2015年04月19日 10:41 弁護士ドットコム
職場にどっしりと根を下ろし、同僚の一挙手一投足を監視しては、ケチをつける厄介な「古株社員」。そんな古株の女性同僚2人のせいで「自律神経失調症になってしまった」という会社員のY子さんから、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに「2人を訴えたい!」との相談が寄せられた。Y子さんによれば、次のような嫌がらせを受けているそうだ。
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・挨拶しても無視される
・女性社員のランチ会に、Y子さんだけを誘わない
・担当外の仕事なのに、「Y子さんが仕事をしない」と他の部署にまで言いふらされる
1つ1つは些細なことだ。しかし、職場でどんな陰口を言われているかわからない恐怖感から、Y子さんは体調に異変を覚えるようになった。先日、メンタルクリニックで自律神経失調症と診断されてしまったそうだ。
こうした些細な「嫌がらせ」でも、裁判に訴えて、何か請求できるのだろうか。職場の労働問題にくわしい加藤寛崇弁護士に聞いた。
問題の女性同僚2人は、社歴で10年以上の先輩で、「上司と部下」という関係ではない。こうした場合でも、2人の行為は「パワハラ」といえるのか。
「同僚らの行為は、いわゆるパワハラに該当するといえるでしょう。パワハラについては、法律上の明確な定義はありません。加害者が上司でない場合や物理的な暴力がない場合でも、該当すると考えられています」
では、Y子さんはどんな方法で、同僚の2人に反撃できるのだろうか?
「会社でパワハラを受けた場合、パワハラ行為をした個々の従業員に対して、あるいは会社に対して、裁判で損害賠償を請求することができます。もちろん、従業員・会社の両方を相手方とすることも可能です」
同僚や会社に損害賠償の請求をした場合、賠償額はどのくらいになるのだろうか。
「残念ながら今回のようなケースでは、傷病(自律神経失調症)とパワハラとの因果関係が認められないこともあり、また、パワハラ行為のすべてを証明できるとは限らないので、十分な賠償額にならないことも少なくありません。
一例として、私が代理人となったケースで、派遣社員が派遣先で『殺すぞ』『あほ』などといった言葉のいじめを受けていた事件があったのですが、高裁判決で認められた慰謝料額は30万円にとどまっています。
もし同じ会社で働き続けるのであれば、損害賠償を請求することで一定の抑止効果がありうるとしても、必ずしもパワハラの根本的な解決にはなりません」
では、パワハラを根本的に解決するために、どんな手段があるだろうか。
「会社には、労働者が働きやすい職場環境を保つよう配慮する義務があります。まず、会社に対して、同僚らの行為の是正を求めるのが適当でしょう。
是正されない場合ですが、訴訟を起こすよりも前に、労働組合に入って、団体交渉で職場環境の是正を求めるなどの手段をとるほうが、今後の適正な職場環境を保たせるうえで実効的だと思います。
そこまでしても解決しないときに、最後の手段として『訴訟』などの法的手段を検討すべきでしょう」
加藤弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
加藤 寛崇(かとう・ひろたか)弁護士
東京大学法学部卒。2008年弁護士登録(三重弁護士会)。労働者側で多数の労働事件を扱う。日本労働弁護団、東海労働弁護団に所属。
事務所名:三重合同法律事務所
事務所URL:http://miegodo.com/bengosi-pro6.html