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F1バーレーンGP決勝分析:タイヤを味方にしたフェラーリ。しかし気になるバトルの“弱さ”

2015年04月20日 12:40  AUTOSPORT web

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ロズベルグを交わし、2位の座を手中にするキミ・ライコネン
ルイス・ハミルトンが今季3勝目を挙げたバーレーンGP。今回も、ハミルトンが強さを見せつけましたが、メルセデスAMGとフェラーリの接近戦は、非常に見応えあるものでした。速さに勝ったのはメルセデスAMG。しかし、フェラーリの2台が戦略によって、その最速チームを苦しめたのです。中でも、特筆すべきシーンがふたつありました。それを分析してみることにします。

 まずひとつめは、セバスチャン・ベッテルによる2度の“アンダーカット”です。アンダーカットとは、先行するライバルよりも先に新しいタイヤに交換し、その性能を最大限に活かして、順位の逆転を狙う……という作戦。今回のレース中、ベッテルは2度にわたり、メルセデスAMGのニコ・ロズベルグをアンダーカットしてみせました。

 ベッテルはまず13周目終了時点でピットイン。続く14周目終了時点でロズベルグもピットインするのですが、12周目の時点で1.7秒あった差を逆転し、ベッテルが2番手に上がり、ロズベルグが3番手に下がっています。

 ベッテルはこの時、タイヤを交換したことで、ラップタイムを1周あたり約3秒跳ね上げています。この効果で、ベッテルはロズベルグのポジションを奪い取ることができたわけです。メルセデスAMGがこれを避けるのは、まず不可能だったと言えるでしょう。

 最初のアンダーカットは仕方ないとしても、2度目のアンダーカットは不可解です。ベッテルは32周目終了時点で2度目のピットインを行い、タイヤをソフトからミディアムに交換しています。メルセデスAMGはこれに反応して翌33周目にロズベルグをピットに迎え入れると思いきや、先にハミルトンを呼び込み、ソフトからミディアムへタイヤを交換しています。ロズベルグをピットに入れたのは、ベッテルのタイヤ交換から2周遅れた34周目。これでロズベルグは、ベッテルの先行を許してしまいます。

 今回のメルセデスAMGは、コース上でフェラーリを比較的簡単にオーバーテイクすることができたため、ロズベルグが受けるダメージは大きくはありませんでした。しかしこの選択は、命取りになる可能性もありました。

 中国GPのように、先にロズベルグを入れ、ハミルトンを次に入れるという戦略を採っていれば、ベッテルのアンダーカットは防げたはずです。しかも、もしかしたら最終的にライコネンに2位を奪われることも、避けられたかもしれません。メルセデスAMGは「どうせすぐに抜けるだろう」と思っていたのかもしれませんが、ちょっと疑問の残るシーンでした。

 フェラーリがメルセデスAMGを苦しめた要因“その2”は、ライコネンのタイヤ戦略です。ハミルトン、ロズベルグ、ベッテルの3人は、ソフト→ソフト→ミディアムという順序でタイヤを履きました。しかし、ライコネンだけはソフト→ミディアム→ソフトという順番にタイヤを履き、最終的にはロズベルグを抜いて2位表彰台を獲得しています。

 なぜこの戦略が成功したのか? ひとつにはライコネンがミディアムを履いた第2スティントのペースが、非常に速かったということが挙げられます。当初、ソフトタイヤの方がミディアムタイヤよりも、1周あたり1.5~2秒程度速いと思われていました。しかし、第2スティントのライコネンのペースは、ソフトタイヤを履く3人と比較しても、同等かそれ以上の内容でした。しかもミディアムタイヤのデグラデーション(タイヤの性能劣化によるラップタイムへの影響)は小さく、その結果上位との差は縮まり、さらにより長い距離を走ることに成功しました。ライコネンはこの時、ミディアムタイヤをいたく気に入り、最終スティントでもミディアムを履くことを希望します。しかし、チームの選択は“ソフト”。ライコネンはこれに反対しますが、結局チームの判断とおりソフトを履き、それが功を奏すことになります。

