみれば、資金を集めるところから、ボートで進水式を行うところまで、全体でひとつのアート・プロジェクトなのです。



問題とされた3Dデータは、そのボートを作るためにつくったデータで、3000円以上の寄付をした人たち、つまりアート・プロジェクトの参加者に対して、参加者たちにも新しい作品をつくってもらいたいという思いで提供したものです。そういうものも含めて、アート・プロジェクトなんですよ。



いまでも、ろくでなし子さんが資金募集をした際のページが残っていますが、「みんなで面白いものを作ろう」というコンセプトで、決してエロいものではない。それは明白だと思います。



――アート・プロジェクト全体で判断すべきということですか?



そういうことです。



つまり、文脈から離れた「データ」だけをことさらに取り出してみるのではなくて、アート・プロジェクト全体、作品がつくられた過程全体を見てからわいせつかどうか、判断すべきでしょう。



●175条は「非常にあいまい」


――わいせつ物等頒布を処罰する「刑法175条」が合憲かどうかについても、裁判で争うのでしょうか?



そのつもりです。



表現の自由に対する不当な制約であることを理由として憲法21条違反、「わいせつ」の定義があいまいであることから「罪刑法定主義」に違反することを理由として、憲法31条違反を主張していきます。


(弁護士ドットコムニュース)