2台そろって完走を果たした中国GPから5日後、バーレーンGPのマクラーレン・ホンダはトラブルで幕を開けた。フリー走行1回目が始まって4分後、2周目のラップに入った直後の1コーナーで、ジェンソン・バトンが駆るMP4-30が突然ハーフスピンし、止まってしまった。
理由は「電源が落ちてしまった」(ホンダ新井総責任者)からだった。しかし、それは結果であって、真の原因はその時点ではわからない。これまでもトラブルはいくつか経験してきたが「ウインターテストを含めても、初めて」というトラブルだった。
バーレーン・インターナショナル・サーキットはコース脇にサービスロードが1周に渡って設けられているので、マシンがセッション中にコース上で止まっても、クレーン車に乗せられてピットまで帰還することが可能だ。バトンのマシンもフリー走行中にマクラーレンのガレージに帰ってきた。しかし、スターターでエンジンをかけようにも電源が入らない。
次のセッションまで約3時間。原因を特定するには、あまりにも時間が足りない。そこでホンダのスタッフは、電源に関係する部位であるエナジーストア(ES=いわゆるバッテリー)と、コントロールエレクトロニクス(CE)と呼ばれるパワーユニットを制御する部分だけをパワーユニットから切り離し、新しいものに交換した。
こうしてバトンはフリー走行2回目の開始18分後にコースイン。だが、3周目に再びコースで止まった。しかし、これはホンダ側からの指示だった。
「パワーユニット全体を(テレメトリーで)モニタリングしているんですが、その一部に不安定なデータが見つかったので大事をとって止めました」(新井)
再びガレージに戻ってきたバトンのマシンをチェックするが、不思議なことにデータには問題が見つからなかった。そこで、ホンダはとりあえずバトンにインスタレーションラップとして1周走らせたところ、データは正常だった。セッション終了まで時間も迫っていたので、今度は燃料を積んで連続走行を行わせると、そこでも問題は起きず、結局バトンはセッション終了まで走り続けた。
だが、新井総責任者は「それが一番怖い」と眉をひそめる。問題は、時間がないことだった。現在のパワーユニットは非常に複雑で、サーキットの現場でコンポーネントを分解して確認するほどの時間はない。だからといってパワーユニットごと交換すると、使用可能な年間4基という数をひとつ消化してしまうことになる。不安を抱えながら2日目に臨むのか、あるいは思い切って、新しいコンポーネントを投入するのか。
初日はフェルナンド・アロンソが順調にプログラムを終えて12位につけているだけに、バトンの原因不明の「不安定なデータ」だけが、マクラーレン・ホンダにとっては唯一、そして最も気がかりな問題だ。
(尾張正博)