 そして最終スティント。ミディアムはソフトに比べて長持ちするはずでしたが、走行開始直後から、ハミルトン、ロズベルグ、ベッテルのラップタイムは急激に下落。例えばロズベルグは1周目には1分37秒台前半だったものが、6周も走ると1分39秒台にまで落ちてしまいます。これはハミルトンもほぼ同じ。つまりデグラデーションが非常に大きかったのです。

 対するライコネンはソフトタイヤを履き、1分36秒台前半で走りはじめ、ソフトタイヤの性能を最大限活かして飛ばします。このソフトタイヤはデグラデーションがミディアムよりも大きいはずでしたが、なかなかタイムが落ちることはなく、走り出しから13周目にようやく1分38秒台に落ちるという程度。そのデグラデーションは、なぜかミディアムよりも小さく、ハミルトン、ロズベルグとの差をみるみるうちに詰め、最終的にはロズベルグを攻略して2位表彰台を奪い取っています。

 どうしてこのような状況になったのか? 気温がライコネンのタイヤ選択に味方したのか、ハミルトンやロズベルグがスティント前半にタイヤを酷使しすぎたのか……それは分かりませんが、少なくとも今回のライコネンは、特に第2~第3スティントで非常に上手くタイヤを使ったと言うことができると思います。ライコネンの第2スティントのタイヤ戦略には、“順位を上げるためには他と違う戦略を”というギャンブル的側面もあったはずです。しかしこれがズバリ的中し、自身の今季初表彰台をたぐり寄せたわけです。

 ところで、今回のレースでは、フェラーリの弱点も見えたように思います。それは、コース上でのバトルに対する弱さです。フェラーリのふたりは、スタートでロズベルグの前に出たにも関わらず、ベッテルもライコネンもあっさりとオーバーテイクを許してしまいます。その上アンダーカットを成功させても、ベッテルはロズベルグにあっさりと抜かれてしまいます。ペース自体はそれほど変わらないのに、です。さらにはノーズ交換で順位を落とした際、ベッテルは圧倒的にペースの劣るバルテリ・ボッタス(ウイリアムズ)ですら抜くことができず……結局5位でフィニッシュせざるを得ませんでした。

 ロングランでのペースの良さなど、確かに今年のフェラーリには大きな強みがあり、今後もメルセデスAMGを苦しめるはずです。しかし、コース上で抜いたり、防戦したりするための力が劣っているような印象を強く受けました。強みはあれど、組み伏せ易い相手……それが今年のフェラーリなのかもしれません。

 ところで、ライコネンと同じような戦略を採り、順位を大きく上げたマシンが、後方にも1台いました。それが、マクラーレンのフェルナンド・アロンソです。アロンソもライコネンと同じく、ソフト→ミディアム→ソフトとタイヤを繋ぎました。その結果、一時15番手まで下げたものの、最後には11位まで上げてフィニッシュしています。10位のフェリペ・マッサとは3秒台の差。マクラーレン・ホンダは戦略を成功させたのもさることながら、そのポテンシャルが上がっているのも間違いないところ。最終的にはボッタスやダニエル・リカルド(レッドブル)、フェリペ・ナッセ(ザウバー)らと同等のペースで走っていたことも、その開発が順調に進んでいることを現していると思います。

 その他中団グループ以降で特筆すべきはロータスでしょうか? 特にパストール・マルドナドは、3ストップ作戦を選択し、いずれのスティントでも、ライバルを圧倒する速さを見せていました。ピットストップ時にトラブルがあった影響で順位を落としてしまったものの、そのペースは秀逸。チームメイトのロマン・グロージャンと共に、上位に顔を出してくる日も近いでしょう。

 メルセデスAMGのハミルトンが、今季3勝目を挙げたバーレーンGP。メルセデスAMGの強さは否定のしようもないところですが、それでもフェラーリとの差はわずかで、今後も手に汗握る戦いを見ることができそうです。特に今回のように、タイヤの反応が当初の想定とは異なった場合など、フェラーリの勝利の可能性は増すことになるでしょう。ただ、フェラーリのコース上でのバトルに対する“弱さ”は、非常に気になるところで、今後のチャンピオンシップに大きな影響を及ぼすことになるかもしれません。
(F1速報)