2015年04月19日 12:21 弁護士ドットコム
いつの頃からか、男性が美容室でヘアカットするのは、ごく普通の風景となった。しかし、厳密には、美容室で男性の「カットだけ」をするのは「法令違反」なのだ。なにか具体的な害があるとは思えない行為だが、約40年前の厚労省の通知によって「違法」とされているのだ。
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弁護士ドットコムニュースで、<安倍首相の「美容室でカット」は違法?「男の散髪」をめぐる奇妙なルール>という記事を3月に掲載したところ、大きな反響があった。一般の利用者からは、「え、違法だったの?」という反応も数多く寄せられた。
ややこしいのは、自治体によって、美容室への指導や監督をどれだけ強くおこなうのかが異なっていることだ。東京都のように「男性のヘアカットのみ」を黙認している自治体もあれば、厳しく取り締まる高知市のような自治体もある。
そのため、当事者の理容師・美容師はもちろん、客の立場からしても「いったい、どうすれば良いの?」との困惑がうまれている。
そこで、東京都の理容師約4500名が加盟する「東京都理容生活衛生同業組合」の常任理事で、理容店「Hair Life INABA」代表の稲葉孝博さん(54)に、現場の理容師たちはどのように考えているのか、話を聞いた。
そもそも、理容室と美容室は、取り締まる法律も、それぞれが規定する「仕事内容」も違っている。
1947年(昭和22年)に制定された「理容師法」は、理容師の仕事を「頭髪の刈込、顔そり等の方法により、容姿を整えること」(理容師法第1条の2)とする。一方の「美容師法」は、1957年(昭和32年)に制定され、「パーマネントウエーブ・結髪・化粧等の方法により、容姿を美しくすること」(美容師法第2条)と規定した。
このような違いがあるのだが、現代の感覚では「整える」と「美しくする」にどんな違いがあるのか、理解に苦しむ。この点について、稲葉さんは次のように指摘する。
「古くは理容師も美容師も同じ免許でしたし、理容師と美容師の仕事は、そもそも垣根がないと考えています。大きな違いは、シェービングができるか、できないか、でしょう。理容室とは、カットだけでなく、シェービングもできるヘアサロンだととらえています。
男性が美容室へ行くのは時代の流れでもありますから、仕方がないとも思っています。もちろん『美容室で男性のカットのみをするのは問題ではないか』と聞かれたら、『違法です』とは答えますが・・・。それを禁じた1978年の厚労省通知については当然、時代にそぐわないと捉える人もいるでしょう」
しかし、東京都の理容組合としては、「ことさら『男性のカットのみ』をおこなう美容室に対して、『違法だ』というつもりはありません」と、稲葉さんはいう。
同じ「髪を切る職業」なのに、「理容師」と「美容師」の資格がわかれていることで、やりづらくないのだろうか?
「最終的には、理容師と美容師の垣根をなくし、一緒にしていくしかないとは思います。それが実態に近いのですし、グローバルスタンダードともいえます。先進国で、理容室と美容室がわかれているのは、台湾、韓国、日本くらいだと聞きます。
しかし、両者の垣根をなくすなら、お客様の安全、衛生のために、美容師のシェービング技術の取得は必要なことです」
現実的に資格が統一される可能性はあるのだろうか。当事者からの反発があるのではないかと想像するが・・・。
「一昨年、美容師と理容師の免許一体化について、組合に所属する東京都の理容店経営者約400人を対象にアンケートをおこなったところ、『51%の理容師が免許一体化に賛成』との結果が出ました。賛成が反対を上回るのは、意外な結果でしたね。特に若い理容師の賛成が多かったですが、それだけ危機感があるのだろうと感じています」
そのアンケートは「新しい時代の理容のビジョン」を作るために実施されたという。東京都の理容組合として、一本化に向けて積極的に働きかける予定はないそうだが、もし一本化するとしたら、全国の理容組合と美容組合の調整も必要となるだろう。おそらく、そこが一番の難関となるはずだ。
「いずれにせよ、選ぶのはお客様です。理容師、美容師ともに共通する仕事があり、そこにプラスしてシェービングの免許、着付けの免許など、ヘアサロンとして特色を出していくこともできるはずです」
(弁護士ドットコムニュース)