バーレーンGP開幕前日の4月16日、多くのカメラマンにレンズを向けられていた者たちがいる。メルセデスのふたりのエグゼクティブディレクター、トト・ウォルフとパディ・ロウだ。カメラに囲まれていたのは、彼らがチームホスピタリティ内ではなく、パドック中央に設置されている中東風のベンチに腰掛けて話をしていたからだった。中国GPレース後にニコ・ロズベルグがルイス・ハミルトンのレース運びを非難していたので、渦中のチーム首脳陣のツーショットはメディアにとって絶好のネタとなった。
何を話していたのかウォルフに尋ねると「通常のミーティングをしていただけ。エンジニアリングルームは冷房が効きすぎていたから、それを外に出てやっていただけだよ」と笑ったが、他のエンジニアは誰ひとりとして外で話していなかったことを考えると、ホスピタリティ内で話しづらい問題を話し合っていたとも考えられる。ちなみに、ふたりの話し合いは、ゆうに1時間は続いていた。
しかし、木曜日にFIA会見に出席したハミルトンは次のように語り、中国の一件を過去のものとした。
「その件については中国のレース後に話し合って、もう済んだこと。一部の人たちが好きなように解釈して楽しんでいるようだが、僕らにとっては終わったことだ。今朝もニコに会ったし、僕たちの関係に問題はない。もちろんレースをしていれば、誰かが不満を感じることはこれからもあるだろう。でも僕らは大人だし、いつまでもそれを引きずってばかりはいられない。前に進まないとね」
あるメルセデスのエンジニアも、チーム内ではまったく問題はないと語る。
「中国GPのペースは、レース前にみんなで確認していたことなんだ。マレーシアGPを教訓にして、レースペースを意図的に抑えていたんだよ。日曜日に路面温度が40℃以上になることはわかっていたから、マレーシアの二の舞になる可能性があった。だからルイスのレース運びには、なんの疑念もない。むしろ、よく我慢したと称えたい」
また、ハミルトンには中国GPでの「もうひとつの一件」でも注目が集まった。表彰式でプレゼンターにトロフィを渡す役を務めていた女性にシャンパンを浴びせたことに対して、ある女性団体が非難の声明を出していたことだ。ハミルトンは、そのことをバーレーンに来るまで知らなかったという。
「バーレーンに来て報告を受けて、それを知った。でも、深刻には考えていない。だって僕は彼女を侮辱しようとしてシャンパンをかけたわけではなく、喜びを分かち合おうとしてやっただけ。F1はモータースポーツの頂点。そこで勝利したんだから、表彰式で盛り上がるのは当然だよ」
当のシャンパンをかけられた女性も、すでに地元紙に「私は気にしていない」と語っており、ハミルトンも「彼女がそう言ってくれたので、安心している」と発言。中国での事件はすべて過去のものとなり、バーレーンGPへ気持ちを切り替えていた。
(尾張正博)