バーレーンGPレース終盤、ニコ・ヒュルケンベルグをオーバーテイクしたフェリペ・ナッセがアロンソの背後に迫って来る。アロンソのタイヤはソフトでナッセのタイヤはミディアムだが、2ストップのアロンソに対して3ストッブのナッセのタイヤは、アロンソよりも6周フレッシュな状態だった。その差が徐々に詰まっていき、ナッセがアロンソのDRSゾーンに入ろうとしていたとき、1分40秒台に落ちていたアロンソのペースが1分39秒台に復活する。
「燃料を気にしながら走ってもらっていましたが、最後になって(燃費に問題がないという)見通しが出たので、プッシュさせました」
バーレーンGPは4本のストレートを低速コーナーで結んだ典型的なストップ&ゴー型のサーキット。アクセルのオンとオフを繰り返すため、燃費は全19戦中で最も厳しくなるグランプリのひとつである。レース前、新井総責任者は「厳しいレースになる」ことを覚悟していた。
そんな状況のもと、アロンソは中団グループ内でポジションを争うレースを展開。セーフティカーが導入されることもなく、燃費は、さらに厳しい状況となっていった。それでもホンダはギリギリのところで燃料使用量を調整、100kg以内で走りきることに成功した。
レース終盤、チーム側からアロンソに伝えられたのは後続との差だけではない。アロンソは11番手を走っており、ひとつ前のポジションにいるマッサのペースが急激に落ちていることも無線で伝えられていた。つまりマクラーレン・ホンダは今シーズン初めて、入賞を目前にしたポジションで戦っていたのである。
「なかなか、いいレースだった」と言いながらも、新井総責任者の表情は冴えない。バトンのマシンは土曜日の予選で発生した電気系トラブルを解決できず、レースに出られなかったからだ。
決勝日に新井総責任者はバトンのパワーユニットを交換していると語っていたが、結局は出走を断念することになった。
「電気系のコンポーネントを交換してエンジンをかけたんですが、データ的に、このままレースをすると止まる可能性が出てきたのでレースを断念する決断をしました。まだ原因は詳しく調べられていないから何もわかりません。ただ、電気はパワーユニットの一部である電池(ES=エナジーストア)から供給されているので……。いずれにしても、レースに出られなかったバトンには本当に申し訳ないことをしたし、アロンソにしても、ポイントはあと一歩のところで獲得できなかったので悔しい思いです」
考えてみれば、ホンダは開幕戦でも1台はレースをスタートできず、もうひとりが11位で完走している。しかし、バーレーンでの内容は3戦前とは大きく違う。最も違っているのは、マクラーレン・ホンダのスタッフの意識である。11位完走に満足している者は、もう誰ひとりいない。それがバーレーンGPで得た収穫だった。
(尾張正博)