4月17日、F1と併催のバーレーンで2015年GP2シリーズが開幕し、フリー走行と予選が行われた。日本からは昨年の全日本F3チャンピオン松下信治が参戦、ルーキーにもかかわらず予選2位の好結果を挙げて注目を集めた。
「ホッとしたっていう気分ですね。別にうれしくはないです。ちゃんと走れれば、いまの実力はこのくらいなんだなという感じですね」
松下は予選結果に大喜びする様子もなく、ただ淡々と語った。
開幕直前のバーレーン・テストで3日間にわたって走り込み、1度はトップタイムも記録していた。そのとき本人が課題だと感じていたのはブレーキングだったという。ピレリタイヤの不安定さもあり、GP2で初体験のカーボンブレーキの性能を引き出し切れていなかったのだ。
「フリー走行ではまだブレーキングが詰め切れていなくて、予選で調整していくしかないなと思っていました。ロックするのを恐れてしまうがゆえに奥までいけないし、早めにブレーキをリリースしてコーナリングスピードが速くなりすぎてしまってアンダーステアで曲がれないという、典型的な失敗をずっとしていたんです」
予選は30分間のセッションで2セットのオプションタイヤ(ソフト)を投入し、それぞれ計測2周で計4回のアタックを行うプラン。夜のセッションで路面温度が下がったこともあってタイヤのグリップは安定したが、松下自身が攻め切れなかった。
「1回目のアタックでは全然攻めていけませんでした。グリップレベルは高いのに、ストフェル(バンドーン)と較べたらブレーキが全然奥までいけてなかった。『もっと行けるんだ!』ってわかったんですけど、2周目はもうタイヤが少しタレてきていたのでタイムは出せなくて、2セット目のタイヤの1周目でそこだけ詰めたらタイムが一気に良くなりました」
全車が1回目のアタックを終えた時点で、松下は12位。首位の僚友ストフェル・バンドーンとは0.948秒の差を付けられていた。しかし2セット目のオプションタイヤを入れたところで松下はアグレッシブな走りを見せ、僚友に0.308秒差まで詰めた。これでポールポジションはバンドーン、そして松下が2番手となり、ARTのフロントロウ独占が決まった。
それでも松下は満足していなかった。上位に食い込むのは当然のことで、レースであるからにはチームメイトにも勝ちたいという思いで臨んでいたからだ。
「満足はしていないですね。1回目のアタックで(完璧なタイムを)出すべきところがチームメイトに対して1秒くらい違ったし、あそこでもうちょっと良いところへいけていたら、2回目さらに進めたと思うし、そうしたら結果はどうなっていたかわからなかった(ポールが獲れていたかもしれなかった)なと思うんで」
バンドーンとの差は「何かひとつではなく小さなことの積み重ね」だと松下は言う。
しかし、あちらはマクラーレンの育成ドライバーでありGP2シリーズ2年目でチャンピオン獲得を目指す存在、かたや松下はF3からステップアップしたばかりのルーキーでしかない。それでも「予選5位以内にはいけるんじゃないかと思っていました」と当たり前のように語る松下には、これまでの日本人ドライバーにはなかったような図太さを感じる。
松下を育成するホンダから依頼されてアドバイザーとして現地に赴いた鈴木亜久里と松浦孝亮も、チームとのコミュニケーション面をサポートしながらも「ものすごく落ち着いてリラックスして臨んでいるし、まわりに流されることなく自分の仕事に集中できる日本人離れしたところがある」と、松下の素養を高く評価している。
フロントロウからスタートする明日のレース1をどう戦うかと尋ねると、松下は当然のごとく勝利を狙うと力強く語った。
「レースはいかにタイヤをセーブするかということに尽きるので、ウチのチームはレースペースは悪くないんで良いところで走れると思っていますし、あわよくばチームメイトと勝負ができればと思っています。タイヤマネージメントの上手さに関してはストフェルのほうが1年の経験があるぶんうまいですし、もともと繊細なドライバーだと思うので、そこにいかに勝負できるかですね。自分でも楽しみにしています。できれば勝ちたいですね」
土曜の決勝レース1はF1のフリー走行3回目の直前、灼熱の午後1時10分(日本時間19時10分)にスタートを迎える。激しいことで知られるGP2のレース本番で、松下がどんな走りを見せてくれるのか楽しみにしたい。
(米家峰起)