2015年04月17日 13:11 弁護士ドットコム
フィリピンで少女らとのわいせつな行為を撮影し、デジタルカメラに画像を保存していたとして、横浜市内の公立中学校の元校長(64)が4月上旬、児童ポルノ法違反の疑いで神奈川県警に逮捕された。14歳から70歳までの女性1万2000人あまりを買春していたとみられている。報道によれば「女性の1割は18歳未満だったと思う」と供述しているそうだ。
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元校長は、1975年に横浜市に教員採用され、1988年から3年間、マニラにある日本人学校に赴任していた。その後、2011年3月に定年退職したが、1年間、教諭として再任用されていた。横浜市教育委員会は、この元校長に対し、約3000万円の退職金全額を返還するよう請求する考えだという。
退職金の「返還請求」というのは、あまり聞かないが、制度として定められたものなのだろうか。横浜市教育委員会の教職員人事課に話を聞いた。
「(元校長は)横浜市の教員ですが、神奈川県さんから給与をもらっています。そのため、神奈川県の条例『職員の退職手当てに関する条例』15条にのっとり、在職期間中の行為だったことから、退職金の返還請求を行う考えです」
この条例の15条では、退職金の全額または一部の返納を命じられることがあると定めている。今回のケースでいえば、15条にある次の2つの項目が、返還請求できる根拠となるとみられる。
(1)当該退職をした者が基礎在職期間中の行為に係る刑事事件に関し禁錮以上の刑に処せられたとき。
(3)任命権者が、当該退職をした者(再任用職員に対する免職処分の対象となる職員を除く。)について、当該一般の退職手当等の額の算定の基礎となる職員としての引き続いた在職期間中に懲戒免職等処分を受けるべき行為をしたと認めたとき。
ところで、退職金は約3000万円と高額だ。退職から約4年が経ち、目減りしていても不思議ではないが、担当課長は「家財を処分するなど、資産売却していただいても、お支払いをいただくつもりです」と、力強く語っていた。
退職後に「在職中の犯罪」が発覚した場合、民間企業OBでも、退職金の返還を求められることがあるのだろうか? 企業法務に詳しい高島秀行弁護士は「退職金規程の定め方しだいで、結果に大きな違いがある」と指摘する。
「民間企業で働いているサラリーマンが退職し、退職金を受け取った後になって、在職中に刑事事件を起こしていたことが発覚した場合、企業から退職金の返還請求を受けるかどうかは、勤務していた企業の就業規則の退職金規程の定め方によります。
一般の退職金規程では、『懲戒解雇となったときは、退職金を支給しない』と定めてあります。しかし、『退職後は、さかのぼって懲戒解雇できない』というのが判例ですから、このような規程の企業の場合、退職金の返金請求はできません。
ところが『在職中に懲戒解雇が相当である事由が発生したときは、退職金を支給しない』と定めている企業もあるでしょう。その場合、発覚が退職後だったために懲戒解雇ができなくても、企業はOBに対し、退職金の返金が請求できることとなります」
「教職」への信頼を失墜させた元校長への返還請求は当然のことに思えるが、民間企業の従業員であっても「もらい逃げ」できるとは限らないようだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
高島 秀行(たかしま・ひでゆき)弁護士
「ビジネス弁護士2011」(日経BP社)にも掲載され、「企業のための民暴撃退マニュアル」「訴えられたらどうする」「相続遺産分割する前に読む本」(以上、税務経理協会)等の著作がある。ブログ「資産を守り残す法律」を連載中。http://takashimalawoffice.blog.fc2.com/
事務所名:高島総合法律事務所
事務所URL:http://www.takashimalaw.com